12 暗黒神と、生贄と その5
深夜、黒ずくめの男たちが入ってきたと思ったら、訳の分からない事を叫び出した。
そして、なんの躊躇いもなく放火。まさに鬼畜の所業である。
子供たちが、グッスリ寝入っていて助かった。結界で守っているが、泣き叫んで大騒ぎだったろう。
しかし、この蛮行。
俺の封印を解くためだという。
ふざけないでもらいたい。
今回は子供達を助けることが出来たが、この手際の良さ。絶対に今回が初犯じゃないだろう。
一体、何人が犠牲になったのか。
それを俺の為だ、と思ってやがる。
ホントにふざけないでもらいたい。
更に救えないのが、こんな行為が俺の封印に何の影響も与えないという事だ。
確かに暗黒神の封印は解けておらず、力が大きく抑えられている。だが、封印の解除に生贄だの魂だのは、一切影響しない。
だいたい暗黒神は悪の神じゃねーし(たぶん)。
「一体、誰がこんな事を頼んだのかな?」
炎の中で仁王立ちして、声を上げた。
3才児の身体なんで、たぶん迫力は無いけど。
それでも男たちは驚きの表情を見せて、固まっている。
「一体、誰がこんな意味のない生贄を求めた?」
重ねて問うと、中央の男が震える声を上げた。
「お前は、何者だ?なぜ平気でいる」
「こんな弱々しい魔法で、俺を傷つけられるわけないだろう?」
そう言いながら、全身から魔力を放出してみた。一瞬で、炎が消える。
もったいないので、放出し魔力はすぐに吸収する。
魔力を放出するのも、吸収するのも、ちょっと気持ちが良かった。
出し入れするのは、気持ちいい、か。
世の中の真理を見つけた気分だ。こんな場面じゃなかったら、ニヤニヤしてしまっていただろう。
「我が魔法が!貴様、一体何者だ!?」
俺が馬鹿な事を考えているとも知らず、男が低い声で問う。
周りの男たち共々、武器を構えた。
「勝手に呼んでおきながら、ご挨拶だな」
「なに?」
男は口をアングリと開け、そして笑い出した。
「まさか暗黒神様の使徒とだも言うのか」
「勝手に俺の名を使い、罪なき子供たちの命を奪う所業。許されると思うなよ」
もう一度、魔力を放出する。
今度は面状に出すイメージで。
そしてまた吸収。
うん。やっぱり気持ちいい。
放出した魔力で檻を吹き飛ばしたので、爽快感もある。
「クソ!やってしまえ!」
なんか、昭和のアニメか時代劇にありそうな台詞と共に、男たちが攻撃を仕掛けてきた。
こっちは結界で守られているが、鬱陶しい。
記憶を探ってみると、良さげな魔法があった。
「拘束」
俺の目の前に、闇の中でさらに玄い小紋章が現れた。
同時に地面から黒い縄状のモノが現れて、ウネウネと男たちを拘束していく。
なんか思ってたのと違う。
これでは触手プレイではないか。
オッサンども相手に、そんな事をするほど俺は上級者じゃない。
「くっ」とか唸ってんじゃねーよ。
「そ、その小紋章はまさか」
リーダーの男が驚愕している。
「暗黒神様の小紋章…」
「そうみたいだね」
小紋章は、自分で得る事はできない。神から授けられた者か、神自身でないと使えないのだ。
そして、先日まで暗黒神は封じられていて、誰かに紋章を与える事は出来なかった。
「求めていたモノに、ついに巡り会えたんだ。少しは喜んだらどうだい?」
優しく笑いながら言うが、男たちは真っ青になって言葉もない。
「意味もない無駄な生贄を捧げてまでして、俺を呼んでいたんだろう?」
「意味のない?我々の祈りに封印を解いて御降臨されたのでは…」
「人の名を勝手に使って、意味のない殺戮をする輩を懲らしめに来たんだよ」
「あ、貴方様は暗黒神様なのでは?!」
男は悲鳴のような声を上げた。
「そうだよ」
「この腐った世に暗黒と滅びをもたらす邪悪な御身で有れば、我々の行いも嘉したもうのでは」
「あんたさあ」
俺は溜め息をついた。
「本人を目の前に、良くそんな悪口雑言を言えるな」
「あ、悪口雑言?」
意味のわかっていない男たちに、微笑みかける。
「まあ、それが望みなら叶えてやろう。滅びを与える」
「お前たちにな」