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1-11 偵察に行きました

 隠し部屋に入るとシュベールとイデュア、ベルの三人がいた。


 ベルは定期的に森の奥で暮らす魔物たちに会っているそうで、昨日の不在はそのせいだとか。

 おかげでクレスに殺されかけた。


 新はシュベールに魔法陣を渡し、イデュアと王城の話に。


「本気でお城に侵入するの? 警備は厳重だけれど……」

「そのためにアドバイスが欲しいんだ。見張りの人数とかさ」


 しかしイデュアは申し訳なさそうにうつむいてしまう。


「正確には覚えてないし、もう家を出て一年も経ってるから……」


「いいって! 少しでもあれば――」


――――――――――――


 新が商店街だと思っていた場所。

 そこは元々、スラム街の中心だった。

 マルクの差し金だろうか、突如としてセーブポイントが設立され金が回り、結果的に今はそれなりの治安が出来上がったのだ。

 しかしスラム街の()()であるから、少し離れると無法者が多くなる。


 さらに遠ざかればスラムを外れ、普通の街が広がっている。

 そこでは平民や貴族などが悠々と暮らしているそうだ。


 つまるところ、新やマユが今まで目にした場所は街の外れであった。

 あのセーブポイントも街の隅に建っているということになる。


(そう考えたらマジで怪しいな。まるでこの神殿を人目から遠ざけてるみたいな……)


 スラム街は王城のちょうど裏側にあるため、イデュアからは裏門からの侵入を(すす)められた。


 裏門は基本的に使われておらず、非常用として存在しているらしい。

 そのため普段は鍵がかけられていて、その代わりに人目での警備が手薄だとか。

 イデュアが家出してからの一年で警備も変わった可能性がある。


 そんなわけで、新は王城周辺を偵察しに行っているのだ。


(もし見つかっても魔法陣があるし、いざとなれば転移魔法だな)


 詳しい道のりもわからないが、王城は大きく、どこからでも見えるので行くべき方角はわかった。

 しばらく進むと人通りは少なくなり、空気もどこかよどんでいるように感じてくる。


(ここがスラム……? 襲われたりしないでくれよ……)


 不安な気持ちから歩幅が広くなる。


 自分はちゃんと靴を履いているし、服も清潔感があった。

 本物の貧民からすると金品を運んできたカモのように思えるだろう。


(なんかいい能力ないか、魔法陣……)


 新は魔法陣集、『潜入する時』の項目を見た。


(なんだこれ……。『そこはかとなく存在感をなくす』?)


 自分の姿を消すのだろうか。

 気休めでもいいからと、新は魔法を発動させた。


 発動するには魔法陣の書かれたページを開いたままにし、呼吸を落ち着かせればいいらしい。

 逆に呼吸が乱れると魔法の効果も薄くなるのが注意点。


 新は魔法を持続させながらさらに進んでいく。

 道の途中で筋肉ムキムキのいかにも悪そうなコワモテ集団とすれ違ったが、魔法のおかげかお互いにスルーすることができた。


 そうしてようやく、王城前へと到着。

 城があまりにも大きく、新のいる場所は広範囲が日陰で覆われていた。


 本を閉じ、周りを警戒する。


(たしかに誰もいないな。昼間っからこんな状態なら夜も無人かな)


 信じられない話だが、王城の前には誰も見張りをしていなかった。

 背の高い柵がそびえ立っているものの、これを越えれば敷地に入れてしまう。


(さすがに甘すぎないか? 赤外線センサーみたいなものが引かれてあるとか?)


 罠かもしれないと新は警戒を深める。


(この柵が魔道具とか……?)


 新は柵に魔法陣が書かれていないか凝視した。

 見える範囲は上から下まで余すことなく見ようと、不審極まりない姿勢になる。


 どうせ誰もいないし、少しくらい変な行動をしていても――。


「キミ、何してるの?」

「うわっ!」


 背後から声がかかり、新はビクリと震えた。

 それ以上に心臓も跳ね、冷たさと熱さの混ざった気持ち悪い感覚が背中や顔を支配する。

 手も湿ってきた。

 それでもどうにか平常心を装い、声の主を見る。


 声をかけたのは少女だった。

 腰に短剣と縄を携え、身軽に動けるような服装をしている。


「なんか、変な動きしてたよね。泥棒しようと思ってたんじゃない?」

「まさか! 君こそ、こんなに人のいない場所にいるなんて怪しいんじゃないか?」


 下手に逃げるとむしろ怪しい。

 相手とコミュニケーションをし、どうにか納得してもらうのが一番だと新は考えた。

 そのためには自分が話の主導権を握らなければ。


「僕は王様に呼ばれたから来たんだけど? ほら、キミも言ってごらんよ」

「俺は……。ああ、もう、しょうがねぇな……」


 少女はここにいるための正当な理由を持っている。

 もし自分が嘘をついたとしてもバレるかもしれない。

 相手は武器を所持しているから戦うのも得策ではない。

 すると、クレスのように仲間にするしか手段はなかった。


「マルクってやつが怪しいんだよ。皇女誘拐をビジネスのきっかけにして、セーブポイントやチート能力を売り出してるって疑惑が――」

「キミ、何言ってるの? せえぶ……なんとかってなんの話?」

「え、魔王討伐の前に皆行ってるだろ。知らないのか?」

「魔王討伐って……。僕が一人目なんじゃないの?」


 少女は言い終わると両手で口を塞いだ。


 しかし遅かった。

 絶対に知られてはならない極秘事項をつい口にしてしまったのだ。


 そもそも自分が王城を訪ねることだって知られてはならず、わざわざ裏門から入ってきたのに。

 ()()()警備がいないのも、一般の人間には隠しているからだろう。


「ごめん。キミさ、僕のことは誰にも言わないでくれない? キミの変な行動も黙っててあげるからさ」

「いや、だから――」

「ごめん、王様が待ってるから。じゃあね、泥棒はダメだよ!」


 軽々と柵を飛び越え、少女は腰にあった縄を取り外す。

 するとその縄がひとりでに王城の壁を這い、開いていた窓から中へと侵入した。

 少女はその縄を握りしめながら壁を登った。

 固定具もついていなかったはずなのに縄は落下せず、少女は窓から王城の中へ。


 新はそれを見るだけで、何もできなかった。

 彼女が何者なのかもわからぬままだ。


――――――――――――


「王様、お久しぶりですね」


 聞き覚えのある声がし、フェルディは顔を上げる。

 そこにいたのは少女――レイ。


 騎士団の中でも潜入、暗殺に長けている人物だ。


「本当に……。大きくなったな……」

「もう14ですからね。今生きているのも王様のおかげですよ」


 彼女は王にとって特別な人物だ。


 レイは捨て子だった。

 自分が誰の子かもわからない。


 そんな彼女に手を差し伸べたのが国王。


「王様が僕を育ててくれなかったら、どうなっていたんでしょうね」

「いいや、私はレイをこう育ててしまったことに後悔しているよ。だって――」


 彼女が騎士団にいなければ、この任務を与えずに済んだのに。

 義理の娘とも言える人に死ねと言っているようなものだ。


「やめてくださいよ、弱音を吐くなんて。らしくないですよ」

「……すまん」

「大丈夫、僕は帰ってきますよ。だからほら、ご命令を」


 レイは王の前に(ひざまず)く。

 フェルディは息を大きく吐き、その言葉を発するための覚悟を決めた。


「国王フェルディが命ずる。魔王城に潜入、できるなら魔王の暗殺をしてくれ。そして、無事で戻ってきてくれ……!」


 レイは立ち上がり、笑顔で返事をした。


「行ってきます。パパ」


 その言葉を久しぶりに言えたことに喜びを噛みしめ、王城の外へ急ぐ。


 不安も恐怖もない。

 恩人に恩返しをするだけ、ただそれだけだ。


 果たしてそのやり取りを目撃したのは王であるフェルディと出発したレイと、それを盗み聞きしていたマルクであった。

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