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1-22 信じる道へ進みました

「クレス様、そろそろ起きてもらわないと困ります。もうお昼になりますよ」


 新とマユがセーブポイントにいる頃、クレスは『教育』を終えて伸びていた。

 教え育てるなんて名ばかり。

 実際はアリーゼの独りよがりな愛を満たすための拷問でしかない。


 主従関係では自分の方が上の立場なはず。

 それでも一度植え付けられた恐怖は、正規の関係を忘れさせるほどに根強かった。


「クレス様? あら、少しやりすぎましたかね」


 愛する人を傷つけるのが楽しいのではない。

 愛する人についた傷が自分のものであってほしいだけだ。

 他の誰にも傷つけさせないように。

 傷ついたとしても、自分がつけた傷で目立たないように。


「――だからといってクレス様を壊したらいけませんし。やっぱり『教育』は難しいですね」


 アリーゼはクレスの体を軽く揺さぶる。

 徐々にクレスは意識を取り戻し、メイドの顔を見るなり(おのの)いた。


「き、気を失うまでやらなくてもいいじゃないか! いっ――」


 全身が痛い。

 クレスの体――特に服で隠れる部分は(あざ)でいっぱいだった。


 クレスにとってはただの痛々しい痣。

 しかしアリーゼにとっては――。


「自分の持ち物には名前を書きますよね。それと同じです。クレス様は物でなく人なので本当はこんなこともしたくないのですけれど、これも(しつ)けですので」

「おかしいよ……! こんなの教育でもなんでもないって――」

「あら。遅い反抗期ですか? クレス様がもっと小さかった頃は素直でしたのに」


 アリーゼの顔がクレスの耳に接近した。

 唇が触れるか触れないかの距離だ。


「これはアリーゼの愛情表現ですからね。クレス様に対してマイナスの感情は一切抱いておりませんので、そこはお間違えのないように」


 もっとやり方があるだろう。

 しかし、その訴えはクレスの喉から外へと放たれなかった。


 彼女はその方法しか知らないかもしれないから。

 彼女の出生を考えると、この愛し方も否定できないから。


 だから今日もクレスは――。


「うん……」


 と頷くだけだった。

 否定をせず、受け止めきれない愛を無理やり押し込んでいく。


「さて、クレス様。今日のご予定は……」

「あの、今日は国王様と話がしたいな」

「珍しいですね。身分の高い方とお話するのは苦手だとおっしゃっていましたのに」

「うん……。気が変わって」


 クレスもクレスでやらねばならないことがある。

 自分の正義を貫くためにも。

 自分から愛したいと思えた人のためにも。


「僕が貴族の子だって知ったら、二人はどんな反応をするかな……」

「ごめんなさい。なんとおっしゃいました?」

「あ、いや、なんでもないよ……」


 少なくとも自分は貧民であろうがなんだろうが二人と仲良くしたいと思えた。

 魔王の手先だとしても仲良くできるかまでは、考えるに至らなかったが。

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