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仮題:VRゲー世界に転生  作者: クラスペダ
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ダブル・ファーストコンタクト

 警戒しながらビルの中に入っていく。実のところ激しい運動さえしなければ腰回りの物はそこまで邪魔でなかったりもする。むしろ本当に一番ほしいのは靴、せめて靴下が欲しい。紳士がどこまで脱いでも靴下とネクタイを手放さない理由がきっとそこにある。


 廃墟、などといったものの比較的綺麗なビルを選んで入ったわけだが(少なくとも目の前にあったビルが隣で倒壊していたものより格段に綺麗だったのは明らか)、やはり少なからず床が荒れていたりして歩きにくい。怪我や病気が怖いというのは、元の世界に比べて安全でないこの世界では命に直結しそうなレベルの問題だ。


 しかしまぁ、ピッキングツールだのといった器具もマスターキーもない現状、鍵の掛かったドアなどはおそらく開けられないので、最初に探すべきは管理人室などの鍵だろうか。それともこんな世界の状態で悠長に鍵を掛けていないだろうと高を括り直接適当なお部屋のドアを開けてみるべきだろうか。


 ゲームの時は装備品なんてその辺のヒャッハーなどから強奪すれば良かったし、スニークやらステルスやらでダクトに忍び込んで謎クリーチャーとこんにちわ! なんかもした身ではあるが、少なくとも初期段階で全裸だったことはない。なんかよくわからないぴっちりスーツ(しかもいくらダメージを食らっても貫通しても中身はともかく服は無傷)だった。


 ともかく、服の捜索などは初めてなのである。実際着れる服なりなんなりが無事に残っているかどうかも怪しいところではあるが、諦めるには早いどころか人間として失ってはいけないものの為にも最善を尽くさない内には諦めてはいけない。


 と、探索を始めようとした矢先に何処かから叩き付ける様な音が耳に入る。流石に手ぶら(ついでにぶらぶらしているものもあるが)でクリーチャーを相手にはしたくないのだが、音が聞こえたのに気にせず部屋に入って追い詰められましたというのもシャレにならない。


 というか最悪の場合既に捕捉されていて、たとえ全力でビルから逃げたところで追ってくる可能性も考えれば、一回確認しておく事は間違いではないだろうとゆっくりと音のした方向へと歩みを進める。も、もしかしたら友好的な人の可能性だってあるしね?


 今度はがりがりとひっかくような音が始まったが、か、可能性はまだ残ってるから(震え声)。曲がり角の向こう、音の聞こえる通路をのぞき込むと、案の定元の世界では考えられない(少なくとも自然の中にはいなかったであろう)膝上ほどまでの大きさのネズミ……? のようなクリーチャーがドアをその長く変成したかぎ爪で引っ掻いていた。


 ふむ。ふむふむ。なるほど。やはり人では無かったと。いいよ別に最初から期待なんてしちゃいないさどうせそんなこったろうとはおもってたよでもちょっとだけしんじてみたかったというかあれなんでだろうむねがいたいやははははははと精神不安定ごっこはここまでにして真面目に考えよう。


 未だにドアを引っ掻いている様子からは此方に気が付いている様子もなく、素手で対処できないレベルの、それこそなまらすげぇやべぇもうだめだぁおしまいだぁクラスのクリーチャーでもないと。しかしまぁ他の部屋を漁ってたら気が付かないうちに後ろにいてバッサリという可能性はありそうだなぁ……。


 となれば自然選択肢は決まってくる。つまり障害(サーチ)(アンド)排除(デストロイ)の精神である。叩いて潰せる脅威は早めに摘み取るが吉って多分誰かが言っていたに違いあるまい。そうと決まれば早速後ろから「コツン」……ふぁっく。


「キー?」


 目と目が合った瞬間、あ、見つかったなと気が付いた。説明すると、無意識のうちに踏まないように足で転がした石が意外と良く転がった挙句いい音を立ててくれたと言ったところか。うーんこの。やっちゃったぜどころの騒ぎではない。


「ヂュイ゛ー!」

「ですよねー」


 勢いよく飛び掛かってくる爪ネズミ。よく見れば爪だけじゃなくて歯の方も凶器と呼ぶに相応しいご様子で。とはいえこちらもタダで食べられるわけにもいかない。というか訳も分からず全裸で放り出された挙句速攻でネズミの餌とか末代まで笑われる。まあ俺が末代になるわけだが(渾身の激ウマギャグ)。


「よっ」


 というわけで飛び掛かってくる力を利用ながら爪で引っ掻かれないように気を付けつつやけに発達した腕を抱え込み。


「こい」


 両足で頭を挟み込む様にして頸椎を外してやり。


「せ」


 回転させるようにして頭から地面に叩きつけ、脊髄を破壊する。どこぞの漫画で見たような技もあら不思議、さくっと再現できた辺りやはりゲームの頃と同じように動けると見て間違いないだろう。初歩的なミスさえ無ければ後ろから首をコキャリで済んだのだが。


 ぴくぴくと震える爪ネズミ。いやぁ強敵でしたねなどと冗談を言ってもいいのだが、ゲームの頃と違ってアイテムのドロップなんぞも無ければ自然に消えたりもしないだろうこれをどうしようか。最悪、そう最悪この廃墟の探索の結果次第では毛皮を剥いで腰みの風にするのもアリやもしれぬ。食べれるかどうかはさておくとしても、とりあえず放置するよりは持って行ったほうがいいか。


 おおよそ3~40㎏程度だろうか。まあ片手で楽々持ち運び出来る程度である。明らかに元の肉体とスペックが違うがゲームで慣れ親しんではいるので戸惑ったりはしない。いっそ強化してくれたってばちは当たるまいに。服の分くらい。


 とまれ、せっかくなので先ずは目の前のドアを開けてみる。ネズ公が引っ掻いてはいたが特に問題なくドアとして機能しているし、ガチャリとノブを回せば鍵もなく素直に開いてくれた。……開いてしまったともいうが。


「ひっ」


 なんという事でしょう。ドアの中にはナイフを構えた女の子が! …………!?!?!?っ???くぁwせdrftgyふじこlp!!! 俺全裸じゃん! どうあがいても変質者じゃん! 訴えられたら負ける気しかしない!


「まて、落ち着け」


 弁護士を呼んでくれ。僕はやってない。無実だ。目が覚めたら全裸だったんだ。などと供述しておりじゃないが。何か打開策、打開策はないか! そうだ、とりあえず着るものがあればなんとか、何とかなるはずなんだぁ!


「パンツをくれないか?」

「きゃぁっ!」


 飛んでくるナイフを手に持ったネズ公で受け止める。刺さったところから噴き出した血が顔にかかる。危ないじゃないか、なんてことするんだと言おうとして気が付く。


 ネズミの死体を持った全裸の変質者がいきなりパンツをくれと女の子に言う。


 ……事案である。もはや弁護の余地すらない。客観的に見てどうあがいてもアウトである。


「……落ち着け、誤解だ、話し合おう」

「っ……」


 真っ赤になってプルプルと震えている。いったい誰がこんな酷いことを!……これ何とかなるんだろうか?

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