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1-32 役者は揃いました

「クレスのいるところは――。お、見える!」


『セーブポイント』に到着するなり新たちはチート能力を買った。

 もちろん内容は『行きたい場所までの道のりがわかる能力』だ。

 新にだけ見える矢印が行きたい場所への方向を示してくれる。


「アラタ、その……『本命』はどうだ?」


『本命』はレイのこと。

 公にレイの名を言ってしまえば周りに作戦がバレてしまうかもしれない。

 念のため、名前は伏せることにしたのだった。


「見える! ってことはアイツ生きてるのか!?」


 よかった。

 まだ生きていた。

 ひとまずこれで助け出す前提は揃ったわけだ。


「どっち側だ? 彼女のいるところは」

「国王城の方向。……ってことは無法地帯か」


 国王城へ潜入する前にイデュアが教えてくれたこと。

 今、新たちのいる場所はもともとスラム街だった。

 しかし神殿ができ、チート商売によって経済が成長したおかげで活気づいた姿へ変貌したのだ。

 だがここから少し離れれば、スラム街としての一面も残っている。


 実際に新が国王城へ行く途中で、人通りが少なく空気も悪い場所があった。

 恐らく、彼女はその無法地帯に監禁されている。


「まずはクレスから行くか。アイツの家遠いなぁ……」

「ここは『指定転移魔法』を使おう。行きは君に走ってもらって、帰りはこちらに転移して戻ればいい。私は人目のつかない場所で待っているから」

「走るの嫌だなぁ……。ここからクレスの家まで転移してぇ……」

「書けるわけないだろう。私には見えないんだし」


 しかし時間もない。

 戦闘前に新のスタミナがなくなるなんてことも避けたい。


「……買うか」


 カネならある。

 ベルから貰ったものだが。


 新が視線でマユに同意を求めると、彼女は頷いて許諾した。

 本当は余った資金をベルに返却する予定だったが、その新の望みは叶えられそうにない。


――――――――――――


「ルディ! ルディはいるか!」

「坊っちゃん、いかがなさいました」

「あ、ルディ……。お願いがある、探してほしい人がいるんだ」


 国王城に不法侵入してからというものの、クレスは新とマユのことばかりを考えていた。


 アリーゼからの束縛があっては自由に外出もできない。

 二人の家を見つけることも絶望的だ。


 だが仲の良い彼なら多少の無茶振りは聞いてくれるはず。


「探してほしい人……ですか」

「そう。実は国王様に会ったのもその人が絡んでいて、とにかくすぐ会いたいんだよ!」


 言葉に熱が入る。


 まさか王城に不法侵入したなんてことは言えないし、しかしマルクを野放しにはできない。

 それに、国王に会った時に言われたことを二人に伝えたい。


「――クレス様、とルディさん」


 背中から熱を上書きするほどの冷気がやってきた。


「アリーゼ!? そ、掃除をやってたんじゃ……」

「もう終わらせました。クレス様に会いたかったので」


 アリーゼがルディを睨む。


 この家に仕えはじめた順からルディのほうが先輩だ。

 だがアリーゼはクレスの近くに誰がいようと気にくわない。

 そこにいるべきは自分だから。

 絶対に奪われたくないから――。


「お疲れ様です、ルディさん。クレス様のことは私にお任せください」


 男二人の間に割って入り、アリーゼはクレスのことを連れ去ろうと腕を掴んだ。

 すかさずクレスはそれに抵抗する。


「待って、アリーゼ。僕はルディと話していて、だから――」

「アリーゼ、坊っちゃんも年頃の男子です。男同士で話したいことのひとつやふたつ、胸にあるのも当然のこと。もう少しだけお時間いただけませんか?」

「ルディさん……。はぁ、しょうがないですね」


 気にくわないと思いつつも、アリーゼはルディに逆らえない。

 先輩に嫌われればきっと肩身が狭くなる。

 クレスを一番近くで愛し続けるためにも信用されなくては。


「クレス様、お部屋で待ってますね。お二人で、どうぞごゆっくり」


 冷気だけを残し、メイドは家の奥へと消えた。


「ありがとう、ルディ……」

「お構いなく。それで、先ほどのお話を――」

「あ、そうだ。アラタって僕くらいの男と、マユって女の子。スラムの奥の森に家があるんだ」

「そのお二人とお会いしたいのですね?」

「うん。友達なんだ」


 共犯者と言えばさらに正しいが、口が裂けても言えない。

 それに、友達のほうが嬉しかった。

 自分もルディも。


「わかりました。早急に見つけてまいります」


 ルディは暖かい笑顔とともに受け入れた。

 その途端――。


「すいませーん! クレスくんいますかー!」

「ど、どなたですか! 本日誰かがいらっしゃるご予定なんて聞いてないですよ!」

「予約制なんすか!? いや、でも緊急で……」

「あなた怪しいですね! 衛兵さんに来てもらいましょうか」

「ちょっと待てってお嬢ちゃん! 君いくつ? いや、俺の同居人もお嬢ちゃんくらいの身長でさ。けれど成人はしてるんだよね」


 聞き覚えのある声が耳に入った。

 間違いなくアラタだ。

 アラタの声だ。


「とにかくお引き取りください。クレス様には会えません」

「そこをなんとか……。よし、好きなもの買ってやるぞ!」

「衛兵さん、ロリコンです! 変態がお屋敷に入ってきました!」

「あ、このメスガキ! クレスぅぅう! 助けて、つまみ出されるー!」


 共に城へ入った相方が最年少のメイドに負けた。

 どうしてあんな山場を乗り越えてきたのに年端も行かぬ女の子に見つかるのか。

 あまりのあっけなさにこのまま返事をしてついて行っていいのか不安になってきた。


「坊っちゃん、もしや彼が――」

「うん、アラタ……。あっちから来ちゃったね」

「そうですか。……では、行ってらっしゃいませ」


 ルディは真っ直ぐな顔をしてくれた。

 まるで全てを見透かしたかのように。


 でもそうやって自分を信じてくれるなら、僕は――。


「行ってきます。アリーゼにも言っておいて!」


 ――自分の『善意』で応えるしかない。

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