1-20 なんとか話せました
それはそれは気まずい時間だった。
マユに話しかけても何も応えてくれない。
しかもこっちを向いてさえくれない。
明らかに『私、怒ってますアピール』だ。
いくら謝っても話題を投げかけても無反応なマユ。
新は怒りを忘れてくれるまで刺激しないほうが良いと思い、じっと黙ることにした。
するとどうだろう。
この家には娯楽がない。
テレビだとかゲームだとか、そういった類の物。
それが一切ない。
つまり新は、マユの怒りを含む家中の重い空気を毎秒感じながらボーッとしているだけだった。
地獄のように気まずい。
何もしないからこそ時間は長く感じるし、だが寝たりでもすれば反省の色を示せない。
新が最終的に行った行為は瞑想だった。
ベッドの上で精神統一。
この星の自転がわかるほどに感覚を研ぎ澄ましてみる。
流れる時間を音や第六感から感じ取り、無心になることを心がけた。
どれくらいその状態が続いたか。
集中すれば時間はあっという間に過ぎると考えたがそうはいかなかった。
いくら瞑想しようともマユの機嫌が戻らない。
後から振り返れば森林浴でもしたほうが瞑想なんかよりもずっと有意義に時間を潰せたかもしれない。
そんな徒労を悔いる気持ちが心を蝕み、余計に室内の雰囲気を重くする。
(そもそもなんで怒らせたんだっけ……。貧乳のメリットが思い浮かばなかったからか)
それでも時間は無限じゃない。
マユもマユでするべきことがあるから一生は怒っていられない。
昼に差しかかった時、ようやく新の気持ちが晴れるようになった。
「……そういえば、王城はどんなだった?」
小さく発せられた声を聞き逃すことはなかった。
「王が魔王城に派遣した人――レイって名前らしいけど。その人の遺体が森で発見されたってよ。マルクが言うには」
「なるほどな。国王がセーブポイントのことを知らないのは確実か」
セーブがあれば人は死なない。
死の報告を受け入れるのは、死なない術を知らないからこそであろう。
「それにレイが死んだって嘘をつくマルクは確信犯だよな。魔法陣トラップだらけで死ぬかっての」
「マルクに報告した部下が真犯人かもしれないぞ。決めつけはよくない」
「でも決定的なものが見つからないんだよなぁ……。俺たちは探偵ってわけでもないしさ」
「私に考えがある。ノロケ勇者くんの力が必要になるけれどね」
貧乳だなんだと悩んでいたマユだったが、自分の魅力を武器にするまでに開き直っていた。
クレスを意のままに操るためにもマユの存在は欠かせない。
特に『財力』においては。




