4 暗黒神、故郷に帰る その4
いろいろやべー奴はいたけれど、印は渡す事にした。
一番やべー奴2人には、既に渡しちゃってるんで、ここで自重してもしょうがないというのは内緒だ。
ヒイとフウの願い?
暗黒神なんて言っても中身はしがない公務員な俺には、荷が重過ぎる。よって公務員の究極奥義を発動させてもらった。
「叶えられるかどうかわからんので、検討する。時間をくれ」
「はい」
2人は恭しく頭を下げた。
なんか前世でこの技を使った時と、反応が違うぞ。
前は、だいたい罵倒されたんだが。
ご理解はいただけたようなので、時間がある時に検討しておこう。
信じてもらえない事が多いが、公務員が検討するって言った時は、ちゃんと真剣に検討するんだぜ。
検討期間が、永遠に続くこともあるけど。
さて、他の4人に授ける印で使える魔法は、ヒイたちと同じにした。
「ふふふ、ふふふふふふ」
右掌に魔力を通し、浮かんだ印を見て不気味な笑い声を上げているのは、お察しのとおりノーフェスだ。
印は通常、胸元、額、下腹部、両掌、両膝の7箇所に現れる。記録上は10箇所というのもあるそうだ。
印一つで最大5つの魔法を宿すそうなので、最大50種の魔法が使えるということだ。
それ以上の魔法を使いたい場合はどうするのかと聞いたら、小紋章を授かるか印書というのを使うそうだ。
小紋章は神から授かるしかない上、持っていれば大僧正や法王に、即指名されるレベルで滅多にないことと聞く。
一方、印書はそれなりにメジャーな方法で、印を特殊な加工をした紙で作った書物に転写する方法だそうだ。
伝説の大魔法使いは、1冊100ページの印書を2冊持っていたらしい。
つまり、最大1000種類の魔法が使えたってことだ。
何が使えるかも、覚えてられないっつーの。
ノーフェスは、既に胸元、額、下腹部に印を持っていたので、右掌に与えた。
ユキも胸元と額に印を所持していたので、下腹部に印を与えている。
美少女ハーフエルフの下腹部に印かあ。なんか、こう滾るものがあるよね。
ちゃんと、印を授けられたか、おじさんに確認させてくれないかな。
いや、今俺は幼児なのだった。これならば、ワンチャン…。
「この印でどんな奇跡が使えるんで?」
ゲールが聞いてきた。
強面のアップを見て、妄想が引っ込んだ。
「全員同じにしといたけど祝福、治癒、結界、収納、念話だな」
真印による魔法を奇跡というらしいが、この5つは五大奇跡と呼ぶらしい。人の修行によって得る印では、使えない魔法で、なおかつメジャーどころの為だ。
ちなみに、なろう小説などでおなじみの鑑定は、小紋章じゃないと使えない奇跡だという。
「五大奇跡ですか!」
スシャルが唸った。
「どうかした?」
「いえ、五大奇跡が全て使える神官は、相当高位なはずだと思いまして」
「え、そうなの?良く見る奇跡じゃないのか」
「一つ一つは、その通りです。ただ、全部揃っている者は少ないかと」
「なるほど、コンプリートした人は少ないってことか」
「は?」
「いや、なんでもない」
俺はブカブカの靴を引きずって、窓際まで歩いていった。
服はなんとか誤魔化して着てるが、靴だけはどうしようもない。
常時、ヒイかフウに抱っこされて移動するというのも、ちょっとねぇ。
心惹かれた事は、否定しないが。
結局、スシャルの靴を借りている。
もともと、リザードマンは靴を履かない事が多いそうだ。
なにはともあれ、窓の外に広がる森、と言うか密林を見やる。
今いる部屋は、寺院風建物の3階にあり結果高さがあるのだが、見渡す限り木々しか見えない。
生き物も多いようで、いろんな鳴き声も聞こえてくる。
「さっき、ゲールとスシャルの望みは、一族が暮らせる場所って言ってたけど、ここは駄目なの?」
開拓は大変そうだけど、誰にも気兼ねなく町を作れそうだ。
なにか、ダメな理由があるのかな。
「それがその」
全員が困ったように顔を見合わせている。
ヒイたちも含めて、だ。
「それがその」
言いにくそうにヒイが口を開く。
「この森の名前は、帰らずの森と言います」
なんとなく察しがついた。
要はここは、生半可な覚悟では入ってはいけない場所なわけだ。
「危険な場所な訳ね。でも、みんなのように、ちゃんと準備すればどうにかなるんでしょ?」
こうやって、この場所に辿りついてるわけだしね。
「いえ、準備も実力も不足していました」
ヒイが首を横に振った。
「入って最初の晩に魔物に襲われて、必死で逃げ回っていただけです」
フウが続けた。
「不眠不休で2日間逃げ回って、偶然見つけたこの寺院に逃げ込んだ。誰も死ななかったのは奇跡だな」
ゲールが感慨深げに言う。
「あれ?じゃあもしかして?」
嫌な予感がするぞ。
「この寺院から出ることはできませんし、どちらへ行けば帰れるかもわかりません」
ヒイの言葉に、もしかしてこいつら、全員ポンコツなのでは?と思わずにはいられなかった。