18 諸君、暗黒神(わたし)は風呂が好きだ
サブタイトルは、間違えて前回と同じにしたわけではありません。
次回のサブタイトルは、まあお察しという事で。
ノーフェスにお湯を沸かす魔道具を発注したので、実際に浴場となるところを整備する事にする。
実はまあ、当てはあるんだな。
中庭の水源からは4つの水路が出ているが、そのうち一つは中庭内の池で行き止まりになっている。
正確には小さな水門があって、その先にも水路があるのだが、水門は閉じられていた。そしてその先の水路も
は神殿の中に入っていっているのだ。
神殿の中には、小さな窪みとさらにそこから分かれる水路が2つ。そして各々に大きな窪みがあった。
最初は神殿内に池でも作ってたのかと思ったが、良く考えりゃお風呂だよね、これ。
最初の小さな窪みでお湯を分配して、大きな窪みは男湯と女湯だろう。
そう考えると、各々の浴槽に脱衣スペースらしきものまである。
真ん中の仕切りを作って、傷んだ浴槽の石組を直せば、立派な大浴場だ。
例え違うとしても、決めた。たった今、俺が浴場と決めたのだ。
「ここに壁ですか」
フウが床を調べているが、柱を立てていただろう小さな穴が等間隔で並んでいる。
「さほど床石も痛んでいませんし、四方の壁も問題無さそうです。3日も時間をいただければ」
頼もしいフウの言葉に、俺は大きく頷いた。
動き始めた大浴場建設プロジェクトに合わせて、俺は小物を作る事にした。
温度計である。
必要なの?と問われれば特に必要はないのだが、文明作るのに計測って大事だよな、って事である。
よりによって何故最初に温度計なのか問われれば、俺は温い風呂が好きだからだ。
温い風呂って、冷えすぎず熱すぎずの温度管理が難しいんだよね。
さらに言えば物差しと秤は、さすがに既にあるからね。
スシャルたちが行う神殿の修復を見ていたら、コンパスや分度器を使って綺麗に石組を直していて感心したぐらいだ。
ファンタジー世界も、馬鹿にしたもんじゃない。フリーメーソンぐらい出来ているかもしれない。構成員はリザードマンかもしれないが。
で、温度計はまだ存在しないようなので、これを機会に作ってみようと思いたったのだ。
「まず油の入った壺を用意します」
ユキと獣人幼女たちを前にして、材料の紹介を行う。
「壺には、密閉できる栓も用意しましょう」
そう言って取り出したのは、コルクのような材質で出来た栓だ。
実はこれ、魔物の素材である。
跳びトカゲという魔物の組織の一部をよく水洗いして、乾燥させるとこうなるらしい。
軽くて俺の知るコルクより丈夫という、優れ物だ。普通にコルクと呼んじゃっているが。
それどころか、魔物も俺がコルクトカゲとと呼んでいたら、みんな真似し始めてしまった。
いやあ、インフルエンサーはツライなァ。
「そして、もう一つはこれ。吸血ヅタの嘴です」
外径2ミリ、内径1ミリほどの透明な管を机に置く。長さ1メートル以上で、驚くほど丈夫だ。
これで獲物を刺して、血をチュウチュウと吸うわけだ。
うねりながら獲物を狙う様は、ちょっと触手っぽかった。
「なるべく若い吸血ヅタの、細い嘴がいいでしょう」
あとは目盛用の板。材料はこれだけだ。
油入りの壺の栓を貫くように、透明な管を挿す。そして、管の中に油が入るように、少し吸い上げる。
吸い上げるのには身長が足りないので、そこはユキにやってもらった。
そして栓周りや管を挿した部分から、空気が漏れないように密閉する。
このとき、あまり壺の中に空気が残らないように注意する。空気の膨張率は馬鹿にならないからね。
さらに目盛用の板を固定して、形は整った。
これで壺を温めれば、中に残った空気が膨張して管の油を押し上げるわけだ。
あとは校正作業だな。
魔法で氷と沸騰したお湯を用意する。
零度と100度の基準として、目盛を分割していくのだ。
あまり細かくしても精度が保証できないので、10度刻みで充分だろう。
「これで完成です」
獣人幼女2人は、拍手してくれたが、ユキは首を捻っている。
「これは、なんの役に立つんです?」
貴様。聞いてはならん事を。
「健康で文化的な生活をおくるために、必要な物だよ」
そう答えるが、ユキはもちろん獣人幼女たちも訳が分からんという表情だ。
おかしい。
以前の世界では、この台詞を言えば一定数の人が納得してくれたのにっ!
いやまあ、こっちで納得する奴がいる方が怖いが。前の世界だって…ゲフンゲフン。
「快適な風呂に入る為に、必要な道具かな」
実際に使ってみないと、わからんけどね。