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1-10 謎が謎を呼びました

「……まだやってたのか」


 新が目を覚まし体を起こすと、マユが鎧を前に何かを書いている光景が見えた。


 マユの大実験会は新も参加していたものの、徹夜は得意ではないので途中でギブアップ。

 しかし寝て起きたら、まだやっていたのだ。


 床には乱雑に何十枚もの紙が散りばめられていて、それらすべてが使用済みの魔法陣であった。


「おはよう、アラタ」

「おはよう……。体、大丈夫かよ」

「私の場合はむしろ研究をとめられてしまう方が体に毒だよ」

「そう……。それで、何かわかったのか?」

「特に」


 衝撃の一言。

 頭脳と熱意があり、その上時間も割いた。

 多くの成果が得られたような雰囲気だったのに。


「マ、マジで……? 成果ゼロ……?」

「うむ。魔道具にしては能力設定が難解すぎるし、魔道具でなければさらに謎は深まってしまう。結局、この鎧も剣もどうやって動いているのか――」

「その難解な魔法陣を書けるやつがいるんじゃねぇの? 普通に」

「アラタ、魔法陣を勝手に書くのは法に触れると言っただろう? その大きな原因は『やりたい放題が可能』という点にある」


 人類が多くの数式を発見し、それがテクノロジーへ繋がる。

 今もなお科学は発展し、それが悪用されることもある。


 魔法も同じだった。

 とんでもなく強力な魔法が作り出され、それが兵器にでもなれば世界の破滅を導きかねない。

 惨事を阻止するために法ができたがそれだけでは不十分。

 過度な発展を避けるため、魔法学は選ばれし人間にしか学べない学問となった。

 しかも人に危害を与えるような魔法陣は王が厳重に保管、管理しているそうだ。


「つまり王城から魔法陣を盗み出しでもしなければチート能力なんて書けないはずなのだ。盗まれたらもっと大事になるはずだからその可能性も薄い」

「独学なんじゃね? マユみたいにさ」

「私がそれなりに魔法陣を書けるのは地球から持ち出した本が大きい。この世界で発展的な書物を見つけ出すのは難しいぞ」

「じゃあ、盗まずして魔法陣が書ける人間か……?」


 保管しているのは国王。

 国王ならば危険な魔法陣も閲覧し放題ではないだろうか。


「待てよ、王とイデュアとマルクの三人が共謀してるってことか?」

「まだわからない。現国王は支持率も高く、人柄の良さも評価されているのだ。だから可能性がないわけではないが、考えにくくはある」

「はぁ……。本当に誰が作ったんだろうな、これ」


 考えれば考えるほど、知れば知るほど謎が深まる魔道具。

 誰が、なんのために作ったのか。


「そうだ、アラタ。君が王城に侵入する時に役立つであろう魔法陣集を書き上げたんだ。出発する際はぜひとも持っていってくれ」


 マユは魔道具と格闘する(かたわ)ら、一冊の本を書いていた。

 中身はやはり魔法陣。


「この本では隠密性に優れた魔法たちをピックアップした。それぞれの効果は各ページの端に書いたから初見でも使いこなせるはずだ。困ったらとにかく索引を引いて――」

「マユ、本当に体大丈夫か!? 仕事しすぎだって!」


 一冊の本を一夜で書くだけでも相当な労力なはず。

 それなのに索引や解説などの優良サービスまでくっついてくるとは。


 彼女、いきなり倒れたりはしないだろうか。


「自分の体は自分が一番わかっているよ。それに今日はたくさん書いた転移魔法を魔王城に持っていかないといけないし、まだまだやるべきことはたくさんあるからね」


 新は索引に目を落とす。


『潜入する時』、『見つかりそうな時』、『見つかってしまった時』、『逃げる時』。

 多くのシチュエーションに分かれ、あいうえお順に内容が書かれていた。


 新は『見つかってしまった時』の項目からとあるページへ。

 使い方は――。


「えーっと、手を重ねて……。『眠れ』と言う、か」


 魔法陣の書かれたページだけが光った。

 それを見てマユが発動を察する。


「コラ、私を眠らせるな! そんな善意は、いら、ないから……」


 マユはぼやける視界の中、新を叱りつけた。

 だがその声に覇気はなく、まるで寝言のように小さな独り言へとなってしまう。


「もう……。バカ者め……」


 最後にそう呟いて、マユは新の体へ傾く。


「あっぶね!」


 マユが体勢を崩さぬように抱き上げ、どうにかベッドへ運ぶ。

 軽い体からは細い寝息だけが漏れていた。


「睡眠は大事だからさ。……ごめんな」


 新は寝ているマユに言うと、机の上に積まれてあった紙に気がつく。

 そこにはすべて同じ魔法陣が書かれてあった。


「これを魔王城に届ければいいんだな」


 イデュアに王城内部や警備について聞きたかったのでちょうどいい。


 新はその紙を持ち、外へ出る。

 清々しい早朝の風は日陰だと肌寒く感じたのだった。

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