第八話
「いやいやいや、ちょっちょっちょっ、待って待って、え、いや何? おいシュン?」
「おいシュン!?って言うかシュン、いやあれ? なんだ、そのシュン?」
ルースとヴォルは混乱し過ぎだろう。
「えーっと……え、えー……何が、どうしてこうなってるの?」
「シュン君がお兄ちゃん? え、なんで? あれ記憶は?」
リーリスとパティナも目を回す。
「ルー……ルーセリーナ様? ルーちゃんって、え? 何、可愛い。」
レイテスもルーセリーナの変貌に衝撃を受ける。
少年と老婆の抱擁。
それは傍から見れば孫とおばあちゃんとの感動の再会に見えたかもしれない。
しかし実際は、お婆ちゃんが少年に対し『お兄ちゃん』と言い、孫の方がお婆ちゃんを子供扱いする見事な逆転現象。
混乱と疑念と不信の渦に叩き込まれるルース、ヴォル、リーリス、パティナ、レイテスの五人。
一頻り再会を堪能した両者は、ハッ、と我に帰る。
「えーっと、その、なんか思い出したかなぁって思ったけど……気のせいでした。」
「まあそのなんじゃ、気にせんでくれ……お主らは何も見んかった、そうじゃな?」
取り繕う二人に五人の心は一つになった。
「無茶言うな!」
事ここに及んではシュンも観念した。
正体を明かす事にする。
別に隠さなければならない理由は元々無い。
語れば長くなるだろう、だから要点だけを掻い摘む。
自分が異世界から召喚された存在である事、魔族と戦い魔王を倒した事。
そして封印され、二千年の時を経て今皆の前にこうしている事。
「それを……俺たちに信じろと?」
「確かに突拍子も無い……俄かには信じられん。」
ルースとヴォルは揃って渋面を作る。
「そうよね、二千年って……異世界、何それ?」
リーリスも不信を露わにする。
「え、じゃあシュン君はシュン君じゃなくてシュンさんなんですか?」
パティナが論点が合ってるような合ってないような事を言う。
「この娘いえ、この男の子がルーセリーナ様が言っていた英……雄?」
レイテスも半信半疑だが、ルーセリーナへの信頼度の高さから信じる方に傾いている。
「まあ、信じられない話だとは思いますけどね。」
シュンだってそれは承知している。
そもそもシュンが知っている“神々”やらと、この世界で信奉されている神々は違うモノだし、異世界という概念はあっても、それは天界、魔界、精霊界みたいなほぼ地続きに近い世界の話だし、ましてや二千年前の大戦などルース達人間にとっては伝説の話だ。
エルフ最高齢のルーセリーナが証人だとしても信じるのは難しいだろう。
「そもそも、魔王を倒したって言うか封印したのは勇者ランデルディーのはずじゃなかったのか?」
ルースは自分たちが伝え聞いている話をする。
勇者ランデルディー……それは二千年前の人々の希望。
白銀の鎧を纏い神金の剣を手にしたその勇者が、魔王ヒュンデルガルスを自身の生命と剣の力で封印し、世界に光を取り戻した。
と言うのが彼らの知る伝説だ。
「ああ、ランデルディーですか、懐かしいな……あいつも出世したもんだ。」
シュンはいつも傍にいた荷物持ちの男を思い出す。
異世界に飛ばされてすぐに出会ったその男は『雑用は任せてください兄貴!』とか言って付いてきた者だった。
魔王に対峙する直前、シュンを庇って命を落としたランデルディー。
シュンには二千年も経った実感はないが、相当な年数が経っている感覚はある。
それ故の懐かしさがこみ上げてくるが、同時に当時の気持ちも思い出し、自然と涙が頬を伝う。
「まあ、信じてもらえなくてもいいんです。」
涙を拭きながら言う。
本当の事を話せたシュンは晴々とした気持ちだ。
「でも間違いなく魔王は封印とかじゃなく倒しましたので、復活とかはあり得ないですから、安心して下さい。」
ヘキサピラーの事を気に病んでるかもしれないルースにフォローを入れる。
「いや、信じないってわけじゃないんだけど……ランデルディーは家の御先祖様なんだ。」
おや、あいつに子供なんかいたっけ?
それどころか独身だよな。
シュンは何やら触れてはいけない話題の様な気がして、それに関しては口をつぐむ。
「ランは僕と一緒にずっと魔族と戦ってきました、あいつだって立派な勇者です。」
嘘偽りないシュンの本音だ。
あいつがいなければ俺も何度命を落としていただろうか。
正直戦闘能力が飛び抜けてるとかではないが、とにかく気が利いていて必要な事を必要な時に、実に的確にアシストしてくれた。
シュンはあの憎めない友人の顔を思い浮かべながら。
「あいつがそんな風に評価されてるなんて僕も嬉しいですよ。」
本当に嬉しそうにそう言った。
しかしルースは複雑そうな表情を浮かべる。
「アンタはご先祖様が自慢だったもんね。」
リーリスが気遣う様な口調で言う。
「その鎧も御先祖様にあやかって、だったか?」
ヴォルがからかう様に言う。
「でもレプリカなんですよね。」
パティナが身も蓋もない事を言う。
だいぶ皆んな調子を取り戻してきた様だ。
「え、じゃあルースさんって良いとこの出って事なんですか?」
伝説の勇者の末裔という事はそういう事になるのだろうが、あまりボンボンには見えないので……兄も兄だし、シュンはルースに聞いてみる。
「うーん、まあランデルディーの末裔って沢山いるから……。」
なるほど、そういう事かとシュンは納得する。
自分が封印され、事実を知る者がいなくなったので、生き残った誰かが勇者をでっち上げて血縁関係を主張したんだろう。
きっとそれは滅亡しかけの人類を纏め上げるために仕方の無い行為だったに違いない。
そして、そういった輩があちこちにいたのかも知れない。
なんせランは声がでかくて目立ってたからなあ。
常に自分の隣にいたし、きっと多くの人が勘違いした事だろう。
どちらにしろ、ルースは分家の分家とかそんな感じで、でっち上げの本流ではないって事なんだろうな。
その様にシュンは理解する。
「いや、それはいいんだ……それよりシュン……さん?」
「今まで通りシュンでいいですよ。」
「そうか、その方が助かる……それでシュンの冒険者カードの事なんだけど。」
「そうか、記憶があるという事は……」
「ルースさんの言っていた手は使えないんですね。」
「元々どうかと思ってたけどね。」
「なになに、シュン兄ちゃん何か困ってるの?」
今まで黙って成り行きを見ていたルーセリーナが話に入ってきた。
「いやなに、ちょっと身分証代わりに冒険者カードを作ろうって話しをここにくる前にしてたんだ。」
シュンはルーセリーナに説明する。
「あのルーセリーナ様、その話し方何とかなりませんか?」
レイテスは今までのルーセリーナとのギャップに不安定な気持ちになってきた。
「レイテスはシュン兄ちゃんの前で『ですじゃ』とか言えっていうの!?」
「今まで言ってたじゃないですか!」
年相応の話し方をして欲しい、ただそれだけなのだが。
「そんな事よりシュン兄ちゃんは冒険者カードが欲しいの? 冒険者になりたいの?」
「そんな事って……。」
レイテスのルーセリーナ像が崩れていく。
「まあ、それも面白いかなって思ってるよ。」
「なんだ、じゃあルーが作ってあげるよ。」
え!?
「ちょっ、ルーセリーナさん?」
「偽造はダメですよ!?」
ルースとパティナが声を上げる。
「偽造なんてしないよ、だってアレ作ったのルーなんだから。」




