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1-16 国王城に潜入しました

 新は偵察に来た時に出会った少女が城に入った時と同じ窓から侵入した。

 窓には鍵がかかっておらず、開けっぱなしだったのだ。

 おそらく少女が入ったあとからずっと放置されていたのだろう。


『潜入する時』の項目から窓まで移動できそうな魔法を探し、それを使う。

『指定転移魔法』なるものだ。


 行きたい場所に魔法陣Aがあれば、魔法陣BからAまでワープできるという特殊なものだった。

 つまり魔法陣Aの書かれた紙を行きたい場所に置けば、転移魔法を書かずとも紙を置いた場所へ瞬間移動できる。


 新は紙を丸め、もうひとつの魔法を発動。


 もうひとつの魔法は『投げる』という内容のものだった。

 その名の通り、自分が投げた物を必ず命中させる魔法だ。

 距離制限があるらしいが試す価値はあると、新は判断した。


 丸めた紙を窓の奥に見える天井に向かってぶん投げると、紙はまっすぐに飛んだ。

 風の抵抗を受けたりすることもなく、やがて紙は天井にぶつかる。


 そして――新は魔法陣Bに手を重ねた。


「うまくいったか……!」


 かくして、マユの魔法陣を組み合わせることで城の中に入ることができたのだった。


「クレス。今から裏門開けに行ってくるから、ちょっと待っててな」

「……もうアラタさんひとりで潜入してもいいですよ」


 小さく呟いたクレスの言葉は新に届かず。


 新は『そこはかとなく存在感を消す』魔法を常に発動しつつ城を動き回った。


 潜入した窓がある部屋は物置部屋で、その周りもそこまで人の出入りがない場所で囲まれていた。

 難なく階段までたどり着き、そのまま一番下まで急ぐ。


 裏門の前も人通りはなかった。

 夜だからでもあるだろうが、そもそも裏門は使われていないのが大きな原因だ。

 出入りは通常、正門から。

 非常時以外は空気である。


 新は扉の取っ手に挟まっていた木の板を外し、扉を押した。

 長く開けられていなかった扉が久しく動く。


「クレス、行くぞ」

「あぁ、もう……」


 どうしても自分が行かなければならないという圧に負け、クレスは仕方なく中へ。


「どこ行きます……? マルクさんの証拠がありそうな場所ですよね」

「まずは地図だろ。城の構造がわからないと――」

「僕、城の中は初めてじゃないので案内しますよ」


 新は最悪、警備の人間を脅してでも進もうとしていたが不要であった。


「なんで……。クレスって本当はえらい人?」

「あ……。そ、そういうわけじゃないですけど……。まぁ、なんでもいいじゃないですか!」

「ふぅん……」


 素性を隠しているのは自分だけじゃないのかもしれないと悟った新。

 しかし今はクレスが何者かを気にしている暇はない。


「とりあえず官僚の仕事場みたいな場所に行くか……。ヤバい書類とかあればいいんだが」

「わかりました。国王室の前から行きましょう。用がなければわざわざ歩かない場所ですから」


 国王室は城の中心かつ、他の役職よりも高い階にある。

 大臣や官僚の集う階をわざわざ通らずとも、国王の階を通れば低リスクで移動ができるのだ。


「とりあえず階段を上がりますよ」


 クレスの後に従って新も進んだ。


 ドクドクと緊張を訴える胸は外でも中でも変わらずだった。

 しかし、そんな緊張を裏切るほどに人通りがない。


「クレス、こんなにも人がいないものなの?」

「住み込みで働く人もいるんで、今日はラッキーだと思いますよ」


 ラッキーだけで済むのだろうか。

 もはや城の警備意識を疑うほどだ。


「念のために魔法でも使っておくか……」


『音が可視化される魔法』を使ってみる。

 たとえ聞こえないほどに小さな音でも、どこで発せられているのかがわかるというものだった。

 これで足音を見れば、人の居場所がわかる。


「……下の階はうるさいな。国王室の前を通って正解だったか」

「危なかったですね……」

「……おい、この部屋の中からも見えるぞ。ここって――」

「王室、ですよ……」


――――――――――――


「国王様、重大なお話があります」


 マルクが重い表情で言った。

 フェルディは伏せた顔を上げずに聞いている。


「レイのことか……?」


 対魔王に積極的だったマルクには、と王はマルクにレイの出動について話していたのだ。

 まさか自分とレイの会話を盗み聞きされていたとは知らずに。


「先ほど様子見として派遣した者が戻ってきました。森の中、魔王城の近くに彼女の遺体があったと……」


 マルクの声色から、そんな気はしていた。

 だが、予想ができたからといってその言葉によるダメージが軽減されるとも限らない。


 自分の指示で死なせてしまったのだ。

 義理の娘を。

 名を与え、成長を見てきた娘を。


 本当の娘のように、ずっとそばにいたわけではなかった。

 それでも大きくなれば嬉しかったし、笑顔を見れば癒やされた。


 それなのに――。


「マルクよ、私はどうしたらいいのだろう……」


 震えた声で王が言った。


「もう限界だ。これ以上、傷つきたくない……」

「国王様、ひとまずお休みになられてください」

「イデュアが戻らないと休めないさ……。それに、レイも……」


 でも彼女はいない。

 自分のせいで。

 もう安息は戻らない。


「とりあえず、私めはこれで。次の作戦を練ってみます」


 マルクの足音が響く。

 国王にはそれが、やけに長く聞こえた気がした。


――――――――――――


「だ、誰か亡くなったみたいですよ……」


 クレスと新は物陰に隠れていた。

 国王室の話を聞いていたら、マルクが戻ってくる音がして慌てて隠れたのだ。


「レイって、誰か知ってるか?」

「国王様が捨て子を救ったって話題になった時がありましたね。その時は僕も幼少でうろ覚えですが。たしかその子の名前がレイだったような……」

「女の子か?」

「そうですよ。なんだ、知ってました?」

「まぁな……」


 日中に出会った謎の少女だ。

 彼女に違いない。


「それが亡くなった、か……」

「森で遺体ってことは、魔王に殺されたんですかね。でもセーブがありますし……」


 セーブポイントがあれば、人が死ぬはずはない。

 だから、少女が亡くなったことは矛盾するはずだ。


「クレス、ビンゴだな」

「なにがですか……?」

「セーブポイントはマルクが無断で運営してるんだ。とりあえず今日は帰るぞ」

「待ってください! 僕、なんにもわかってませんよ!」

「あとで説明してやるってば」


 新は転移魔法のページを開き、国王城を去った。

 マルクが黒幕であることへの確信を抱きながら。

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