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第五十話

「そうだな、パーティーを抜ける前に頼みがある……台所はあるか? カマドとかあれば借りたいんだが」


「どうしたんだ突然、オレ達に手料理でも振舞ってくれるのか? それはそれで興味もあるが、ポーションはどうした」


「バカか貴様は、何で俺がお前らの飯を作るんだ。まあ確かに腹は減っているが……そうじゃねえ、ポーション作るに決まってんだろが」


「……カマドで作るの?」


これもまた不思議そうにリアが聞く。

ポーションの詳しい製造方法は、各薬師や錬金術師、研究所・施設などで違い、それぞれ門外不出となっている。

その為、漠然とだが大仰な設備を使って、製作者がけそけそと陰気な作業をしているものだと思っていた。


リアはスキルでポーションも作れるが、効果は薄く、半日しか保たない。

キチンとした製品の様な物の製造過程は見当もつかなかったが、少なくとも家庭の台所で作るような物じゃない事は確かだろうと思う。


「ちょっとシュン、うちの台所で何をする気なの」


「いや何、ちょっとこいつを煮ようかと思ってな」


「あふん」


そう言ってシュンは頭蓋骨から薬草などの植物とプルプルとした物体、スライムを取り出す。

生モノを出し入れするのは何かを感じるのか、スケルトンがウザい声で奇声を放つ。


「いやああ!人んちで何しようとしてんのよ、ちょ、やめてやめて、早くしまって!」


リルの反応に、『あら、可愛らしい』とか思ってしまうシュン。

しかし、それを面白がって見せつける様な子供っぽさは卒業しているので、一先ずしまう。


「おどぅっふ」


またもや奇声が聞こえる。


それにしても随分な嫌がり様だ。

別にスライムぐらい初めて見るわけでもなかろうに。


「何だ、スライムは苦手だったか?」


「そう言う問題じゃない!家の中でそんなもの出さないで欲しいだけ」


リルは世話焼きで頑固で潔癖性な様だ。


「鍋を貸すから表でやって!」


飛んでくる鍋をナイスキャッチするシュン。

何も投げる事はないだろう。

追い出される様にシュンは庭へと向かう。


「全く、シュンは無神経だな。 ここは女子の家だぞ? もうちょっとデリカシーと言うものをだな……」


「やかましい、貴様に言われたくはない」


「……そんな事よりどうやってポーションを作るの?」


リアが興味津々だ。


「なんだ、知らないのか?……いや、今の時代は一般的じゃないのか?」


「……そういう昔の人アピールはいらないから」


「そうだなシュン、オレも興味があるぞ。 あの時代の人間の技術に興味がある。」


「……そういう魔王アピールもいらない」


「エミ……あざといですよ」


「と言うか、もうそう言うのどうでもいいですわ」


「ミラの言う通り、その話は終わりにしましょう」


せっかくいい流れっぽかったのに有耶無耶にされそうで残念だが、ついでにシュンのパーティー脱退も有耶無耶に出来るかもしれない。

そう思い、エミは複雑な思いだった。


周りの喧騒は放っておいてシュンは着々と作業を進めていく。


鍋で湯を沸かしている間にある植物の茎を手頃な長さに切断すると、それに口を付け、プッと一吹きする。

すると、茎の中の繊維が抜けストロー状の物になった。


続いてそのストロー状の茎をスライムに突き刺す。

すると、その茎からスライムの体内の融解液が漏れだしてきた。

シュンはその液体を薬草に垂らし染み込ませる。


十分に染み込んだところでストロー状の茎を抜き、若干萎んだスライムをその薬草の上に置くと、萎んだスライムは自身から漏れ出た体液を薬草ごと吸収していく。


「なあ、シュンは何をやっているんだ?」


「スライムを虐めてますね」


「何かのおまじないじゃないんですの?」


「ポーションを作ってるのよね?」


「……黙って見よう」


それぞれ呟くが、真剣なリアの様子に皆それ以上は口を噤む。


薬草を吸収したスライムは深い緑色の体色になっていた。

そしてそのスライムを、湯の沸いた鍋におもむろに投入するシュン。


煮込むことしばし、スライムは鍋の中で溶けてしまっていた。

非常にグロい光景だった。

そのスライム汁を今度は不思議な香りのする枯れ枝の様な物でゆっくりと搔き回す。

すると、深い緑色の汁がだんだん透明度を増していく。


鮮やかなエメラルドグリーンになったその汁に、何かをすり潰した様な粉を振り掛けた。


「よし、完成だ」


「何がだ、スライムの薬膳煮込みかなんかか?」


「エミやめて、気持ち悪い」


「貴様は話を聞いていなかったのか、俺はヒールポーションを作ると言っただろうが」


「それがヒールポーションか?」


「ああ」


「飲むと回復するのか?」


「当然だろ」


「って言うか……飲むのか……それを?」


「……貴様何が言いたい」


「何って……」


エミがそういうのも無理はない。 他の皆も絶句している。

溶かしたスライムをポーションだと言われても困る。

子供の料理実験を見せられている気分だ。


「それはスライムを食うのと何か違うのか?」


普通スライムは食べない。


「何だ貴様、魔王を気取っているくせにスライムも食ったことがないのか」


「あるわけないだろ!魔王を何だと思っている!」


「いや、シュン君スライム食べるんですか」


「マリ、君もバカなことを言うな……食べるわけないだろう……エミと違って」


「だからオレは食わんと言っている!」


「……説明して……それは本当にポーションなの?」


睨む様にシュンに問うリア。


「ああ、そうだ。 やたらスライムを気にしているみたいだが、搔き回すのに使った枝は香木だ。 アレで香りをつけながらスライムの身を絡め取った」


詳しく説明できるほどシュンも成分や原理、仕組み、理論を語れる程ではない。

シュンだって元々は人に教わったのだ。


「じゃあ最後の粉は何?」


「……アレは……秘密だ」


「おい、ここで秘密とかはないだろうシュンよ!」


それこそが一番大事な材料だったんじゃないのか?

そう思ったエミが声をはりあげる。


「やかましい! 貴様がデリカシーがどうのとか言うから秘密にしてんだろうが!」


「……つまりデリカシーに欠ける素材だったって事?」


リルが鋭く突っ込んでくる。


「………」


シュンは即答を避けた。 つまりそれが答えだった。

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