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1-19 コンプレックスでした

 新がレンガでできた家に入った時、もう日はすっかり顔を出していた。

 木々から見える光。

 朝の空気や疲労を感じる体のせいでいつもより神々しく見える。


「ただいま……」


 外よりも暖かい空気が迎えてくれる。

 空気に遅れて声も返ってきた。


「おかえり、アラタ」


 マユの頭にはところどころに寝癖がついていた。

 きっと昨夜はしっかり寝たのだろう。


 新は透き通った少女の声とかわいらしい髪型に目を奪われて立ち尽くす。


「ん。どうした、アラタ?」

「い、いや……。美少女に『おかえり』なんて言われる日が来るとは思わなくて……」


 クレスのように結婚を迫るほどではないが、帰りを迎えてくれる人がいるというのは感動するほどに嬉しかった。


 しかも新は寝癖のついた女の子なんて今まで見たことがない。

 寝起き直後の女の子を見た経験も同様だ。


 すなわち、彼にとってはレアイベントだったのだ。


「まったく、君もあのノロケ勇者も……。男子諸君はどうして煩悩だらけなのだ」

「お、怒るなよ……。マユがそれほど魅力的ってことなんだよ」

「甘いな。そうやって容姿を褒めれば丸く収まると思っているだろう?」


 マユの怒りや呆れを緩和させるために褒めたわけではないが、喜んでくれるとは思っていた。

 だがその考えはどうやら違うらしい。


「いいや、嬉しいぞ。だが、今の私は本当の私じゃない。もっとこう……セクシーなお姉さんだったのに」


 マユの声が少しずつ小さくなり、目から生気がなくなっていく。

 呪いの言葉を呟いているようだった。


「それなのに、こんなぺったんこ体型を男子諸君は喜んで……。背は低いし、体力はなくなったし。まぁ、体力は最初からないか……。しまいには胸囲だったら育ちのいい小学生にも負けそうではないか……」

「マユ、ちょっと落ち着こ――」

「イデュアにこの姿を見られた時、なんてバカにされたか教えてあげようか……。ふふ、ははははは……」


 イデュアはシュベールのことを狙っていたが、マユにまで手を出していたとは。

 家出したり、少女たちを襲ったり、この国の皇女はどうかしている。


「マユ、言わなくていいって。ほら朝飯にしようぜ。な?」

「『やだー。片手でどっちも揉めるんじゃない?』だ」


 どうして言ってしまうんだ!

 聞いたからにはフォローしなければならない。

 しかもよりによってデリケートなお悩みで。


「あ……と。でも小さいからこそのメリットもあるだろ」

「……言ってみたまえよ」

「う、動きやすそう」


 蹴りが飛んできた。

 左膝の側面に入った蹴りはとても弱々しかったが、本人は全力で蹴ったらしい。


 必死な姿に新の頬が緩む。

 それは火に油を注ぐ行為だった。


「わ、笑うな! こうなったら魔法で君の首を切り落とすしか――」

「待て待て待て! 全部謝るって!」


 本棚から数冊の本を出し、冗談抜きで首を切ってきそうな気迫のマユ。


 こうなったらできることは謝罪しかない。

 謝罪とともに打開策も訴えてみる。


「だけど、なっちまったもんはしょうがないだろ! どちらにせよかわいいんだから自信持てよ!」

「……ロリコン」


 新の首が切られることはなかったが、マユは首を切るほどに鋭く、キツく睨んだ。

 午前中は口を利いてもらえず、国王城潜入についての報告をするには時間がかかった。

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