16 暗黒神、スローライフを企む その4
クラキ様は、一体なにをしているんだろう、というヒイたちの素朴な視線が痛いです。
ユキすらつまらなそうな態度の中に、疑問の表情を浮かべているし。
衝撃音に驚いた角大猿たちも一瞬動きを止めて、こっちを見てやがる。
だが、確認できた事だってある。
砕けて飛んだ砂粒は、ちゃんと結界を透過したのだ。
相手の攻撃は防ぐが、こっちの攻撃(砂粒)は通す。うん。イージーモードだな、こりゃ。
もう一個小石を拾って、振りかぶる。
今度は石にも魔力を通している。なんか、この時点で石がプルプル振動してるのが、恐い。
爆発する前にと思って、急いで投げる。
再び衝撃音が響き、傘状の水蒸気を残して小石が飛んでいった。
次の瞬間。
先頭の角大猿の上半身が、血飛沫と共に消えた。
やだ。私の攻撃、グロすぎ。
思わず現実逃避したくなる光景だ。
遅れて鈍い音が響いた。角大猿を貫通した小石が、その先の樹木に当たった音だろう。
「うん。まあ俺の物理攻撃は、通用するって事で」
背後を振り返るが、一同ドン引き中であった。
一応大事な事を確認する。
ヒイたちの経験値を見たのだ。
俺の攻撃前と変動はない。
「よし。今度は右の角大猿に、みんなで石を投げて見て」
「私たちには、あんな真似はできませんよ」
いつもの暇そうな顔でなく、真剣な表情でユキが言う。
「いや、ダメージを与える必要はないから。当てるだけでいい。ピアとミリもね」
いまだに攻撃意欲の衰えていない角大猿に石を当てても、彼女たちの力ではなんの効果もない。怒りを掻き立てているだけだ。
全員が当てた事を確認して、今度は俺が攻撃する。
今度はさっきと違って極軽く。
狙い通りに石は角大猿の身体を貫通せずに、大きく吹き飛ばした。
一撃で倒したのは、変わらないけどね。
ヒイたちを確認すると、思った通り経験値がかなり増えている。ピアとミリはレベルが3も増えていた。
つまり魔物を倒した時の経験値は、攻撃を行った者の中で分配される、という事になる。与えたダメージは、あまり関係しないようだ。
これでみんなのレベル上げが捗る。
「よっしゃ。次行こうか」
さすがに戦意を喪失して、逃げようとする最後の角大猿を結界で挟んで拘束する。
角大猿の経験値は、このあとスタッフが美味しくいただきました。
角大猿の死体を亜空間収納にしまったあとも、1時間ほどうろついて、レベル上げに勤しんだ。
最後の方は、ヒイたちは自分たちの結界で戦ったが、十分に魔物の攻撃を防げている。
攻撃力が低いので、仕留めるまでに時間がかかるが、ちゃんと戦えると言っていいだろう。
「よし。じゃあ戻ろうか」
みんなのレベルを上げる当てがついたので、俺はご機嫌だった。
みんなのレベルが上がるという事は、これすなわち俺が楽になるという事だ。
面倒な事は信徒に任せ、教祖はのんびりと過ごす。
宗教のあるべき姿じゃないだろうか。
今だって、自分たちの成長を感じ取ったヒイたちが、尊敬の眼差しで俺を見ている。
いやぁ、○食と神様は3日やったらやめられないって、本当だなぁ。