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第4幕 シラズのほとりの舟守ヨンズ

ほどなくしてプリンたちは湖のほとりへと行きついた。

この場所に近づくにつれ辺りには霧がかかって視界が悪くなってきていたのだが、その水面にはもやがかかって遠くの景色は塗りつぶされたかのように白い闇のなかに溶け込んでいた。


「う~ん、ちょっと肌寒いです。この場所はいったい何ですか?」

「皆はここを不知シラズのほとりって呼んでいるよ、そんでもってこの向こう岸にエントのじいさんがいるんだけどさ・・・。どうやって向こう岸へ行くかが悩みどころなんだよねぇ」

「それなら岸を歩いて回りこめばいいですよ」

真っ当なことを言って返すプリンだったが、ミス・セプテンバーはかぶりを振って答えた。

「ここの湖はさ、迷うんだよねぇ。岸べりを歩いても歩いても対岸にたどり着かない、そして気付いた時にはいつのまにか最初の位置に戻ってきてしまってる。だから自分の立ってる場所がどこなのか分からなくなってしまうっていう・・・、"シラズのほとり"とはよく言ったもんだよねぇ」

そう言いながらミス・セプテンバーはキャハハと笑った。

「笑い事ではないですよ」


「ちょっと待って、静かに!何か聞こえる」

そう言いながらスケさんが皆に耳を澄ますよう促した。


ギ~ッ・・・、カタン


確かに遠い場所でかすかに不気味な音が響いている。

「なんの音ですか?」

「わからない」

プリンはそう答えたスケさんを見た後、ミス・セプテンバーの方へ視線をスライドさせたが、彼女も肩をすくめて分からないというジェスチャーで返すだけだった。


ギ~ッ・・・、カタン。ギギ~ッ・・・、カタン。


「何だか音がだんだんと大きくなっていますよ。何かが近づいてきているようです」

「見て、湖の方に何かいる」

スケさんに言われて、プリンが靄の先にある沖に目を凝らすとぼんやりとした灯りが浮かんでいた。

「ひ、ひ、火の玉です!」

「ヒヒヒのたま?」

「そんなツッコミはいらないです」

そう言いながらプリンはスケさんを抱きかかえると力一杯抱きしめた。首を絞められたスケさんは小さくグエッとうめき声をあげてプリンの小さな腕をすり抜ける。

「何をするんだ、ボクを殺す気かい!?」

「だって火の玉ですよ!?ユーレイが出るです!」

「魔女のキミが火の玉を怖がってどうするんだい?それよりもよく見てごらんよ、舟だ、舟がこっちに向かってきてるんだ」

そう言われてプリンが真っ白な霧の向こうに目を凝らしてみると、火の玉だと思ったソレは小舟に乗った船頭が目の高さに掲げているカンテラがユラユラと揺れているだけだった。

「ふ~っ、驚かせやがるです!」

「キミ、恐怖でまたキャラがブレているよ・・・」

「おっと、アッシとしたことがです!」


そんなプリンたちの小コントのようなやりとりを差し置いて、小舟は徐々に徐々に彼女たちのもとへと迫りつつあった。

「アタチたちの方に向かって来ているですか?」

「そうだね、この辺りには特別目印となるようなものは何もないのに、ピンポイントでこっちに向かってるってことは、ボクたちを目指して進んできているのは間違いなさそうだ。それともミス・セプテンバー、もしかして君の知り合いかい?」

「違うわよ、私の知り合いじゃないわ!」

「でもチャンスですよ、舟で向こう岸に渡してもらえばいいです」

「やめておいた方がいいわ。知り合いじゃないけど、知らないわけじゃない。たぶんあれは"シラズの渡し"だから」

「と言うと?」

「この森で迷った者がこの湖にたどり着いたら、向こう岸に渡す代わりに船代として、その人の大事なものを要求するっていう悪い噂を聞いたことがあるの」

「でも無事向こう岸に渡れるのは間違いないのかい?」

「知らないわよ、大事なものを取られるっていう噂しか聞いたことがないんだから」

「ふぅん、悪名の割にメジャーではないんだね」

「いつもカスミがかったこの場所が、なにか悪いことを隠してるっていうイメージを皆に植え付けてるのかもしれないんだけどさ。ハッキリ言って、この場所自体がジメジメしてるし、なんだかキモイし、だから」


「ヌヒィヒヒヒ・・・」

「ひぃっです!」

遠くその姿さえ確認できなかった小舟は、気が付くとプリンたちの目前にまで迫っていた。

人が三、四人乗れそうなほどの見すぼらしい小舟に、フードの付いたボロ布を羽織ったこれまた見すぼらしい小男が一人乗って、こちらに向かってかいを漕いでいる。どうやら先ほどから聞こえていたギギーッという不気味な音は、その櫂を漕いでいる音だったようだ。

プリンたちのいぶかしむ視線をよそに、小舟が岸に乗り上げると同時に小男はカンテラを手に船から飛び降りた。


「散々な言われようですねぇ、ヌヒッ」

一行の前に降り立った男の顔はフードの下に覆い隠されており、そのつくりや表情などをうかがい知ることはできないが、ややしわがれた声は初老を思わせた。そして背中が曲がっているとはいえ彼の身長は、子供のプリンより一回り大きいくらいの背丈でしかないのだった。

プリンは他のメンバーたちにアイコンタクトを送る。

「いざというときは皆でボコればいいです」

「・・・声が聞こえてますよ、ヌヒッ」


プリンは小さくコホンと咳をして仕切りなおす。

「お前は何者だぁ!ですか?」

「ワシは"シラズの舟守"ヨンズという者。巷ではシラズのヨンズと呼ばれておる」

「なにぃ!?スマタでズンズ・・・やるです!」

「・・・あなたわざとでしょ、ヌヒッ」

一瞬の静寂の後、その場の全員がすこし引いていた。




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