6 暗黒神、召喚する その1
1話目で、主人公の外観年齢を3歳程度に変更しています。
結論からいうと成長はできなかった。
全身でなくて、ただ一ヶ所で良かったのだが、無理であった。
神の煩悩が、現実に負けた瞬間である。
そのかわり、と言ってはなんだが、可能なことも分かってきた。
例えば、召喚。
なんと植物の実や種をどこかから取り寄せる事が可能だった。
早速、じゃがいもやサツマイモ、キャベツやほうれん草などを召喚した。
米や麦とも思ったのだが、栽培や加工の難易度が高すぎる。
ここは救荒植物のチャンピオン、芋類にお出まし願った。
サツマイモは、女性陣に媚びた結果である。甘味は正義なのだ。
とりあえず、手取り早く中庭に畑を作って植えておく。半分以上は食うけどね。
いつも気怠げなユキや、表情に乏しいヒイとフウも、サツマイモは絶賛である。
とりあえず、彼女たちの胃袋は掴んだな。
毎日芋料理で、どこまで掴み続けられるかは、疑問だけど。
いろんな食料を召喚してもいいけど、あまり俺の力頼りになってもねぇ。
とりあえず、祝福先生にすがって、作物の速成栽培を行うくらいが限度だろう。
祝福って根本は俺の力だから、十分俺頼りになっている気もするな。まあ祝福かけるのは、ヒイたちなのでセーフ。
それにしても、祝福って応用範囲が広すぎる。祝福先生、ぱないッス。
男性陣が戻るまで、最短で1週間。
その間、俺たちは寺院の補修や周囲の木々の伐採などをして過ごした。
あんまりでかい木を倒しても、魔力を使わないと運ぶ事も出来ないので、ほんの少しづつだけどね。
4日目の夜、俺はヒイとフウを自室に呼び出した。
2階にある、比較的状態のいい、6畳くらいの広さの部屋だ。もっと広い部屋を勧められたが、落ち着かないので断っている。
ちなみにドアは朽ちてしまってない。
別に他意はないが、まともなベッドも布団もない。
ドアやベッドがあったら、そりゃもういろいろ捗るはずだったのにな。
「まあそれはともかく」
俺の唐突な言葉にヒイとフウが、ちょっと目を見開く。
「今日、来て貰ったのは2人の願いについてだ」
「はっ」
2人の表情が引き締まる。
「2人のいう、ダークエルフを滅ぼした者たちに対する復讐だが、俺が思うに大まかに分けて2種類ある気がする」
「2種類、ですか?」
ヒイが不思議そうな顔をした。
やはり、相手を滅ぼすことしか考えてないな。
「一つは、相手を滅ぼす方法」
2人は大きく肯く。
「もう一つは相手を屈服させ、ダークエルフの支配下におく方法だ」
それを聞いても2人は全く動かない。
「前者は一時的な、後者は永続的な復讐だな。どちらがいい?」
「暗黒神様は、どちらにするべきだとお考えですか?」
フウが平板な声で聞く。
「復讐するのは、君たちダークエルフだからなぁ。俺の好みとしては、滅ぼしたと思っていた相手に支配される屈辱を与える方がスカッとすると思うけど」
「ですが」
フウが相変わらず平板な口調で言う。
「そのダークエルフも、私とヒイだけでは虚しいばかりです」
「あ、そこも確認したいんだ」
2人のテンションを置いてきぼりにして、俺は身を乗り出した。
「本当にダークエルフは2人を残して滅んだの?他に生き残りはいない?」
2人は顔を見合わせた。
「国は滅ぼされ、住んでいた街は焼かれたのは確かです。2年間、生き残りを探しましたが、見つけられませんでした。絶対にいないか、と言われれば断言はできませんが」
「ならば、俺が探してみていい?」
「それはもちろん。ありがたいことです」
「じゃあまず、探す人を召喚するね」
「は?」
俺は集中を高める。
ヒイとフウにこんな話をしたのは、そもそもこいつが出来そうだったからだ。
今ある魔力の大部分を使ってしまい、戻るのにも時間がかかりそうだが、彼女たちが復讐心を拗らせてしまうよりも余程いい。
「これは、中紋章」
ヒイが呟いた。
俺の目の前に、直径3メートル程の紋章が現れたのだ。
さらにその中心に人影が2つ現れる。
「出でよ、我が前に」
俺が言うと、2つの人影が急速に立体化する。
そして、1組の男女が俺の前で跪いた。
全裸で。
「我が君の御前に」
そう言って2人は頭を下げる。
「お前たちをミイとヨウと名付けよう」
「ハハッ。有り難き幸せ」
ダークエルフの男女(全裸)は、再び深く頭を下げた。