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第五十七話

二千年前、シュンがこの世界に来ておよそ五年が経った頃だろうか。

初めは頼りなかったシュンも、この頃には覚悟も決まり、自分の能力も把握し、魔族に対して国家規模の大攻勢をしかけている最中(さなか)だった。


ある時シュンは、魔族によって占領され支配されたとある城を奪い返すために、攻城戦を仕掛けた。

五百人の魔族に対して総勢三万五千の大軍だが、戦力差は人間側が圧倒的に不利である。

魔族はそれぞれが人間の兵士百人以上に匹敵する戦力を持つのだ。


ましてや攻城戦は通常相手の三倍の戦力が必要だと言われており、さらにこれは人対人の場合だ。

空を飛び、空間すら移動する者だっている魔族相手には、五倍ですら心許ないだろう。

だが二十五万もの軍勢を揃える事はできない。

本陣の守りや、他の戦線の維持、治安回復や難民支援、多大な傷病者などの為に、どこも人員は不足している。


そしてその足りない戦力を補うのがシュンの役目だ。

複数の魔族を同時に相手取ることのできる者は、少ないが存在する。

だがシュンは別格だ。

神威の力を持ってして魔族を圧倒する。


この戦いでも半数以上の魔族を屠り、城の奪還に目処が立ってきたその時だった。


「アニキい、 上に変なモンが出てきたぜ!」


ランの叫びにシュンは魔族に囲まれながらも上方に注意を向ける。


確かに変な物が上空に現れ、浮遊していた。

歪な形でゴテゴテとした仰々しい悪趣味な装飾がされているが、何者かが腰を掛けていた。

差し詰め玉座といったところだろうか。


その玉座がゆっくりと降下してくると、一斉に魔族達がひれ伏した。


その隙を見逃すシュンではない、これ幸いと、嬉々として魔族達を切り倒して回る。


何者かが来たとしても知った事ではないし、待っていてやる義理も無い。

こんなボーナスステージを見逃す手はないのだ。


「さもしい真似はやめよ、人間の勇者。 それは己の格を下げるだけの行為であるぞ」


低く深く、臓腑に響く声音でその何者かがシュンを諌める。


「こっちは余裕が無いんでね、文句なら戦闘中に平伏なんかしてる部下どもに言え」


その何者かに顔も向けずに言い捨てるシュンには、その正体の見当はついている。


「座って登場とは恐れ入るな、魔王」


シュンが振り向くと同時に、玉座は着地しそこに座している者の姿が露わになる。


シュンと魔王フューデガルドとの初遭遇だった。


ーーその後シュンは魔王に殺されかけた上、散々(なじ)られ、作戦は失敗。

半死状態のシュンをランデルディーが担いで戦場から離脱し、二万近くの被害を出すことになった。

帰還後ジェスティースに治癒をかけてもらい、シュンは九死に一生を得たのだったが、無抵抗の魔族を殺して回った事が知られると、ジェスティースにランデルディー共々思いっきり殴られ、さらに説教をされ、殴られた時に出来た怪我は治してくれなかった。ーー



シュンは魔王と初めて会った時のことを思い出していた。

あれから二千と余年、まさか肩を並べて共闘する事になるとは、最近まで考えもしない事だった。


まあ、魔王と言うよりはエミなのだが、どっちでも同じだろう。


「なあまお、いやエミ。 こんな時に何だが……」


「どうした?」


「ちょっと昔の事を思い出してな、殴っていいか?」


「いい訳あるか! 一体何を思い出したんだ!」


流石に二千年前の前世の事は水に流したいが、シュンにとってはあまり時間が経っていない。


「二人とも気をつけて、私の“瘴気祓いエクスペルインピュリテス”はアンデッド本体にも少なからずのダメージを与えるはずですのに、効いている気配がありませんわ……」


ミラが全員に“瘴気耐性(レジストマイアスマタ)”を掛けながらシュンとエミに声をかける。


と言うのも、ミラの放った魔法は死体(コープス)系アンデッドに特効を持つもので、ミラの使える退魔魔法でも上位の魔法なのだ。

それがただ周囲の瘴気を一時的に退けただけの結果で終わってしまった。

ミラの想定を大きく超える強力なアンデッドなのだと、今更ながらも気付いたからだった。


『ごちゃごちゃ五月蝿えぜ!』


いつまでも向かって来ようとしないシュン達に、バーティービジットは業を煮やし、襲い掛かってくる。

ヘカルベレントや以前のリュックとは違い、武器を持っていないバーティビジットは、肉片を撒き散らしながら無造作に殴り掛かってくる。


隙だらけで大振りな打ち下ろしのパンチだが、シュンもエミも大袈裟に飛び退く。

嫌な予感がした為だが、それは的中した。


目標を失ったバーティビジットの拳は地面を大きく抉った。

確かに威力はある。

しかし問題はそんな事ではない。 問題なのはバーティビジットの拳そのものだ。


拳に顔の様なものが数人分浮かび上がって纏わり付き、“ウオオ”などと呻いていた。

明らかに呪い的な何かである。


拳を振るうだけで肉片などが飛び散るのに、地面を抉るほどの勢いで叩きつけても拳が砕け散らないのは、おそらくその効果だろう。


「おい、今の気付いたか?」


エミが声だけでシュンに問い掛ける。


「ああ、気持ち悪い技を使ってきやがる」


効果範囲が分からないので、迂闊な攻撃は出来ない。

ミラなら何か対処手段を持っていないだろうか? そうシュンが考えた時、そのミラから声が上がる。


「そ、そ、そんな……嘘ですわ、あれは“纒禍呪(ディザスターコイル)”……」


ミラが驚愕する。

……期待はできない様だった。


『ああん?何でぇそりゃあ』


「ミラ、それは一体何だ?」


バーティビジットとエミの声が重なる。


その刹那、シュンが動いた。

エミがバーティビジットと共に声を上げた事によって微かに隙が出来たのだ。

バーティビジットだけが声を上げたなら、此方への警戒を緩めることは無かっただろう。

同時にエミが声を上げる事により、自身でも気付かない程度の隙が生まれた。

意識がミラとエミに傾いたのだ。


シュンはミラでは対処できないと判断した瞬間に、自力での対処に切り替えていた。

それは単純なものだ……ディザ何ちゃらの影響を受ける暇さえないほどの速度で斬り付けてそのまま距離をとるというものだった。


『な、何だとおお!』


シュンの斬撃はバーティビジットの腕を切り落としていた。


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