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第四話

インヴィジヴルレプテルは死ぬと姿がハッキリと見えるようになる。


カメレオンの様なものや、イグアナ、ヘビ、カメと、個体差のある頭部以外は鱗に覆われた尻尾のある身体で共通していた。


それらの遺体を前に、まだこれからやる事がある。


素材や、モンスターがモンスターたる所以である魔力の結晶。


《“魔晶核”と呼ばれるものでこれは強力なモンスターであればあるほど、大きかったり重かったりする。


様々な色形をしているので、調べればおおよそ何のモンスターであるかが分かるため、討伐の証拠としても扱われるが、どんな物でも魔力の結晶である事は一緒なので、唯一のモンスター共通素材である。》


これらを剥ぎ取り、パティナが『浄火』の魔法である『ボンファイア』を使って死体を灰にする。


『浄火』系の魔法でできた灰は『魔除けの小瓶』と呼ばれるアイテムに使われる。


販売するにはそれなりの量が必要なのだが、一体から取れる量は少ない。


パティナはこまめに集めているのか、その灰を小袋に入れる。


「それにしても、インヴィジヴルレプテル四対分の素材かあ……良い値で売れそうだわ。」


リーリスがホクホク顏だ。


迷彩系のモンスターは脅威度の割に討伐数が少ない上に、その魔晶核は宝飾品の素材として人気が高かった。


透き通る様な青や緑に見えるそれは、確かに綺麗だ。


またその鱗や牙なども素材として買い取ってもらえる。


「冒険者登録料には十分だな。」


ヴォルが魔晶核の一つを摘んで、しきりに頷きながら言う。


今回はクエストではない、ルースの個人的な事情での遠出だったため無報酬だったので、良い臨時収入になったというわけだ。


そうこうするうちに結構な時間が経ってしまった。


「しまったな、これじゃ日暮れまでに街に着きそうにないな。」


特に残念そうでもなくルースが呟く。


「ちょっと行ったところに野営所がありましたよね。」


「確かに来る時に見たな。」


パティナの言葉にヴォルも頷く。


「あんまり食料は無いけどね。」


ついでに言えば一泊用の装備すら無い。


どうも準備などもする間もなく、突発的にモルドーヴを追いかけてきた様だ。


リーリスが心細い事を言うと、ルースが胸を叩いて、


「任せてくれ、獲物を狩ってくる。」


と、頼もしいリーダーっぷりを見せる。


「パティナ、付き合ってくれ。」


別に愛の告白では無い。


森司祭(ドルイド)のパティナは、こういった森の中ではその真価を発揮する。


食用の野草やキノコの知識が豊富だし、獲物用の罠魔法みたいなものもある。


……もうパティナ一人で良いんじゃ無いかな?


いやしかし一人では危険だから護衛は必要だろう。


つまりルースは、自分から言いだした割に護衛と罠にかかった獲物へのトドメ係という事になる。


まあ、重要ではあるか。


「はい、ルースさん。」


別に告白と勘違いする事もなく了承の意を示す。


「じゃあ野営所で待ってるわ。」


リーリス、ヴォル、シュンの三人は一足先に野営所へ向かう。


辿り着いたその野営所は、柱と屋根だけで壁の無い、東屋(あずまや)の様な造りであったが、五人が睡眠をとるには十分な広さがあり、(かまど)もあった。


「粗末なものだが、まあ贅沢は言うまい。」


ヴォルは不満そうに言うが、鍋も無いし寝袋も無いしで、お粗末さではこちらも良い勝負だろう。


そう言いながらもヴォルは、いそいそと何かを始めた。


シュンが興味深そうに見ると、何やら穴を掘っている様だった。


その穴に薄い何かの皮の様なものを敷き、おもむろに呪文を唱える。


「大地の恵みよ、潤いの雫を湧き上がらせ給え……スプリングウォーター。」


穴の中から水が湧き、敷かれた皮の上に貯まってくると、溢れ出す直前で湧き水が止まる。


この湧き水魔法は、通常は地面から水が湧くのだが、地面に何かを敷くとその上から水が湧き出す。


穴を掘ったのは水を貯めるためと、湧水ポイントの範囲指定を分かりやすくする為だろう。


「それは飲料水なのか?」


「……そうだ、これをカップですくって飲む……。」


まだ何かを言いたそうな顔をしてシュンを見る。


「なんだ? 何かあるのか。」


「……お前が今後冒険者をやるのであれば、口の利き方に気をつけたほうがいい。」


中身はどうであれ、今のシュンの姿は良くて十二歳くらいに見えるか?といったところだ。


目上の人間に子供がとる態度や言葉遣いでは無いのは確かだろう。


ではあるが、日本で十八年この世界で二千と十年生きてきたシュンにとって……もっとも二千年間は寝ていただけで実感は無いが……言葉遣いにはあまり気を払ってなかった。


せいぜいが“さん”付けで名を呼ぶぐらいだろうか。


「目上の者は敬った方が起こる問題は少なくて済む。」


どうやら今後の事を心配して苦言を呈している様だ。


「もーヴォルってば、シュン君をいじめちゃダメじゃ無い。」


「いえ、俺……僕が悪いんです、ヴォルさんは当たり前の事を言ってただけですから。」


何かちょっと言いにくいなと思うシュンだったが、確かに当然の事なのでいずれは慣れるだろう。


「シュン君が良いのなら良いんだけど……。」


(って言うか、この人もヴォルさんより年下だよな。)


まあ、同じパーティーメンバーなのだし関係性はそれぞれあるだろう。


「それより、冒険者カードの話の時に出てきたステータスについて聞きたいんですけど。」


二千年前には聞かなかった単語だ。


意味は分かる、判明すると言っていたからには自分の能力が具体的にわかる様になるのだろう、例えば数値とかで。


日本での最後の記憶がRPGのレベリングだったシュンは多いに気になっている事だった。


「ああ、ステータスね。」


そう言ってリーリスが語ったところによると……


冒険者組織が発足した初期の頃に開発され始めた“情報魔術(インフォメーションマジック)”は、元々は生体情報を読み取る事に主眼を置いた魔法であった。


冒険者組織、ギルド発足最初期に先の英雄的な冒険者に憧れたもの達が無茶な討伐を敢行し、死傷者の数が日をおうごとに増えていった。


これを危ぶんだ伯爵が関係各所に話をつけ、資金を確保し 、コールフィール魔術研究局に『各人やモンスターの能力を認知出来る魔法』を依頼した。


これには時の国王も有益な魔法と判断し、宮廷魔導士を派遣し開発に当たらせた。


そうして出来上がった能力診断魔法によって判明した、筋力、知力、俊敏性、魔力、体力を数値化したものを“ステータス”と呼ぶ様になった。


数値の基準はとある冒険者のもので、彼を10として数値を決めた。


これは世界中に広がり、冒険者ギルドも一地方組織ではなく、世界中に支部を持つ様になった。



「リーリスさん詳しいんですね。」


シュンが感心すると、リーリスは照れ臭そうに


「まあアタシも学校ぐらいは出てるからね。」


そう言って、話を続ける。


「今じゃもっと詳しく項目がふえてるし、スキルとか魔法とかもわかる様になったのよ。」


「スキルってひょっとして、さっきリーリスさんが使ったやつですか?」


「そうよ。」


二千年前にもスキルという概念はあったが、当時のスキルと今のそれでは微妙に違う気がすると、シュンには感じられた。


「ステータスの数値は冒険者カード に浮かび上がってくる。」


ヴォルも話に加わってくる。


「なるほど、それでさっき値段を気にしてたんですね。」


それだけの事ができる魔法や、カードなら値が張ってもおかしくない。


「まあね、結構するのよ。」


「だがお前の活躍はその料金に見合ったものだ。」


「さっきの戦闘の事ですか?」


「そうだ……あいつらに奇襲されるのも厄介だが何より、けが人が出なかったというのが一番だ。」


普通、戦闘を行えば無傷というのは稀な事だ。


相手も必死で襲ってくるのだから、よほどの実力差が必要になる。


「いくら防御魔法とか回復魔法があると言っても痛いのはヤだしね。」


「ああ……それに万が一という事もある……感謝している。」


俗に一撃死と呼ばれるものだ。


(ぶっきらぼうだけど、ヴォルは仲間思いの良い人だな。)


「そんなの気にしないで下さい、臨時とはいえ仲間なんですから。」


出会ってまだ半日くらいだが、最初にこのパーティーに出会えたのは幸運だったとシュンは思う。


あのまま滅亡してても不思議無いくらいには人類の負ったダメージは大きかったはずだ。


二千年という決して短くは無い時間があったにせよ、これまでの話を聞く限り結構発展した文明である事がわかる。


あの時の犠牲があってこういった人達が今存在していると考えれば、報われる思いだった。


ただ、当時と今では何か違う様な、まるで別世界であるかの様な違和感も感じていた。


ゼロに近い所から復興した訳だから多少はそういうところもあるかもしれないが……。


今度歴史でも調べてみようか、とシュンは考える。


(歴史……か。)


二千年も経ったわけだが、二千年しかとも言える。


何せ当時この世界には(よわい)三千年というドラゴンや千年以上の寿命を持つという半人半妖の種族もいた。


シュンの様にただの人から見れば悠久の時に思えても、その様なモノからすればそれほど大袈裟な期間では無いのかもしれない。


当時からの生き残りがいるとは思えないが、割と正確な歴史書だって残されている可能性もある。


(歴史って歪むものだからなあ。)


まあ、それはまだ後の話だ。


差し当たっては情報魔術(インフォメーションマジック)をどう誤魔化すかだが、これはもうバレたらバレたで仕方ないと諦めるしか無いかも知れない。


別に悪い事してきたわけじゃ無いんだから、何も恥じる事は無い。


……みんなを騙した事は悪いと思っているが。


そんな事を考えながら水を飲んでいた時だった。


「みなさん、大変です!」


パティナが血相を変えて走り込んで来た。


「どうしたのパティナ、そんなに血相を変えて……ルースは?」


ルースの姿が見えない。


「捕まっちゃいました!」


もうじき陽が暮れようかというこんな時間に一体何者が?


シュンはおおよそ見当がついた。


森の中という事は恐らくあの種族の可能性が高い、ちょうどさっき思い出していたところだ。


「まさか、何かのモンスターに餌扱いされたのか?」


「ヴォル、怖いこと言わないで。」


「いえ、森のアルヴス……エルフです。」


やはりそうかとシュンは納得する。


シュン自身、当時“シュラート”と呼ばれていた森のエルフに悩まされた事がある。


魔族に対抗するためにも全人類の協力が不可欠だったので、交渉に赴いた時にいきなり拉致られたのだ。


彼らは概して自分たち以外の種族を見下しているので、こちらの言う事をまともに取り合ってくれない面がある。


「エルフ!? この森にエルフの里なんかあったの?」


「ふむ、俺も聞いた事が無かったな。」


「でも、間違いないです!」


攫ったのがエルフなら取り敢えずすぐに害される様な事は無いだろう、パティナが一人戻ってきている事を考えても、何か交渉の様なものをしたいんだろうと考えらる、この様な手荒な手段に出るのも、彼らのプライド故に下手に出て頼み事ができないという厄介な習性によるものだとシュンは自身の経験から推測する。


「じゃあ、一体アイツ何をやらかしたのよ。」


憎まれ口を叩きながらも心配そうなリーリス、当然だろう。


「それが……」


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