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第3話

僧侶が走り回るほど忙しさ様から師走という名がついたほどこの時期はイベントが多い。

改めて説明するまでもなく十二月である

暦の上で一年の終わりであるこの時期に一年でもっとも浮つく期間がある

改めて説明するまでもなくクリスマスである

キリスト教における救世主の生誕祭がキリスト教圏のみならず世界中で恒例行事となっている様は

地球外生命体が第三者の目線で率直に感想を述べるとするなら

キリスト教はこの星の文明の支配者であるというであろう

ただし、クリスマスを祝う誰もが本当の意味を知っているわけではない

特段、どのような文化であれ取り込む日本人なら尚のことだろう

これはそんな日本人のとある少年と少女の物語



■ある少年と少女の物語



沖山誠也は仏教徒である

正確には日本仏教の中の一宗派である真言宗、真言密教徒だ

その中でも彼は密教僧と密教徒という他者から見れば違いの分かりずらい部類分けの中で密教徒と呼ばれる方の部類に属している


密教徒とは寺に属さずに独学で仏門を学び、その秘術を駆使する者のことを言う

寺に属さない、即ち出家しているわけではなく仏の弟子となったわけではない彼ら密教徒の活躍を

出家し寺に籠って解脱のための修行に明け暮れる本職である密教僧たちは好ましく思わない

彼ら僧侶からすれば、密教徒のしていることは無免許運転を行っているドライバーと同じなのだ

仏の悟りも思想も哲学も理解せず、ただ秘術だけを欲する盗人なのだ


とはいえ、ごく稀にそんな盗人の中に僧侶を超える仏門への理解と仏の加護を受け持った者が現れる時がある

沖山誠也がまさしくそれであった

特に彼の場合、それは飛び抜けており密教徒であるにも関わらず仏教界全体でも上位術者として数えられる数少ない聖人級

現代の十大弟子入りも確実ではないかとさえ言われている


そんな一目置かれる存在であえる沖山誠也は以外にもまだ高校生だ

もうすぐ大学受験を控えている高校3年の少年は、密教徒という立場であるがゆえに仏事や寺の事情には縛られない

ある意味で典型的な現代の日本人の宗教スタイルといえるだろう

ゆえに彼は学校が休みである週末に受験生であるにも関わらず寺ではなく、とある教会を訪れていた


東京聖パウロ教会。墨田区内では最大級のカトリック教会である

この教会に一人の少女が修道女として在籍していた

沖山誠也と同い年の受験生であり、彼と同じく大学受験を間もなく控えている受験生の身分であるにも関わらず

彼女は教会の仕事に汗を流していた

沖山誠也と同じ高校に通いクラスメイトでもあえる彼女の名は鴇沢茜

まだ高校生であるにも関わらず修道士の扱う魔術である修道法印術において抜き出た才能と技術を持った女子高生であった


そんな彼女は今、まさに教会が一年で最も忙しく華々しいイベントの準備に大忙しなのであった

受験勉強にも手が回らないほどの多忙のせいでここ数日ろくに寝てもいない

同じく教会に所属こそしていないものの、姉に付き添って通い詰めている妹に心配されるほどだった

そんな彼女を心配して沖山誠也は教会へと様子を見に訪れたのであった


(とは言っても、忙しいの一言で追い返される可能性もあるんだが…)


思って誠也は教会に来るまでにあるコンビニで買ったジュースと、近くのケーキ屋で買ったショートケーキ、シュークリーム、プリンの詰め合わせの箱を持って教会へと足を踏み入れる


「あれ?沖山くん?どうしたの?」

「や、やぁ!ちょっと用事で近くまで来たからついでに様子を見に来たよ」


言う誠也の挙動は見る人が見れば少し不審だ

というか動作がガチガチである


「へぇー、AMMの仕事でも舞い込んだの?」

「まぁ、そんなとこ……あ、そうそう。コレ差し入れ。よかったら食べて」


本人はさりげなく渡したつもりだが、明らかにあらかじめ入念に用意して練習した動作だ

そんな誠也の挙動に鴇沢茜はあえて触れずに差し入れの中身を確認して


「わぁ!これ駅前のお店のじゃない!私これ好きなんだよね!」


目をキラキラと輝かせる。体重を気にする乙女とはいえ、やはりスイーツは別腹なのだ


「お気に召したのなら嬉しいよ」

「うん、ありがとう」


言って鴇沢茜は笑顔を見せる。たまらず誠也は顔を真っ赤にして目を背けた


(あぁ、差し入れ持ってきてよかった!)


心の中でデレーとした誠也の心情を察しているのかしていないのか

とにかく上機嫌になった鴇沢茜は立ち話もなんだしと誠也を教会の中へと案内する


(しかし改めてこの時期に密教徒が教会になんて来ていいものかな?)


思いながら隣を歩く少女の横顔をチラリと見る

一緒に歩くその横顔を見ただけで誠也の鼓動は高鳴った

そんな誠也のほうを鴇沢茜は無警戒な笑顔で向く


「どうしたの?」


問われた誠也は慌てて話題を探す


「い、いや~教会の中をじっくり歩くのも初めてだなと思って」

「ふーん。まぁ沖山くんは密教徒だもんね。お寺ばっかでこういった教会は普通はこないか…」

「まぁ密教徒は仏門入りしてない類だからお寺もそうそう行くことはないけどね」

「そうか~確かに沖山くんってお寺にいるイメージないし。袈裟とか似合わなさそうだもんね」

「……それってひどくない?一様は仏教戒名も持ってるし、幼いころはお寺に預けられてた時期もあったんだから」

「それって実家の山梨でのこと?」

「そう。とは言っても小学校低学年までの話だけどね」

「家の事情とかなの?あまり深入りはしないけど……私もちょっと家庭環境が問題で妹と二人暮らししてるし」

「妹さん、そういえばこの教会にいるんだったね」

「まぁ私が学校から帰ってくるまで面倒見てもらってるだけだけどね。小学校の方が終わるの早いし」

「終わるのは早いね。うちも親戚の子を弟子として引き受けてるけど毎度帰るたびに遅いって言われるよ」

「親戚のお弟子さんって妹と同い年なのよね?もしかしたら気が合うかも」

「それは顔合わせしてみないとわからないかも。でも学校が終わってから帰ってくるまでの時間を待たせてるのは同じだから 合わせてみるのはいいいかも」


言いながら二人は礼拝堂への入り口に差し掛かる

従妹の弟子をネタに会話が弾んだと内心でぐっと握り拳を握る誠也はそこで鴇沢茜の格好を見て疑問を口にする


「そういえば教会で働いてるのに修道服は着てないんだね」


誠也の問いかけに礼拝堂の扉の取っ手に手をかけた鴇沢茜は一瞬キョトンとした顔になった

そしてすぐに取っ手に手をかけてない方の手で口元を隠し、意地悪い笑みを浮かべる


「あれー?もしかして沖山くんて私のシスター姿期待してたの?そういう趣味だったわけね?」


言われた誠也は顔を真っ赤にして両手を振って全力で否定する


「ち、違う違う!そんなんじゃないって!ただ気になっただけで何も鴇沢さんのシスター姿が見たいとかそういうんじゃ!」


そんな誠也の様子を疑いの目で見る鴇沢茜は深くは追求せずに礼拝堂の扉を開ける


「ふーん……ま、そういうことにしておくよ」

「絶対信じてないだろ!」

「さぁてね♪ここで沖山くんの趣味を暴いちゃったら恵美が泣いちゃうだろうし」

「……なんでそこで川本の名前が出てくるんだよ」

「鈍感くんにはわからないかなー?っと」


扉を開けた鴇沢茜のお腹に小さな女の子が抱きついてきた

見た感じ小学生のその女の子は鴇沢茜にそっくりであった


「お姉ちゃん!まだ終わらないの?」

「ごめんね樟葉。もうすぐ終わるから、あとちょっと待っててくれる?」

「ほんと?」

「うん、だからいい子にしてもう少し待っててくれる?」

「うん……」


女の子は鴇沢茜から離れるとトボトボと他の児童たちがいる方へと歩いていく

その後ろ姿を見て誠也は茜に聞いた


「あの子が妹さん?」

「うん、樟葉」

「そっくりだね。ビックリしたよ」

「うん、よく言われる」


二人はトボトボ歩く女の子の後ろ姿を見守る

この女の子。鴇沢樟葉と二年後、世界の命運をかけた戦いを共に歩むことになろうとは、誠也は夢にも思っていなかった

が、それは当然だろう

世界はまだそこまで歪んでいない

ただし予兆はあった

運命の歯車が軋みをあげて回りだす前触れはあった


魔術界は今、これまでも何度となく起こった大乱へと突き進んでいた

すなわち、最も危険であると認定された結社

魔術結社「邪蛇の牙」の動きが一層活発になってきたのだ

誰しもが思った。この結社が騒乱を巻き起こすと

すでにマダガスタル、キューバ、ニュージーランドで大規模な行動と儀式を執り行っている

アフリカ、アメリカ、オセアニアの大陸に隣する島国でそれが起こったことから

次はヨーロッパでイギリス。アジアで日本か東南アジアの国々が狙われるのではないかと言われている


そんな情勢下で彼女はこの救世主の生誕祭に一体何を思うのだろうか?


「鴇沢さん、クリスマスの日って……」

「密教徒なのにクリスマスにデート誘うんだ」

「い、いやそういうわけでは…というか密教はこの際はあまり関係ないっていうか」

「教会がクリスマスの日にイベントやるのは当然でしょ?だから予定は空いてないわよ?まぁ沖山くんの好きなシスター姿は披露できそうだけど」

「だからそれは違うって!」

「ははは。誘うなら恵美を誘ってあげればいいのに」

「だからなんで川本の名前が出てくるんだよ!」

「さぁーてね」


言って鴇沢茜は礼拝堂の天井を見上げる


「私はね。みんなが幸せになってくれればそれでいいの」


彼女の声を誠也はただ黙って聞く、茜の声だけが礼拝堂に響き渡る


「みんなが笑って何気ない日常を、それを幸福だと思ってくれればそれでいいの。その中で友達や樟葉、親しくしてくれる人たちが辛い現実を少しでも薄められたらって」

「……」

「クリスマスっていうのはシスターにとってそれを最も提供できる場でもあるんだよ。だから私を誘うだけ無駄だよ」

「それって自分を犠牲にして他人に幸福を押し付けてるようにも思うけど?」

「……」

「いや、これも自分の考えを押し付けてるだけか」


言って誠也はもと来た道へと戻っていく


「長く話すぎたみたいだね、ごめん。イベント成功するといいね!じゃあ」

「うん、当日は恵美と一緒に来てね!」

「だから何で川本の名前が出てくるんだよ!」

「ははは!自分で考えなさい迷える子羊よ!天にまします我らの父は容易には答えを与えてはくれないのです」

「それをシスターさんが言っちゃっていいのかよ」


笑いながら手を振る彼女はいつも以上に魅力的だった

そんな彼女を守りたい……守りたかった

本当に神に祈りを一心に注げば叶うというなら、今ここでこの礼拝堂で回心して彼女の前で跪き祈りを捧げただろう

でも、そうはいかない

運命が最初から決められているとするなら、彼女に与えられた運命というのはなんて残酷なんだろう

それとも、この時無理にでも手を取って引き寄せていれば変わったのだろうか?

変えられたのだろうか?


運命のその時……

魔術結社「邪蛇の牙」との日本での最終決戦の火蓋が切られる一カ月前のことであった

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