1-13 また書きました
マユはシュベールの手に渡った魔法陣を魔王城のさまざまな場所に貼った。
玉座の前や廊下の壁。
今までスカスカだったセキュリティが固められ、これでチート対策は万全。
転移魔法さえ防いでしまう能力が存在したり、魔法陣にも油断しなかった者は通り抜けてしまうかもしれない。
それでも、ないよりかはマシだ。
マユが心配だったのは魔王城の住人を転移させてしまうこと。
ベルは大丈夫だろうが、イデュアやシュベールが転移したら大変だ。
前者は皇女だし、後者は幼女。
皇女や幼女が勇者なわけないだろう。
「ベルは身体能力バツグンだから避けて通れるはずだ。……シュベール、そもそも君は外へ出ているのか?」
「出ておらん! 王たる我がどうして脚を動かすのだ」
「じゃあ大丈夫かな……。もしも魔法陣を踏んだり前を通ると、森の外だぞ。気をつけてくれたまえよ」
「ふん、そんな子供騙しな小道具に引っかかるわけなかろう」
シュベールは余裕そうにしていた。
その余裕がマユの不安を煽る。
「まぁ……、本人が言うならいいさ。くれぐれも、くれっぐれも! 気をつけて」
「しつこい! 我の眠りを妨げたいのか!」
新が魔王城に来た後、シュベールは昼寝の準備をしていた。
食べたい時に食べ、寝たい時に寝る。
そんな悠々自適が彼女のライフスタイルなのだ。
マユの目には怠けているだけにしか映らなかったが、今回は好都合。
チートビジネスが落ち着くまでぐうたらしていれば、魔王城の転移魔法でうっかり森の外へ飛ばされることもないはず。
マユは自己完結させ、手にしていた本を開く。
歩くのは面倒だし、早く自分のやりたい研究に移りたかった。
そんな気持ちから魔法陣に手を重ねる。
「転移トラップに欠陥があればベルを送ってくれ。すぐに手直しするから」
ちゃんと魔王が聞いてくれていたかは確認する間もなく、マユの視界が森へと戻る。
梢から太陽の光が漏れていたが、マユはそんな景色を目にすることもなく扉に手をかけた。
扉の先には快楽が待っている。
『研究』という名の、最大の娯楽が。
「ただいま。さて、魔法学にはげもう――」
「マユ! これ見てくれよ! 昨日よりうまくね!?」
新は紙切れをマユに押しつけ、早く見ろと急かしている。
新は食事をした後、暇だったので魔法陣の模写をしていた。
それが想像以上にうまく書けたのだ。
「な、なんだ……? あぁ、また魔法陣を模写したのだな。熱心で結構」
「で、どう! これでバッチリ使えるかな!?」
興奮気味の新を前に、マユは渡された紙を見た。
円を囲むようにぐにゃぐにゃとした線。
適当に書かれたようなこの線ひとつひとつに意味があり、それが魔法の内容に直結する。
新の書いた魔法陣は――。
「……アラタ、わざとやっているか?」
失敗だった。
しかもただの失敗ではない。
「これを発動させると我が家の前に転移できる。女性限定かつ、全裸の状態で……」
とんでもないハレンチ魔法。
もはや狙って書いたとしか思えないような逸品。
まさしく奇跡だ。
「ど、どこが違うんだよ! 見ろ、ほとんど同じだろ!」
マユが書いたものと新の模写。
たしかに『ほとんど』同じだった。
「ここ、線がはねている部分があるだろう。もう少し短く書かないと……」
「はぁ!? ふざけんなよ! ミリじゃねぇかミリ!」
ほんの少し。
たったそれだけで魔法は崩れる。
新の期待は梢から漏れる光。
とても細く、全体を照らすには足りなかった。
「もう一回消して書くか……」
「それはダメだ。一度書いた跡があると魔法は起きない。もう捨てるしかないな」
「……まぁいいや。一応持っておくわ」
新はズボンのポケットにガラクタを詰めた。
「アラタ、聞いていたのか? 女性にしか使えず、全裸になるのだぞ? 服はもちろん、アクセサリーも取れて一糸まとわぬ姿に――」
「わかってるって! でも何かの役に立つかもしれないだろ。……おい、なんで距離置くんだよ。おい!」
何かの役に立つわけがない――マユは全力で思った。
使うとしたら女性を裸にしたい時。
最低にも程がある用途だ。
「現役男子高校生に魔法はまずかったかもしれないな……」
ただ一人、マユは反省した。
本当に彼とやっていけるのか不安を抱えながら。




