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2-2 聞き込みをしました

「情報の聞き込み? それなら最初からそう言ってくれれば――」

「お前がいちいち煽るからだよ!」


 新が発狂したのを見て満足した少女は素直に話を聞き始めた。

 その切り替えの早さから、幼くても彼女はしっかりとしたメイドであると(うかが)える。

 いや、そもそもはじめから真面目モードであって、切り替える必要がない状態ならすんなりと事が進んだのに。


「――まぁいいか。それで、クレスに変わったこととかあったか?」

「いいえ。聞き込みってそこからですか……? もうアリーゼさんが犯人って前提で進むのかと思ってました」

「じゃあ、その人が犯人だって思う根拠が知りたい」

「あの人が同時にいなくなったのと、クレス様に執着していたからです」

「執着?」


 行動をするのには必ず理由がつきものだ。

 誘拐の理由が執着心なら、執着心を抱いた理由が存在するはず。


「執着って、なんで……?」

「アリーゼさんはクレス様の教育係なのですが、妙にべったりというか」

「恋愛関係だったの?」


 マユに駆け落ちだと言われたことが脳裏に浮かんだ。

 誘拐じゃなく、これは逃亡なのだろうか。


 しかし、二人は恋仲でないようだ。


「アリーゼさんの一方通行と聞きますね。好意を寄せる理由も、あの人がここに雇われた理由とかで複雑みたいですよ」


 みんな、詳しいことは知らないみたいですけれど――と少女は肩をすくめた。


「雇われた理由か……。例えばお嬢ちゃんは?」

「お嬢ちゃんってやめてください。私には『ミル』と名前があるのです」

「ミルって変な名前だな」

「アラタのほうが変です。変というよりブサイクです。あ、お似合いの名前でしたね」


 散々に煽られたお返しにと、軽くからかったらこの仕打ち。

 これ以上は心に深い傷を負ってしまいそうだ。


「……ミルは? なんで雇われたの」

「志願したのです。ちょうどメイドを募集していましたし。普通、使用人として働いている人は学をつけ、資格を手に入れてから応募するものです」

「だけれどアリーゼってメイドはそうじゃなかったと」

「はい。あの人は別ルートで雇われたそうですね。なんでもミュケアーズ家が直々に、つまりクレス様のお父様が声をかけたらしいです」


 もしそうだとしたら違和感がある。

 アリーゼは、わざわざ勉強し努力を重ねないとなれない使用人という立場に簡単に成り上がった。

 それはクレスの父親がスカウトしたからだそうだが、それならばこの家に不満はないはずだ。

 スカウトしてくれた恩を返すはずの立場なのに、クレスを誘拐することになった理由は――。


「全然見えてこねぇ……。なんだよ『執着』って」

「アリーゼさんはいつでもどこでも『クレス様ー。クレス様ー』と探し求めていましたね。しかも私がクレス様に近づくとすっごく睨むんですよ。これは執着でしょう」

「あぁ、なるほど……。ヤンデレって実在するんだ」

「はい? やん……ん?」


 新から聞き慣れない言葉が聞こえ、ミルは顔を歪ませる。

 どこか悔しそうでもあった。


「ヤンデレって言葉はこの世界にないのか? でもロリコンはあるしな」


 そもそも言葉がなぜ通じるのか。

 自分は日本語を話しているし、相手の声も日本語で聞こえる。

 なにかしらの魔法が解決してくれているのだろうか。


「『この世界』とか、中二病ですか? さすがに今の発言は痛すぎですよ」

「もう突っかかってくるな! こっちにはこっちの事情があるから!」


 この世界にも中二病はあるらしい。

 それはそうとさっきまで何を話していたっけ――。

 ミルに妨害されたせいで一瞬だけ会話の内容が飛んだが、新はすぐに思い出した。


 ヤンデレの話だ。


「――えっと、ミル。そのメイドはクレスが好きで好きで仕方がなかったんだ、監禁するほどに。だから連れ去ったんだよ」

「そ、そんな簡単な理由で? でも、それをやりかねないほどの噂も聞きますね」


 ミルは納得したように小さく言葉を落とした。

 数秒考えた後、さらなる疑問を提示する。


「この家で仕事をしていれば簡単に接近できるのに、わざわざ連れ出す意味ってなんでしょうか」

「もっと独占したいんだろ。家だと他のメイドがいるからさ」

「なるほど。でも、どうしてこのタイミングなんですか。クレス様はなぜか王様から呼び出されていますし、最悪ですよ」


 ずっと好意があったのなら、即誘拐でよかったのではないか。

 これまで我慢できていたのにそれが爆発したのは、着火剤があったからのはずだ。


「アリーゼはなにかが気にくわなかったんだろうな。例えばクレスに近づいた女の誰か、とか」

「その脅しみたいな話を私の前でする意味はあるんですか。私の責任だったらクビ確定ですよ。私、まだクビにされたくないですよ」

「可能性のひとつでしかねぇよ。仮の話だって」

「ひっくり返せば、私がクビになる可能性がないわけじゃない、と。あーあ、次の働き口探そうかなぁ」


 わざとらしくため息を吐き、同時にミルの態度が一気に悪くなる。


「あ、ヘタレロリコンさん雇ってくださいよ。住み込みで食事付き、仕事内容は睡眠で――」

「ただの居候かよ。つかお前、俺を煽るの癖になってないか」

「バレました? さすがにくどかったですかね」


 コロコロと態度を変化させていくミル。

 ずっとこの調子だと話が進まない。


「とりあえずアリーゼさんがクレス様をさらったのは行き過ぎた好意だとして、他に聞きたいことあります?」

「場所だな。どこへ行ったかわかる?」

「わかっていたら苦労しません」


 当然な答えで返されてしまった。


「逆に、いつクレス様と別れましたか? クレス様は外出先からここまで帰ってくる間に連れ去られたのですよね?」

「ごめん。実は俺たちもクレスから目を離していて……。そのうち、あいつの姿が見えなくなってた」

「そうですか。じゃあ行き詰まりですね」


 ミルはネガティブな言葉をばっさりと言った。

 事実ではあるのだが、自分がクレスから目を離したことへ罪悪感が湧いてしまう。


「……とにかくありがとう! 俺も勝手にクレスを捜しておくから、これからもよろしく」

「よろしくお願いします。ヘタレロリコンさん」


 ミルへの聞き込みを切り上げ、新は目的地も考えずに歩き出した。

 結局、貴族であり勇者にもなった友人の居場所は依然として見当もつかないままだ。

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