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2-12 勇者は限界でした

 転移魔法が発動すれば、目的地に到着するのは一瞬だ。

 けれども新には、今回だけその一瞬がとても長く感じられた。


 まず、クレスが目覚めているかどうか。

 回復魔法があるものの、まだ新の胸には魔法の存在が浸透しきれていなかった。

 クレスの容体がどうしても気になってしまう。


 そして目覚めたとしても、それはそれで自分の立場を明かす必要がある。


 世間から魔王に対しての敵視はそこまで浅いものではない。

 皇女誘拐だけではなく、勝手な情報や噂も流れるほどだ。

 さらには魔族全体へのヘイトが高まり、一部の過激派はそれらも排除するべきだと訴え始めている。


 クレスなら理解してくれる――新はそう思いつつも、やはり不安を奥深くに潜めていた。


 そんな心境の中で魔王城への転移が完了する。

 果たして、クレスと魔王は仲良くできるのだろうか――。


「――そしたら、僕が特に何かしたわけでもないのに相手の子が泣いちゃったんですよ。この身分のおかげで子供の時の友達は0人! 貴族なんて言っても、同じ人間なのに……」

「わかるー! 我もな、魔族の森に帰ってみたら誰一人として目を合わせてくれなくてな。全員が(こうべ)を垂れ、何度言っても上げることはなし。それだと会食もできんわ!」


 めちゃくちゃ仲良くなっていた。


「あ、じゃあこれから僕の家行きます? 友達にごちそうを振る舞うのが夢だったんですよ」

「な!? つまりそれは、我のことを友達と認めることになるではないか!」

「ダメでしたか……?」

「ダメじゃない! もうマブダチ!」


 新はこの状況に至った理由の候補が3つ思い浮かんだ。


 その1。

 クレスの器が広すぎて和解できた。


 その2。

 シュベールの話術がうまくて和解できた。


 その3。

 二人ともいい意味でアホだった。


 ――絶対に3だ、コレ。


 目の前に広がっているのは完全にお花畑。

 片方が笑えばもう片方が笑い、片方が泣けばもう片方が泣く。

 共感のループができ、お互いに馬が合う存在と化していた。


「そうだ! ウチに泊まっていきません? おしゃべりだけで徹夜するのも夢で……」

「やろう! とことん騒ごう!」


 シュベールがいよいよ外に向かって走り出しそうだったので、新はストップをかけた。


「……魔王が外をふらついたらダメだろ。人間はパニックになるぞ」

「アラタ! ……くぅ、そろそろ城の中から出たい」


 しょんぼりとするシュベール。

 クレスもそんな姿を見て落胆した。


「ちょっとくらい許してあげてくださいよ。アラタさんも歓迎しますよ?」

「いや、そんなことよりさ。クレスは何があってそんなケガしたんだよ」


 新が質問をこぼすと、クレスは思い出したような表情をした。


「アラタさんこそどうしてここに……! ここ、魔王城ですよ」

「わかってるよ。シュベール、まだ説明してなかったの?」

「左様。最初は愚痴から入ったのだが、気がつくと楽しくなって……。言うべきことを忘れておった」


 だがシュベールのおかげでクレスが暴走したりすることはなさそうだ。

 新は回りくどいことをせず、単刀直入に切り出した。


「クレス。俺は魔王の手下なんだ。魔王が人間に殺されないよう、異世界からやって来た」

「……え?」


 クレスは呆然としている。

 知り合いが魔王の手先だったなんて情報だけでも驚くのに、異世界なんて言われてしまったのだ。

 もはや驚くなんてものではない。


「アラタさんは、ずっと魔王と友達だったんですか」

「まぁ……。そうなるかな」

「異世界ってどういうことです?」

「そのままだよ。こことは違う別の世界から、別の星から転移してきたんだ」


 クレスが噛み締めていくように新へ聞いていく。

 だが、彼が本当に聞きたかったことはたったひとつ。


「マユさんも、魔王の仲間ですか……?」

「そう。つか、俺はマユのせいでここに来たんだけどな」

「もちろん、異世界の人ですよね……」

「おう」


 クレスは悔いた。


 病的なまでに好かれるのに、自分は誰も好いたことがなかった。

 そんな時、天使のような寝顔を見てようやく一目惚れを知った。


 でも、彼女は魔王の仲間。

 そして、暮らしていた世界までもが違った。


 こんな恋が叶うものか。

 ただ女性を振り向かせるだけでも難しいのに。


 どうしてあの日、自分は魔女の家に入ってしまったんだ。

 どうして好きになったんだ。


「クレス、大丈夫か?」

「……大丈夫じゃ、ないかもしれないです」


 クレスは目眩(めまい)を感じていた。


 そもそもマユを好きになったのはなぜか。

 自分は何を求めていたのだ。


 クレスは怖くて、その答えから目を伏せる。

 そしてとっさに、魔王の手先に助けを求めていた。


 自分の恋がハードモードとなってしまった理由のひとつ――。


「アリーゼ……。アリーゼを、殺してください……!」


 震えた声を出す青年の姿は勇者なんかじゃない。

 まるで、あどけない少年から時間が進んでいないようだった。

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