13 暗黒神、スローライフを企む その1
うーむ。
文字通り誘拐殺人犯どもを塵に返したわけだが、精神的なショックなんかは特にないなぁ。
ショックがないというのが、ショックだ。
やはり神様になってしまって、精神的な構造が変わってしまったのだろうか。
そんな事に悩みながら、3日ほどかけて一件の後始末をしていく。
と言っても、ヒイとフウと一緒に拐われた子供達を親元に返しただけだが。
何人かに、我々が誘拐犯と間違われそうになったのは、ご愛嬌。すぐに誤解も解けたしね。
問題は、3人、親が見つからない子がいた事だ。
獣人の女の子が2人に、人族の男の子が1人だ。
良く事情を聞いてみると、もともと親と死別していたらしい。親戚などに引き取られたが、邪険にされた上、誘拐犯達に売られたという事のようだ。
「かわいそうに。クロキ様。この子たちは、連れて帰りましょう」
フウが、猫人の女の子を抱っこしながら訴える。
猫人の子は豊かな胸に抱かれて、気持ち良さそうにしている。
貴様、そこは俺の特等席だぞ。替われ。
ゴホン。
咳を一つして、落ち着く。
しかし、ヒイもフウも子供好きだよな。俺の事も子供扱いして、撫でくり回すし。
主に頭なのが、残念だが。
「他に行く宛がないならいいんじゃない?見捨てるのも可愛そうだし」
猫人の子も犬人の子も、かわいいしな。特に犬人の子の垂れ耳がいい。
人族の男の子は、随分と大人しくおっとりした感じだ。
3日の間に随分懐いちゃったし、森の住人が増えるのは、いい事だろう。
更に2日ほど買い物をして、森の中に戻る事にする。
俺は亜空間収納を使えるので、有用そうな物は手当たり次第に買い込んだ。資金は俺が召喚した金である。
いろんな製品よりも、単なる金属である金の方が召喚が楽なのだ。たいした量は必要ないしね。
錬金術?簡単じゃん。
とか言ったら、元の世界の昔の人たちは怒るかな?
金を売る時と、亜空間収納を使用する時には目立たないように気をつけたが、それ以外は街歩きを堪能した。
帰らずの森に入る時も、目立たないようにする。
森に入るのは、高レベルの狩猟者だけで、しかもホンの入口近くだけだという。
泊まり込みで入るなど、自殺行為に等しいそうだ。
でもヒイたちは、3日程彷徨ったんだよね。と聞くと、苦笑しながら「運が良かったんですよ」と答えた。
その3日間も寝る事はおろか、僅かな休憩もロクに取れずに逃げ惑っていたそうだ。
それで犠牲者も出さず、偶然にあの神殿にたどり着いたのだから、本当に運がいいのだろう。
「ですから、この祝福は本当に助かります」
しみじみとフウが言った。
うむ。我が偉大なる力。崇めるが良い。ヌハハハハ。
我ながら似合わねーな。
久しぶりに神殿に戻ってくると、だいぶ開墾が進んでいて見違えるようだ。
なにより神殿が、随分と綺麗になっている。
「おいおい、神殿なんて後回しにして畑や自分たちの家を優先すればいいのに」
「そうはいかねぇ。クラキ様の住むところは急いでやらにゃ」
ゲールが鼻息も荒く言う。
ちなみに全員に俺の事は、クラキと呼ぶように言い聞かせた。
渋る者もいたけど、神々の言葉でクラキは暗黒神の事だ、と騙くらかして納得させた。
様付けは、ちょっと嫌だが「暗黒神様」と連呼されるよりは、余程いい。
どうせなら「クラキクン」とか「クラキチャン」で最上級の敬意を表す事になる、とか言っておけば良かったな。
それはともかく、冷たい石造りの神殿に俺一人が住むなんて、寂し過ぎる。
「ヒイとフウは、俺の巫女なんだから、一緒に神殿に住む事」
「承知しました」
「獣人の女の子二人も、小間使いとして住まわせでもよろしいでしょうか」
もちろん良いともさ。
よっしゃ。これでバインバインとモフモフ、ゲットだぜ!