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第8幕 芝居と策略と大岡裁き

ミス・セプテンバーの目は怒りと悲しみに満ちていた。


「あなた達がこの森に迷いこんだ頃、境目の森に"よくないもの"が這入ってきたから調べてくれと長老に頼まれてね、依頼を受けた私が森のなかを見回っていたら、そこにあなた達がいたの。聞けばドッペルゲンガーを追いかけていて迷いこんだって言うじゃない」

「おおー、アタチたちがゲートを通ってここに来た時の事ですね!」

プリンの言葉にミス・セプテンバーは無言でうなずく。


「私にはわからなかったんだ"よくないもの"っていうのがそのドッペルゲンガーに由来しているのか、それともあなた達こそが"よくないもの"そのものなのか。だから私はあなた達を試してみることにしたの。シラズのほとりの向こうはフェアリーランドにつづく光に満ちた場所、そして今まで来た道をこのまま真直ぐ行けばあの世の冥界へとつづく場所、わざと悪い場所から遠ざけてエント長老がそこにいるとあなたたちを誘導してみて、・・・スケさんアナタがどう動くのかを試させてもらった」


ミス・セプテンバーの鋭い眼光にも動じることなく、スケさんは半笑いでその瞳を見つめ返している。

「へぇー、なるほどね。じゃあミス・セプテンバー、君はボクがプリンを冥界へ連れていこうと誘導していると言いたいんだね。だったらなんでボクがその邪魔になる君と一緒にここまで来たと思うんだい?それこそさっきヨンズに付いていくと言って離脱しようとした君を引き留めたのは、他でもないこのボクじゃないか」

「それは簡単な話だよ。私が誘導する先に厄介な長老エントがいるのだから、自分の目的を円滑に進めようとしたときに、邪魔な存在の位置をナビゲートする私を必要としただけでしょう?」


それ以上の言葉は必要なかった。

魔女の家で鏡のゲートを抜けて、ここにきてからは他の誰も見ていないドッペルゲンガー。そのドッペルゲンガーが逃げたという道を、シラズのほとりからこっち悪い方角へとプリンをずっと導いていたのは他ならぬスケさんだったのだ。

だがそれでも自らの"使い魔"を守るため、プリンはその言葉に食い下がる。

「いやでも・・・それはおかしいですよ、アタチは確かに朝ゴハンを盗み食いしているドッペルチェンジャーを見たのです」

「それはドッペルゲンガーじゃないよ。お嬢ちゃんが見たのはアナタ自身だ」

エントのザワザワした低い声が横から入ってきた。

「アタチ自身?」

「お嬢ちゃんの霊体と身体の結びつきが弱まって、ふたつが離れかけておるんじゃよ。幽体離脱というのを知っておるか?お嬢ちゃんの身体の方には一割くらいの霊体を残して、九割の・・・霊体としては本体となったアナタに自分自身を目撃させる。そして現実世界とのはざまであるこの場所へ誘導すれば、体に残っている一割の霊体も本体であるお嬢ちゃんに引き寄せられてくるであろう。そしてそのままアナタをあの世へと連れて行けば、ドッペルゲンガーを目撃してしまったアナタが死んだという現象だけが残る。それこそがドッペルゲンガーの目撃者は数日のうちに死んでしまうというトリックのタネなんじゃないですかな?"死神の使い"どの」

長老エントの重厚感のある声がスケさんを追い詰めるが、またしても不敵なクロネコはのらりくらりと涼しい顔でその言葉を受け流す。


「ふ~ん、見事な大岡裁きじゃないか。だけど残念なことに何の証拠もないね、あくまで君たちの憶測の範疇で言っているに他ならないよ。その言葉を裏付けるための証拠がない。どうしたんだい"森の賢者"と呼ばれるアナタともあろう者が分からないはずがないと思うんだけど。ねえ、長老殿」

「森の賢者!?ウンまあ、そうね。言うてもワシ賢者様だからね。君のいう事も、もっともだと言えるかもしれないよね!」

賢者という言葉に過剰すぎるほどに反応するエントを見て、ミス・セプテンバーはしてやられたという表情を浮かべて語る。

「しまった!エント爺はおだてられ慣れていないんだった!」

「なんと!」


だがその膠着状態も、その賢者の背後から現れた者によって破られることとなった。

「なんとまあ見苦しいくらいに諦めが悪い事だね、もう観念したらどうだい?」

「あっオババです!」

「大魔女バーリンなんでここに?町に出かけていたはずじゃあ・・・」

スケさんはプリンの祖母ことバーリンの登場にあからさまな動揺を見せた。


「残念だったね、すべては芝居だったって事だよ。アンタがプリンから霊体を抜き取るところも、洗面所の鏡にゲートを開いてこの子を誘導するところも、すべてこの私が見てるのさ」

スケさんは表情一つ変えずにバーリンの顔を見つめている。


「アンタは自分がこの子を罠にはめているつもりだったろうけど、逆に最初から罠にはめられていたのはそっちの方だったって事だね。五日前に私たちは、プリンを狙って闇に身をひそめているアンタの存在に気が付いていたのさ。とてつもなく厄介な存在に目をつけられていることに気付いた私たちは、アンタをとっ捕まえるために数日前からずっと一芝居うっていたんだよ」

「・・・チッ、なんだよバレていたのか。もう面倒くさいなあ」

その言葉を聞いてスケさんの態度が豹変する。いままでの愛くるしい性格が消えて、すべての者を威圧して押さえつけてしまうような雰囲気が滲みだす。それにともないそのスケさんの瞳が紅く光り、まがまがしいオーラがその小さな体から噴出するように溢れ出てきた。


「やれやれ簡単な仕事だと思っていたのに・・・。ボクも舐められたものだよ、こんなしょうもない罠を仕掛けられていたとは。まあとは言え、そんなしょうもない罠にまんまと引っかかって、それに気付かないボクもボクということか」

自虐的にそう語るスケさんだが、言葉とは裏腹にたちこめる邪悪な気配は激しさを増していく。

そのまがまがしいオーラの影響なのか、周囲の樹々がザワザワと揺れてその幹から色を失った葉っぱがポトリポトリと落下し、また小鳥たちが不穏な空気を感じ取って一斉に飛び立ったかと思うと、その羽ばたきさえずりの声が波のようにこだまして巨大なうねりを生じさせた。

それによって全員が見えない巨大な渦に飲み込まれていくような錯覚につつまれていく。

「おおお、"境目の森"がザワついておる・・・」

苦悩の表情を浮かべつぶやく長老エント。

やがて辺りの景色は夕暮れ時のように赤く染まり、その光景はまるでスケさんの周囲からすべての生き物の生気が吸い取られていくようだった。


「何よこれ、体から力がどんどん抜けていく・・・」

ミス・セプテンバーも体の生気を吸い取られて、飛んでいることができずにポトリと地面に落ちていくところを、あと一歩というところでプリンに拾われた。そして妖精の体を体を傷つけないよう慎重にバーリンに預けると、プリンはあらためてスケさんに向き直る。


「待つのです、スケさん!」

「何だよ一体!これから皆のお待ちかね、バトル展開じゃないのかい?」

「そんなことはご主人様である、このアタチが許さないのですよ!」

プリンのその言葉に、いまさら何を言っているんだとスケさんは半笑いを浮かべて言い返す。


「君はバカなのかい?ここまでの事はお芝居だと言っていたじゃないか。だったらこれまでにボクたちが交わしてきた会話の内容など意味がないこともわからないのかい?」

「甘いですよ、スケさん。アマアマなのです!なんでスケさんの策略を知っていながら、アタチがここまで猿芝居を続けていたか・・・、その意味に気付いていないのはアナタの方なのです!」

「ほう面白いね。キミのその猿芝居には、いったいどんな意味があったって言うんだい?」


プリンはビシッとスケさんを指さして言った。

「スケさん、アナタをアタチの使い魔にするのです!」



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