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1-8 運命共同体になりました

「俺は新。で、お前が惚れたのはマユ。魔王討伐で億万長者を狙う、スラム出身の貧乏コンビとでも思ってくれれば」


 薄暗い家の中、男二人は面と向かって話し合っていた。

 少女は机に向かって魔法陣作りに熱中している。


 新は先程までクレスの名前やマルクの存在を口走ってしまっていた。

 しかしパニックだったせいか単純にアホなのか、クレスの耳には残っていなかったようで魔王城での行いはバレていない。

 完全に初対面な空気だ。


「僕はクレスです。皇女様を助けるために魔王城に行く途中で、迷いました!」


 堂々と嘘をつく勇者。

 高額な装備をレンタルしたのに不戦敗にされたなんて口が裂けても言えなかったのである。


 もちろん、彼の恥となる原因を生み出したのは目の前にいる新なのだが。


「クレス。魔王城に行く前にひとつ協力してほしいことがあるんだ」


 新は厳粛な態度で言い始めた。

 思わずクレスも聞き入ってしまう。


「王国の中に汚職官僚がいるっぽいんだよ。マルクって人が――」

「その名前、つい最近聞いたことありますよ! どこだったかなぁ……」


 魔王城で俺が言ったんだよ――と新は心の中で言った。


 だが、絶対に悪であると思われている存在の言葉に耳を貸す者は少ないだろう。

 その点で考えるとクレスが魔王城でのことを頭に入れていないのも当然かもしれない。


「まだ推測だけど、そのマルクがチート商売を牛耳(ぎゅうじ)ってるんだ。皇女誘拐を出しにしてさ」

「そんな……! 国王様は一人娘の皇女様を溺愛されていたのに」

「そこが汚職ポイントなんだよ。国王は娘が利用されてると知ればビジネスをやめさせるはずなんだ。でも続いてるってことは――」

「国王様の許可なく……」

「そういうことだ」


 クレスは落胆のあまり頭を抱えてしまった。

 自分が助けになると信じて装備を買い、魔王城へ急行したのにそれは間違っていたのだ。

 助けになるどころか、資金を落として悪人に貢献さえしている。


 そんなクレスに新は優しく語りかけた。


「セーブポイントだって見た目はデカい神殿だし、金の力でどうにか隠蔽(いんぺい)してるんだろうな。俺だって能力を買ったことがあるし、騙されたやつも同罪なんてことはないだろ」


「でも、僕は……」

「本題はここからだっての。そのマルクの行いを国王に告げ口するんだよ」


 悪徳官僚について証拠を集め、世間や国王に公開する。

 それこそが新が魔王のためにしたいことだった。

 クレスは皇女のためだと思い込んでいるが。


「まずは調査。さっきのはまだ推測だからな。マルクが黒ってことを目撃しよう」

「その協力を、僕に……?」

「てか、協力してほしいのはほぼ全部だ。調査から発表まで全部」


 クレスは正義感から協力したい気持ちでいた。

 しかし不安な点がある。


「調査ってどうするんですか……。王城に入るのだって一般人だと苦労しますよ」

「そしたら侵入するしかないよな」

「犯罪じゃないですか……!」


 新は無言でマユの机から何冊かの本を拝借した。

 中身はすべて魔法陣だ。

 魔法陣を無断で書くことは法律で禁止されている。


 新はこれを見せ、クレスに言った。


「忠告してももう遅いぞ。マユは魔法オタクだからな」

「ちょ……!? バレたら牢獄行きですよ! わかってるんですか」

「そんなこと言ったら、お前もマユの寝込みを襲ったじゃねぇか。協力しないなら訴えるぞ」


 もうクレスに選択肢はない。

 善良な彼は潔白な身でいたいがために折れてしまう。


「わかりました……。やってもやらなくても犯罪者なら、やるべきことをします」


 難しいことは考えない。

 ただ良心に従うだけでそんな答えが出た。


「でも、魔法陣を悪用してたらちゃんと裁かれてもらいますからね」

「それはマユの気分だからなぁ……」


 ニヤリと笑う新。

 その笑みの裏には魔法陣の悪用がかわいく思えるほどの隠し事があった。


 義賊的な行いを提案する新がまさか魔王に仕えているなんて、クレスは微塵も思わないままだ。


――――――――――――


 少しずつ夕刻に近づいた頃。


 真昼の忙しさも落ち着きを見せ、人と話す余裕ができた。

 かと言って、王は自分の弱音を誰かに晒すなんてことはしない。

 不安は胸の中に隠し、悲嘆は喉元にこもったまま。


 そんな彼の心をさらに乱すのはマルクという男だった。


「国王様、魔王討伐へは何ひとつとして進展がございません。隣国の協力も望めない状態です」


 淡々と述べるマルク。

 隣国が協力してくれないどころか、本当はまだ要請さえしていない。

 しかし王は多忙。それに精神的に弱っている今、要注意人物の嘘でさえ信じてしまう状態だ。


「そうか。もっと財を集め、騎士団の強化や兵器開発に回さねば……。報告によると最近は闇商人に財が集まっているそうだが――」

「はて、聞いたことありませんね」


 食い気味にマルクが否定すると、フェルディはそれで勢いを失ってしまう。

 愛する娘のためにどうしても行動に移したい王は、思い切った決断をした。


「騎士団や軍、なんでもいい。とにかく腕のある者を一人、極秘で魔王城に向かわせよう」


 セーブを知らない王にとって、これはとんでもない行動だ。

 自分の娘のために誰かの命を危険へと放り込むのだから。


 その提案にマルクは賛成する。


「それは良いですな! して、誰を選出いたしましょう」


 そいつだって買収すればいい――というマルクの腹黒い考えは、王の不安と同じほど鉄壁に守られていた。

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