15 暗黒神、スローライフを企む その3
魔法の発動問題に関しては、よーわからんので、ひとまず棚上げにした。
元公務員の心の棚は果てしなく広く、何事であれ受け入れてくれるのだ。
ただ、人工印は面白そうなので、暇がある時に調べてみたい。
「ヒイやフウは、この森の魔物と戦えるの?」
ふと興味を持って聞いてみた。
「この神殿の近くに出る魔物は、頑張って逃げられたら上出来です」
「ふうん。ユキは?」
つまらなそうな顔で、ついてきているハーフエルフに尋ねる。
「無理。魔法も弓も効かないし」
ふむ。
そんな事を聞いたのには一応理由がある。
スオナーデで、住人の頭上に好悪を表すサインが見えたと言ったが、最近神殿に住う信徒(?)たちの頭上にも見えるものが、できたのだ。
レベルと経験値だ。
異世界転生モノに良くあったなぁ、と思いつつ他のステータスが見えないか色々試してみた(具体的には「ステータス」とか「パネルオープン」とか、ブツブツ呟いている)が、とりあえず意味がなかった。
ピアとミリが、なにかいけないモノを見るような視線を送って来たのが、唯一の成果だ。
ちなみに、俺自身は「暗黒神(封印済)」で「神力100万分の2」としか見えない。レベルも経験値もないのは、封印されているからなのか、神様だからなのか。
あと、地味に封印が解けているんだよな。解けたのが、たった100万分の1と見るべきなのか、力が倍になったと見るべきなのかは判らんけど。
で、見えたレベルによれば、ヒイとフウはレベル12。ユキはレベル15だった。
両者でどれくらいの実力差があるか知りたかったけど、比べる相手が悪かったな。
しかし、そんなにここらの魔物は強いのか。
祝福のせいで、全く近寄ってこないからなー。
「よし。ちょっと一狩り行くか」
危険だと渋るヒイたちを説得して、祝福の範囲外へと足を踏み入れた。
説得というか「俺の力を信用できたのだないのか」という卑怯なゴリ押しだったけどね。
せめて護衛を十分つけてくれ、という嘆願には「君たちが付いててくれれば十分だ」という、殺し文句で応戦した。
という事でヒイとフウ、ユキに獣人娘二人で森の奥に入っていく。
魔物と戦うのが目的なので、祝福は使わずに結界で防御を固めている。
ピアとミリを連れてきたのは、ヒイたちとの比較の為だ。
ピアもミリもレベルは2。一般的幼児だったら、こんなもんだろう。
「まず俺が単独で倒す」
いろいろ確認したいことがあるので、そう宣言した。
さっきから魔物が遠巻きに、俺たちを伺っている。たぶんそろそろ、攻撃してくると思うんだけどなー。
近付いて来たのは、ゴリラ風の魔物が3頭。ただのゴリラではなく、両肩や両肘、それに両の拳にツノが生えている。
言ってみれば、パンクロッカー風ゴリラ?
更に究極殲滅兵器 丸太を抱えている。
ファンタジー世界でなく世紀末の荒野に似合いそうな魔物だ。
「灰色角大猿です。魔力を纏った打撃がきます!気をつけて!」
フウの警告が終わる寸前に先頭の角大猿が、驚異の跳躍力を見せ襲ってくる。
「ヒッ!」
ピアとミリが、身体を震わせ悲鳴を上げた。
だが角大猿は空中で、ギャグの様な姿勢のまま静止する。
結界にぶつかったのだ。
そこに何かがある事はわかったのだろう。
3頭は丸太で無茶苦茶に殴りかかってくる。
ドカンドカンと物凄い音はするが、結界は全く揺らがない。
「念のために五重に張ったけど、一枚で十分だな。まあ、用心のために三重くらいにしとくか」
そうヒイたちに話しかけるが、彼女たちの顔色が悪い。そりゃ、目の前で3頭の魔物が狂乱しているんだから、無理もない。
「こっちからも攻撃してみるか」
足元の小石を拾う。
全身に魔力を循環させ、脳裏には前の世界でみた野球のピッチャーのフォームを再現する。
実はプロ野球も高校野球もあまり見ない人だったので、アニメや漫画のフォームばかりが浮かんでしまうが。
ドオォーン!
小石を投げた瞬間、破裂音が響いた。
右手の先端速度が音速を超えたらしい。
右足が地を噛んだ瞬間、俺の心の中にある野球帽が背後に飛んだ。
うむ。完璧なエースの投球フォーム(アニメ版)だろう。
小石?
俺の手の中で砕けて、全くダメージを与えられませんでしたが、なにか?