7 暗黒神、召喚する その2
「あ、暗黒神様。この2人は?」
半ば呆然としながら、ヒイが聞いてくる。
「俺が召喚した、ダークエルフだな。この2人に、生き残りのダークエルフを探してもらおうと思う」
「召喚、ですが」
奥歯にモノの挟まったような言い方で、フウが確認する。
「これ以上は、しばらく呼べないよ?魔力の大部分を使っちゃったから」
2人が聞きたいであろう事を先回りして答える。
前の大紋章の時は、紋章を維持するのに疲れた感じだったが、今回は力そのものを消耗してしまっている。
回復はいずれするけど、また召喚できるまでには年単位になりそうだ。
だいたい、召喚って言ってるけど、これ実は生命創造じゃね?
さすが神の御技。
「どうしても見つからない場合は、召喚を繰り返す手もあるけど、労力的には避けたいなぁ」
あと、倫理的にも。
「我々に対する御配慮。真にありがとうございます」
ヒイとフウが深く頭を下げる。
気のせいか、今までより一層気持ちが籠もっているような気がする。
「御配慮に従い、誓ってダークエルフの栄華を取り戻します。また、怨敵共にも出来うるかぎりの情けをかけるように努めていきます」
ああ、やっぱり相手を滅ぼす事に嫌悪感を抱いてるのは、バレちゃってたか。
完全に支配コースに誘導してたしなぁ。
「恨みを晴らす事自体は、否定していないからね」
「は」
ミイとヨウは全裸なので、さすがにこのまま送り出すわけにはいかない。
服、食料、武器と様々な品物が必要だ。
これら全部を召喚しなければならない。もちろん俺が。
ただ、今の俺の魔力はからっけつに等しい。
今日のところは、ヒイたちに服を貸してもらって、明日以降にちょっとずつ召喚する事にした。
男?お前は、パンツ一丁でよろしい。
空き時間は、教育に使う。
生き残りのダークエルフを探しに、世界を巡るのだ。地理や国家情勢の知識は必須だろう。
ヒイたちやユキに、そこら辺を教育してもらう。
3人とも長命種で、見かけよりも長く生きており、知識も豊富だったりする。
俺も一緒に聞いて、社会情勢について知識を深めた。
聞いてた感想としては、魔法がある世界だろうが、神の実在する世界だろうが、人間のやる事にはさほど違いがない、という事だ。
ダークエルフの国が、滅んだ一件だってそうだ。
ヒイとフウには悪いが、ダークエルフ側に一点の誤りもないかというと、そんなことはない。
いや、むしろ自ら危機を煽っていた感じすらする。
自らの正義を信じている時こそ、人は最も愚かになれる。
滅ぼす方も滅ぼされる方も。
そしてこの世界は、その正義を保証する神様が実在するのだ。
俺自身を含めて。
やだな〜。真面目に元の公務員に戻りたくなってきた。
そんな俺の慨嘆はよそに、ミイとヨウの準備は順調に整っていった。
ミイとヨウには、印を2つ与えてある。
一つはみんなと同じ五大奇跡のセット。そしてもう一つの印は、変身である。
外の世界に行くときには、ダークエルフの姿はトラブルを呼び込むようなので与えて置いた。
とりあえず、耳だけ変えればどうとでも誤魔化せるようだが、汎用性を与えようと印をいろいろ弄っていたら、一つの印で一つの魔法しか使えなくなってしまった。
そのかわり性別や年齢まで変えることができる。
「それでは暗黒神様。行ってまいります」
旅支度を整えたミイとヨウが、別れを告げる。
「なにかあったらすぐに連絡する様に。お前たちの安全が最優先なのを忘れるな」
「はっ」
2人は再度一礼をし、旅立って行った。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
次回は、18日金曜日に投稿予定です。
しばらく火、金曜投稿になると思います。