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0-3 正義のヒーローたちが来ました

 仕事を投げ出して魔王城に来た皇女。

 それを魔王のせいにする国民。


「魔王は国に対して抗議しなかったの?」


 新は解決の糸口を模索していた。

 これでは銀髪幼女がかわいそうである、と。


 シュベールはその場に座り込んで新の提案を切る。


「我がそんな陳腐(ちんぷ)な発想もできぬバカ者と言いたいのか?」

「……あっ、ダメだったんだ」


 言葉キツめな魔王の前で、新が畏縮(いしゅく)する。

 そんな彼の姿を見て、マユが語りかけた。


「国も早く決着をつけたいのだよ。焦りに焦って、聞く耳を持ってくれないのさ」

「……じゃあ皇女様が無事ですって伝えればいいんじゃない?」


 イデュアは首を何回も横に振った。


「いや! 私は監禁されてる設定だから! もしこんな自由な環境だってバレたらクビになるわ!」

「公務やらなくて済むじゃん」

「家族に迷惑がかかるの! 娘の失態は親の失態! もう黙りなさいよ平民が!」


 軽く舌打ちをする皇女。

 性格の変わりように新は呆然とした。


「アラタ、彼女はずっと猫を被って仕事をしていたのだ。少しくらい許してやってくれ」

「それにしても性格悪くねぇ……?」


 イデュアを横目にこっそりと愚痴をこぼす新。


「そう言うな。鳥かごから逃げ出せたのだから、羽を伸ばすのも彼女に与えられた権利だ」

「でもなぁ……」


 皇女さえ帰ってくれれば問題解決な気がする。

 新はやはり魔王のことが気の毒に思えて仕方がなかった。


 すると突如、今まで会話に入っていなかったエプロン姿の男性が口を開く。


「シュベール様、朝餉(あさげ)の用意ができました」

「ご苦労」


 するりとエプロンを脱いだ男性は黒いスーツのようなものを下に着ていた。


「しかし、その前にお仕事ですね。今回は文字通り朝飯前ですよ」

「また面倒なネズミが……」


 不穏な空気が部屋を包む。

 シュベールが足早に部屋を出ると、そのまま玉座へと座った。


「マユ、あれ何があったの」

「とある勇者パーティーが来たらしいな。二人の会話を聞くに、そこまで強くなさそうだが」

「強くないやつらが来るって、門番とか行く先を邪魔するモンスターとかいないの?」

「絶対にとどめを刺せない相手と戦いたい者なんていないだろう。多くの魔物は森の奥に隠れてしまっているのだ」


 圧倒的に不利としか思えない状況。

 それでも魔王だけは命を狙われる身だから戦わないわけにはいかない。


「これも機会だ。シュベールの戦いを見ておくといい」


 マユは小さくも力づくで新の背中を押した。


「えっ!? 俺、何もできないぞ!」


 これからバトルが始まるというのに、一般人が出しゃばっていいものか。

 新がうろたえていると黒服の男性も後に続いた。


「自分がお守りいたします。と言っても、シュベール様のお力を見せつける結果となることは明白ですが」


 唯一名前の知らぬ人物だが、彼が持つ魔王への信頼は絶大なものだった。


「……えっと、新です。よろしく」

「お聞きしましたよ。自分のことはベルとお呼びくださいませ」


 ベルは玉座の横に立ち、服装を整える。

 玉座の後ろにあった扉は閉められ、すっかり壁と同化していた。


 しばらくして静かな城内にうっすらとにぎやかな声が聞こえてくる。


「魔王の城ってわりには何もねーな。俺が強すぎてビビってるとか!」

「魔物なんて数えるくらいしか会ってないわよね。本当に大丈夫?」

「バーカ、そいつらがその程度の強さってことだよ。ちゃんと『セーブ』もしたし、死ぬこともないって」

「勇者クンかっこいー! 私に何かあっても助けてくれるよね」

「あったりめーだろ! 任せとけって!」


 少しずつ声は近くなり、ついには金属が触れあう音や足音も聞こえてきた。


「ここじゃね? やけにバカでかい扉だぞ」


 一度聞いたことのあるギィギィとした音。

 扉が開いたのだ。


 入ってきたのは男性一人に女性二人。

 男性は背中に剣を担いでいるが、女性二人は薄着で何をしに来たのかわからない。


 シュベールが脚を組み、頬杖をつく。


「我は早く朝飯が食べたい。今日のところは見逃してやるから帰れ」


 その言葉は不機嫌そのものであったが、男は剣を抜いてヘラヘラ笑っている。


「おい見ろよ! 皇女殿下を誘拐した極悪な魔王が、あんなチビだってよ!」

「お、女の子にしか見えないけれど……。倒すのかわいそうじゃないかしら?」

「そうね。勇者クン、手加減してあげない?」

「バーカ、ボロ勝ちして国からガッポリ金銀財宝貰うんだよ! 一生遊んで暮らせるぞ!」


 戦闘前の緊張感は皆無。

 見ているこちら側がイライラしてきた。


「よし、魔王ぶっ潰すぜ! 覚悟しろよ!」

「はぁ……。貴様らは死なんから、きっと懲りずに戻ってくるのだろうな」


 魔王が頬杖で塞がった手と逆の手を前に出した。

 その直後に前触れもなく、その手から黒い線が飛び出す。そして、線が三つに分かれたと思えば正義のヒーローたちを貫いた。


 膝から崩れ落ちたり、後ろへ倒れたりとそれぞれ糸の切れた人形のように動かなくなる。


「し、死んだ……?」


 一瞬の出来事で新はついていけない。

 生々しい人の死を目の当たりにしたようで、いい気分にはならなかった。


 シュベールは「違うぞ」と吐き、玉座を立つ。


「さて、朝飯を食うか」


 疲れた様子でトボトボと隠し扉へ戻るシュベールに、ひと足早く扉を開けてやるベル。


 新がじっと動かなくなった三人を見続けていると、どこからか光の球が出現した。

 その小さかった光がさらに明るくなり、そのせいで三人が見えなくなる。

 さらに明るさを増した光球がカッと爆発したようなフラッシュを発した。


 新はあまりの眩しさに目を閉ざしたが、やがてその目を開いた時――。


「消えてる……」


 そこに横たわっていた人々は跡形もなくいなくなっていた。


「彼らは『セーブポイント』に帰還しただけですよ。いずれまた来るでしょうね」


 ベルが説明をしたが、一連の流れで新には疑問があった。

 新も隠し扉に入り、その疑問をベルに向ける。


「魔王があれだけ強かったら、一生イタチごっこで終わるんじゃない? 人類に勝ち目あるの?」


 ベルは困り顔になる。


「それが……。最近の勇者はやたらと強くなってきたんですよ」

「強く?」


 新の様子を見たマユが淡々とした声を放つ。


「アラタ、どうしても倒せないゲームキャラに対抗するならズルをするしかないのだよ。『チート』を使うんだ」


 新がこの世界に送られたのはそのチート能力に抗う手段を考えるためであった。

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