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第四十五話

「ちょっとシュン!あなた何言ってるの!?」


シェリルは思わず激昂してしまった。

シュンに対する不信感から、このまま逃げ出す気じゃ無いだろうかと、思ってしまった為だ。


それならそれで別に構わないとか、説明してもらわなければ納得できないとか、一応はパーティーメンバーなのだから単独行動は控えてもらいたいとか、一人でこの森に残る気なのかとか、雑多な考えが一気に脳裏をよぎってしまい、つい感情的になってしまったのだ。


「敵は強力だからな、話し合いの結果どうなるかはともかく必要な物をここで揃えておこうと思う」


そう答えるシュンではあるが、結果はどうなれども地下遺跡に向かう事はシュンの中では決定事項だ。

名前も知らないこの国の軍隊とやらが出張ってくる前に首領に会わなければならない。

彼女らがこの件から手を引くというのなら一人ででも行けばいいだけだ。

……その時はパーティーを抜けると言うことになるのだろう。


そういった事態を想定するならば、まともに魔法を使えないシュンには絶対に欠かせないものがある。

前回のクエストでこの森にそれがある事はわかっている。


「心配するな、日暮れまでには君らの拠点……と言うか邸宅には戻る」


どうも彼女らの住まいは拠点とか言うゴツい単語が似合わないように思い言い直す。


「……心配と言うよりは、迷惑」


おや?リアンの様子がおかしい。


「シュン!!あなたは一体なんなんです?あなたは私とマリを助けてくれました。ええ、助けてくれましたとも!けれどもあなたには謎が多すぎる!あなたが妙な力を持ち不自然に強力だとしても、それはあなた自身の事なのだからどうでもいい、けれど、あなたは私達のパーティーになった。それは私達がエミを信頼しているからなの!エミがあれほど言うのだからあなたの出自をとやかくは言いたくない、でも言いたくはなくとも不信は募る……その不信はあなたも感じているはず…」


普段口数の少ないリアンのこの口舌に若干圧倒されるシュン。


「君らの言いたい事はわかる」


実際シュンは似たような事を何度も言われた事がある。

この世界に召喚された時などは特にそうだった。

シュンはこの世界にとっては異物なのだ。


「いいえ、あなたは分かっていない。 あなたの行動がエミにどれ程の迷惑を掛けているかを分かっていない。 今言ったようにあなたをこのパーティーに迎え入れたのはエミがそう望んだから……あなたのこのパーティーでの立ち位置はエミに担保されている。 あなたの勝手な行動はつまりはエミの監督不行き届きと言う事になってしまう。 私達の間にそんな不信の種を植え付けないで!」


捲し立てるリアンの目には薄っすら涙さえ浮かんでいる。

シュンは自分の勘違いを悟った。

リアンの危惧はシュンの特異性にではなく、パーティーの関係性に亀裂が入ってしまうのではないかという事のようだった。


シュンはてっきり『怪しい子供』として不審がられているものとばかり思っていた。

そう言われて敬遠されていた事もあった。

けれどもあの時代は、強くさえあれば……魔族さえ倒していればそれだけで英雄視された。

勇者などと呼ばれたのも、シュンがより多くの魔族を倒していたからだ。

平和なこの時代にあっては、シュンの存在は不必要なのかもしれなかった。


「リア……ちょっと落ち着いて」


シェリルに諭され、肩で息をしながらシュンから顔を背けるリアン。


「すまないリア、それにみんなも……この件についてはきっちり説明をするからこの場はシュンのやりたいようにさせてもらえないか」


エミはシュンの考えをほぼ正確に把握していた。

今の状況ではまともにクエストを達成する事は出来ない。

国家規模の事態になってしまっては一介の冒険者たちの出る幕はないからだ。

けれどもシュンは一人でも行くつもりなのだろう。


しかし今のシュンは全盛期とは程遠く、ろくに魔法も使えないときている。

アンデッド相手にそれはいかにも辛い。

あのスケルトンの体程度すら砕けないぐらいなのだから、その劣化ぶりは推して知るべしだ。

それでも今の自分達よりは遥か上にいる事には違いないが、せめて回復手段ぐらいは必要だろう。

回復薬(ヒーリングポーション)は結構高価だ。

剣のクラフトに結構な額を使ってしまった様だし、買い込むのは厳しそうだから自力で調達しようというのだろう……もっともエミには、この森でどうやって回復手段を手に入れるのか見当もつかない。

薬草はそれ単体では戦闘時の回復手段としては殆ど役に立たない。

薬草を高度な魔法技術で加工する事により出来上がるのがヒーリングポーションだ。

エミはスキルによってあらゆる魔法を使う事ができるが、単に魔法を使えば出来るというものでも無い……まあ、シュンなら何とかするのだろう。


エミ自身としてはそもそも幽霊狩猟などには関わりたくは無かった。

みんなが乗り気でいたからこそ、偶然にもシュンとの再会があったからこそ強引にパーティーに引き入れてここまで来たのだ。


このままクエスト自体がご破算になればもう心配する必要もないし、シュンを束縛する理由も無くなる。

……それはエミにとって残念な事であった。


魔王だった自分を思い出した時、一番印象に残っていたのが人間の勇者シュンだった。

この時代においてまさかの再会。

何やら運命めいたものを感じたものだ。

魔王時代、出会い方や立ち場が違えばいい友人になれたかも知れないと思った事は一度や二度では無かった。

それが実際に叶うなど思ってもみなかった事だが……まさか性別まで違うとは。


「悪いな、俺が……得体も知れず胡散臭くて怪し気で不審な(おぞ)ましいガキに見えるのも無理は無いかも知れん。 けれどもみんなを仲違いさせる様な意図はない。 帰ったらちゃんと説明するさ」


「いや、そこまでは言ってない」


そう突っ込むのはシェリルだったかリアンだったか……


今自分が言った事は実際に言われた事でもある。

けれども『妙な力を持っていてもシュン自身のことだからどうでもいい』といったリアンの言葉は、言い方こそちょっとアレだが、その時に言われていれば感激していたかも知れない。


今はあの時よりは大分人間寄りな能力でしかないから、比較対象として過去の自分を引き合いに出すのは適当ではないかも知れない。

かも知れないが、能力が違えど同じ自分に向けられた言葉だ。

このパーティーには居場所が無かったとしても、この世界にはいても良いんだと、そう思わせてくれる言葉だった。


さらに、シュン自身のその胡散臭さよりも、パーティーとの絆を大事にしたいという姿勢はとても美しいものに思えた。 シュンはリアンの事がちょっと好きになった。


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