ねんがんのふくをてにいれた!
「そ、その……すみませんでした……」
「いやいやいや、誰だって間違いはあるさ、気にしないで、ね?」
まさに死闘だった。話を聞いてくれないレベルまで怒っていた彼女をなだめすかし、言い包め、丸め込みつつ自然に自然に俺は悪くぬぇを混ぜ込んで、なんとか説得することができた、現状としてはどうやらネズ公に襲われていたところを助けた命の恩人に勘違いで(実際は勘違いもくそもないと思うが勘違いで)ナイフを投げつけてしまった、というところに落ち着いた。
実に都合よく部屋にあった衣服を着こみつつ、今度は申し訳なさで(説得の成果)平謝りの彼女をなだめる。若干ぴっちりとしたサイズではあるが、この際文句など言えるはずもない。やっとこさ人類の仲間入りを果たしたというか、尊厳を回復する以上に重要なの?
「あーところで、ここが何処か教えてくれないかな?」
「へ? えっと、シェルターの近くの遺跡で、あ、シェルターっていうのは私が……」
つらつらと語られる情報をまとめるに、どうやら付近にある程度安全な住居があり、この廃墟の町は遺跡として漁られているご様子。ついでにシェルターはそこそこ近いみたいだが道中に人より大きいクリーチャーや土煙を上げる何かがいる可能性あり、と。
具体的な町や国の名前は出てこなかったが、まぁ元の世界と同じかどうかも分からないし、よしんば同じだった所でだからどうしたという話ではある。外国だったりすれば地理なんて欠片も分からんし。同じ国だったとしても地理なんて覚えてるわけもなし。
シェルターといえば、ゲーム時代では物々交換である程度アイテムの整理が出来たり、非好戦的なNPCが固まっていたボーナスポイン……もとい、なんかそんな感じの場所だったように思う。しかし、となれば今度は目の前の女の子に話が行くわけで。
「君は何故一人でここに?」
「ぅあ……その……病気を治す薬を探しに……」
お薬、そういうのもあるのか。冗談はさておき、何かまずいことを隠すようにしながらそういう女の子の様子を見るに……はっ! そういうことか!
つまり、身内なりなんなりが病気になってしまって、こっそり安全なシェルターから抜け出して薬を探しているってところか! なんていい娘なんだろうか! そんな娘の目の前で全裸で死体をもってパンツくれとか言った変質者がいるみたいなんですよ、俺だった。
違うんです、出来心すらなかったんです。状況的に仕方のないことだったんです。はいやめ、この話ここでお終い! その話は永遠に置いておくとして何かお詫びをせねばなるまい。まじで。ここでハイサヨナラとかどう考えてもアウトである。
しかし、病気の薬となると、元の世界ならまだしもこの世界に万病速攻丸があるのだろうか? あー、最先端の武器があったことを考えてみれば、まああるのかなぁ。その辺の民家に転がっている可能性もあるっちゃあるけど、一番見つけやすいのは……。
「病院、だな」
「びょう、いん?」
……おいおいマジかよ病院も分からずに薬探しに来てたのかよ。責任者出てこい年頃の女の子一人で歩かせたらいかんでしょ! 事案が発生したらどうするの! しかし此方もさっきの出来事的に考えれば一緒に行こうと言っても断られるかもしれないが……そうなったら陰から……ストーカーは親告罪だから見つからなければセーフ!(限りなくアウト)
「薬の一杯ある所、かな。良ければ一緒に探そうか?」
「良いんですか!? お願いします!」
ちょろい。信頼とか信用以前の問題な気がする。ちょっとーいい子過ぎんよーどうなってんのー?
万病速攻丸:主人公の元の世界で製薬業を終わらせたお薬。専門医療が必要な病気とか外傷以外ならまず間違いなく完治するナノマシン技術の塊。薬じゃないじゃん!