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第7幕 悪い予感


つい先程までシラズのほとりと呼ばれていた湖岸を歩くプリンたち一行。

これまでは霧に覆われていて湖の大きさを把握することができずにいたが、今こうして霧が晴れて周囲を見渡すことができるようになって分かった。この湖はかなり大きくミス・セプテンバーが示す対岸にたどり着くには半日近くかかるであろう。

これまで気が張り詰めた状態でここまでやって来た彼女たちだったが、ひと段落して気が緩んだのだろうかスケさんが皆にある提案をする。


「とりあえず一つの壁を乗り越えて後は長老エントのところへ向かうだけだけどさ、安心したからなのかボクはお腹が空いてきたよ。おあつらえ向きにというかちょうど目の前は湖だしさ、腹ごしらえのためにこの場所で食料を調達してはどうかな?」

「う~っ。そう言えばアタチもドッペルチェンジャーに朝食を取られたせいで、何も食べていなかったからお腹が空いてきたですね」

プリンもスケさんの提案には賛成だった。


「それじゃあ私とプリンちゃんでお魚でも取ってこようか。それでもってスケさんは、その間にここで火の準備を頼んでいいかな?」

ミス・セプテンバーの申し出だったが、スケさんは小首をかしげて不満を口にする。

「なんでボクだけ別行動なのさ?」

「だって私とアナタたちがはぐれちゃったら、もう会えなくなる可能性があるけど、スケさんはプリンちゃんの使い魔だからどこにいても呼び出せるんでしょ?」

「まあ確かにボクはご主人であるプリンの所へはどこからでも辿り着けるけど、べつに皆で魚を取ればいいだけの事じゃないか」

「スケさんのその体じゃあ魚を捕まえることもできないし、効率的に作業を進めていこうと思ったら二手に分かれた方がいいんじゃないかと思ってさ。それともスケさん、あなたには自らを犠牲にして死中に活を見出す、この自己犠牲と博愛精神の結晶ともいえる必殺技"疑似餌マイセルフ"に匹敵する技をお持ちだとでも?おっと失礼、いやそうではなく前々回からの見事なご活躍で、この物語の主人公にでもなったおつもりなのかしら?」

さきほどヨンズから引きはがしたことを根に持っているのか、ミス・セプテンバーは意地悪な目つきでスケさんを挑発するような口調で問いかける。それに対してスケさんはヤレヤレという表情を浮かべ、妖精との衝突を避けることを選んだ。

「ふ~ん、なるほどね。それならまあ別にいいけど。じゃあボクは薪でも集めて、火を起こして待ってるとしようかな」


気持ちが悪いくらいあっさり引き下がったスケさんのおかげで、まあ取るに足らない衝突はあったものの、魚を捕まえる係になったプリンとミス・セプテンバー、火を起こす係のスケさんの二手に分かれて行動を開始する。しかしそれぞれが別行動を開始したのもつかの間、小さな妖精は湖のなかをキャッキャと奥へと向かっているプリンを呼び止めた。

「ところでプリンちゃんはさ、どうやってスケさんと出会ったの?」

「ん?どうやってスケさんが使い魔になったのかは憶えてないですよ。そもそもスケさんは無理やりな設定の差し込みでアタチの使い魔になったのですから。まったく無茶な設定を無理やり差し込んできて、作者の技量のなさがうかがい知れるというものなのです!」

「ふーん、設定ねえ」

うなずきながらミス・セプテンバーは何かに納得したような表情を浮かべた。


「プリンちゃんは変だと思わない?」

「何がですか?」

「ドッペルゲンガーを追いかけていたらこの森に迷い込んだって言ってたけど・・・、ドッペルゲンガーって本当にいるのかな?」

「えっ、でもたしかにアタチはこの目で見たのですよ!じっさい朝ゴハンもアタチの目の前で食べられてしまったですし」

「まあそうなんだけどさ、自己分身であり自分の生き写しともいわれてるドッペルゲンガーが、なんで本人も知らない場所に来るのかなと思ってさ。自分の行動範囲を超えて、自分の知りえない知識を持っているとすれば、それってもう自分の分身とは呼べないんじゃない?」

「そう言われてみれば、そうですね」

「もしもアタシの推測が正しければなんだけど・・・」

水辺で魚を捕まえるふりを続けながらミス・セプテンバーがそう言いかけたところで、遠くからプリンを呼んでいる声が聞こえてくる。声の主はスケさんらしく、慌てたようすで駆け寄ってくる姿が遠目に確認できた。


「おーい、大変だ!いま君のドッペルゲンガーが森の奥に向かって消えていったよ。今なら間に合うよ、早く追いかけて捕まえよう!」

「そら、動き出した・・・」

ミス・セプテンバーは何かを感じ取ったようにつぶやき眉をひそめた。


状況が把握できずに呆けている様子のプリンたちを急かすようにスケさんは続ける。

「何をしてるんだい、君たち。早く行かないとドッペルゲンガーが逃げちゃうよ!」

「いいだろう行ってやろうじゃないか。でも用心してプリンちゃん、これはきっと罠だよ」

セプテンバーがプリンにささやきかけるように耳打ちする。

「罠?ドッペルチェンジャーのですか?」

「それはきっと、すぐにわかるよ」


すぐに水辺を離れスケさんと合流したプリンとミス・セプテンバーは、ドッペルゲンガーが消えたという森の奥へと向かって走る。木々の間を抜けて藪をかき分け、小道さえも外れたそこは獣道のようなと言えば聞こえはいいが道とは呼べない険しい場所なのであったが、そんなことにも構わずプリンたちは駆け抜けた。だがそれにつれて新緑豊かだった辺りの風景も、なにやら殺風景で物寂しい景色へとゆるやかに変貌していることに気が付く。


「なんだか枯れ木が目立ちますね・・・」

広葉樹中心だった木立も、針葉樹の割合が増えていき、プリンが今までに見たことのない幹に棘の生えたいびつなトゲトゲしい低木もちらほらと目に入ってくる。

「なんだか気持ちが悪いです」

「大丈夫もうすぐだから!」

プリンの不安を払拭するようにスケさんがげきを飛ばす。

しかし次第にいびつな形の樹木すら視界から消えて、草木も生えない砂利道となった地面が幼子の足に与える負担は大きい。


「もう走れないです。少し休憩するです・・・」

「そうだよスケさん、これ以上はプリンちゃんが倒れちゃうよ」

プリンの肩に止まっているミス・セプテンバーは涼しい表情だが、プリンは"シラズのほとり"から走りっぱなしでとても苦しそうだ。

「何を言ってるんだい!ここでドッペルゲンガーを見失ったら、もう捕まえることが不可能になるかも知れないんだよ?ここで頑張らなきゃ、今までの苦労が全部パーになっちゃうよ」

あと少し、あと少しとスケさんに誘導されながら殺風景な山道をすすみ、岩山の洞窟へとさしかかったところで、その入り口をひときわ大きな枯れ木が道を塞ぎ、プリンたちの行く手を阻んだ。


「なんだよ、この枯れ木は!邪魔ったらありゃしない」

めずらしくスケさんがあからさまな悪態をつく。

そしてその言葉に呼応するかのように声が返ってきた。

「失礼な、まだ枯れてはおらん!」

「おおぉ、まだ枯れてはおらん木が喋ったですよ!?」

「大丈夫だよ、プリン。その方が長老エントだ」

ミス・セプテンバーの言葉に促されるように、枯れかけた巨木がゆっくりとその幹をプリンのもとへと寄せてくる。プリンの鼻先に届いた小枝の先には、小さな花が咲いていた。


プリンがその花をゆっくり受け取ると、草木も生えない殺風景だった周囲の景色に変化が生じる。

大地は一面緑豊かな芝生に覆われて、周囲には新緑の大きな樹木が立ち並ぶ。そして木々の間から届くやわらかい木漏れ日は、小鳥たちのさえずりをかきたてた。

「初めましてじゃな、小さなお嬢さん」

霊木である長老エントのその口調は、爽やかな風を受けた樹がザワザワと葉を揺らす音にも似ていて、力強くそしてとても優しい声だった。


だがそれを不機嫌な様子で見つめる者がいた。

「・・・おかしいじゃないか。ミス・セプテンバー、君の話だと長老エントは"シラズのほとり"の対岸にいるんじゃなかったのかい?」

プリンたちのやり取りを背後から見ていたスケさんが、不機嫌な様子で小さな妖精に詰め寄る。だがミス・セプテンバーはそれをものともせずに反論した。

「そう、シラズのほとりの対岸にいるはずの長老エントのもとにたどり着ければ良かったんだよ。そうすれば全ては丸く収まって何の問題もなかったのに・・・」

ミス・セプテンバーの目は怒りと悲しみに満ちていた。



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