2-3 次は助けられる番でした
クレスを発見するために何ができるか。
探偵のような洞察力が自分にあればいいのだが、残念ながらクレスがどこにいるかは候補さえ浮かばない。
新は異世界に来てから魔王城周辺の森、城裏のスラム、クレス宅までの住宅地にしか訪れていなかった。
だからそもそも、この国の地形さえ理解していないのだ。
そんな状況だとクレスのいる場所は、やはり考えることさえできない。
「どうするかな……」
新は宛先もなくふらふらと彷徨い続けている。
知らない道の景色を見ても、悩みが晴れることはないままだ。
「どうするかなぁ……」
ずっと同じ言葉を繰り返し、同じように考えもまとまらない。
――そんな時、堂々巡りを打開する人物が前方にいた。
「おっ、レイ」
「アラタ! ふふ、奇遇だね」
レイには新の悩みを忘れさせてくれるほどの笑顔があった。
マルクの首輪が原因で彼女の首元には痣が見えたが、特に大事にもならなかった。
新の見る限りでは笑顔が多く、おそらくだが精神面も問題ないようだ。
「今は何してるの? 散歩?」
レイは対面して話さず、新と肩を並べて話した。
「散歩ってほど穏やかじゃないな……。ちょっと、人捜しだよ」
女子がすぐ近くで歩いている緊張感に新は動揺していた。
マユはロリ属性全開な見た目であるから、特別な行動がなければそこまで意識することはない。
ベッドの時は、さすがに『二人っきりの部屋にベッドの上で密着』というシチュエーションが刺激的すぎて意識したが、並んで歩くくらい普通にできる。
しかしレイはちょっとした後輩くらいに思えて仕方がない。
道の幅は広いくせに二人の距離はあまりにも近かった。
たまに手の甲が触れあって、余計に緊張する。
「いなくなったのって、鎧を着てた人だよね。クレスさんだっけ」
「そう。アイツ、実は貴族だったんだけど、メイドがさらったらしいぜ」
「メイドが? どうしてそんなこと……」
「俺は恋愛感情からの独占欲で連れ去ったと思ってる」
「れ、れれ、恋愛!?」
レイが新から離れた。
なぜ自分の前で恋の話をするのか。
いや待て、話していたのはメイドの話であって自分のことではない。
落ち着け。
触らなくても自分の頬が熱くなっていくのがわかった。
「レイ? どうした」
「う、ううん。なんでもない! そっか、その人はクレスさんが好きだったんだ。へぇ……」
「俺、まだこの国のこと詳しくなくてさ……。アイツを捜したくても捜せないんだよな」
手がかりもないし――と新は諦めかけていた。
レイが横を見ると、少し上に新の横顔があった。
困り顔を見てしまうと協力したくなる。
それは新の顔だからか、それとも自分の善意からか。
とにかく、次に言うべき言葉はすぐに出てきた。
「僕、手伝うよ! そういうの得意だから!」
「マジか! マユもなんか消極的でさ。勝手に駆け落ちだなんだって決めつけてたんだよな」
頼れる魔女に頼れなくなると、新の努力も微々たる結果で終わってしまう。
レイと会っていなければクレス発見は絶望的だった。
「……マユちゃんとアラタは一緒に暮らしてるんでしょ? 二人って、どんな関係なの」
「な、なんでそんなこと……」
「ううん、なんでもない! 忘れて!」
新はマユの名前を出すことに違和感がなかったが、レイはちょっぴり不満だ。
しかし、マユのほうが新との付き合いが長いから彼女の名前が優先的なのは当然かもしれない。
自分はもっと新のことを知らないといけない。
「アラタはさ、マユちゃんが魔王を助けるために助っ人として召喚されたんだよね」
「……うん」
「魔法とか使えないのに、不安じゃなかった?」
「まぁ、一人じゃ不安になるけど……。頼れるやつがいるから」
「それってマユちゃんのことだよね……?」
新には質問の意図がわからなかった。
たしかにマユは頼れる魔女だが、自分が今どうしても居場所を知りたい人物も頼りないが頼りたい人間だ。
「マユもクレスも。今はレイだって仲間だし、ベルには軍資金のお礼がしたいし。イデュアもシュベールもなにかと支援してくれるよ」
つまるところ全員。
新にとっては全員が『仲間』という肩書きだった。
まだ彼にとっての特別はいない。
「そっか。うん、クレスさんを捜すのに協力してあげる!」
レイの声音が嬉しそうに聞こえた。
「場合によっては協力してくれなかったの!?」
「えへへ、さぁねー」
返答次第ではレイの心が凹んでいたであろう事実を、新は自覚しないままだ。
きっと自覚するのはずっと後になってからのことだろう。
「最後にクレスさんを見た場所ってどこ?」
「レンガの家の前。たしか俺だけ家に入っちゃって、マユと一緒にいた姿が最後だったかな」
「じゃあそこに行こう。クレスさんの居場所は自然が教えてくれるよ!」
レイは新の手を引いて進んだ。
彼の前でにやけないようにするのが、今の彼女にとって一番難しいことだった。




