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第四十一話

二人は森に入ったところで足を止める。


「おい貴様、知っている事があるなら洗いざらい吐いてもらおう」


シュンはエミを問い詰める。

前回の説明は途中で有耶無耶になってしまっていて、肝心な事を聞いていない可能性もあった。

もちろん、それ以上は知らないと言った事も考えられるが、五年前に記憶を取り戻したぐらいで、今回の件にトリストラムが絡んでいるとか知っていると言うのも不自然だ。


聞くのは帰ってからでもいいかも知れない。

シェリル達に説明をして、それから全員と情報を共有するといった方が効率的だし、エミが言った様に、一刻を争う事態かも知れないこの時に、のんびり話している場合では無いかも知れない。


けれども、ルーセリーナが捕らわれ、ジェスティースがアンデッド化し、その他の奴らも知り合いであるかも知れないときては、さしものシュンも後にしようという気にはなれない。


「……何を聞きたい? 知っている事全部言っている暇は無いぞ」


もっともなので、シュンは熟考するまでも無く一番聞きたい事を聞く。


「今回の首領は誰なんだ」


幽霊狩猟の頭領は幽霊猟師と呼ばれるが、紛らわしいので首領と呼ぶ事にする。

ソレルが“三十年前の首領”と言っていたのもそんな理由だろう。


「……お前にも予想はついているんだろう?」


こいつと以心伝心みたいなのは癪にさわるな……と思いつつも、やはりそうなのかとシュンも覚悟をする。


これが本当にシュンの危惧した通りの事ならば、王国の援軍などに知られるわけにはいかない。

奴の名誉に関わるし、今の時代の支配層の沽券の問題になるだろう。


今はどうやら平和な時代の様だ。

まだ出戻ってから数日でしか無いが、人々は笑顔だし冒険者などと呑気な職まである。

シュンの知る限り悲壮な雰囲気はどこにも無い。


これを成したのが、あの時のみんななのだ。

シュンはあの時の全ての人達が英雄だと思っている。


ひとも、獣人も、半妖精もない。

あらゆる種族のあらゆるそれぞれが英雄だった。

そう思っている。


全てが迷惑だったし、全てに助けられた。

その末に辿り着いたこの平和な時代……その事を汚す事は許せない。

彼らを世界の敵にするなどあってはならない。


「あくまで予想だ、だが貴様にはやはり断言するだけの根拠があるんだな」


一縷の望み、自分の予想など外れてほしい。

今までの伏線などどうでもいい。

どっかの知らない誰かだと言ってほしい……だが、やはりそんな事はなかった。

エミの口から出た名前は、今一番聞きたく無い名前だった。



「本当何だろうな……」


今は詳しく問い詰めている場合では無い。

それだけを確認する。

“ああ、嘘だ” などという、おちゃらけた返答は無かった。


「ああ、間違い無いだろう」


根拠などはもうどうでもいい、聞くにしても今じゃ無くていい。

シュンは決して、エミを信じているとか好意を寄せているとか、そういった感情から一緒にパーティーを組んでいるわけでは無い。

幽霊狩猟を倒す為だ。


であれば、正体などは本当のところ問題では無い。

それが事実であれ間違いであれやる事に変わりは無いのだから。

ただ、それが事実であれば時間に制限が与えられた事、それが確認出来たという事だけで十分だった。

あとは本人にでも聞いてみると言うのもいいだろう……記憶があればの話だが。


よし、と考えを捜索に切り替える。


「さて、どうするか……引き止められそうだったから飛び出して来ちまったが、行方知れずの冒険者達ってどこを探索してたんだ?」


今回の件で自分は探索に向いていない事を痛感している。

エミが探索に向いているとも思えないが、何か探知魔法の一つでも使えないかと期待をしてみた。


「ふ、ついにオレのスキルをお披露目する時が来た様だな」


急に不敵な態度に出るエミ。


「貴様のスキルだと? 何だ、ケツからガスでも出るのか」


「そう言うデリカシーのない事を言うんじゃ無い! それでどうやって探せと?」


「屁なんかで探せるわけねえだろ、バカなこと言ってねえでトットとそのスキルとやらを使え」


ほとんど八つ当たりである。


「あのなあ……まあいい、とにかくオレのスキル〈魔法〉の出番だ」


……スキル〈魔法〉とか言われてもシュンも困ってしまう。


「なあ、それってスキルなのか? それはもう普通に魔法なんじゃ無いのか?」


緊迫している筈なのに思わず脱力してしまいそうになる。

現状のシュンの理解では魔法とスキルは別物だと認識している。

確かに昔と比べて今のスキルは魔法じみたものがある。

だからと言って〈魔法〉は無いだろう、あまりにもそのまま過ぎる火の玉ストレートだ。


「ふ、そう言うと思った。 オレの〈魔法〉はな、現存する総ての魔法を使えるというスキルだ」


「なにそれずるい」


うっかり普通に突っ込んでしまった。

エミには厳しく当たると決めているので言い直す。


「もとい、貴様!いくら何でもチートが過ぎるだろ、じゃあ何だ、俺の漢字魔法も使えるってのか」


それこそスキルでは無くただの大魔導士とか大賢者の類だ。


「何も言い直さなくてもいいだろ、それにチートじゃない! スキルだ」


エミの説明する所に依ると、使うには使えるが自分の魔力容量を越えるものは発動しないどころか昏倒してしまうそうだ……それは使えるとは言わない。

また、現存していても自分の知らない魔法は使いようが無いし、魔王当時に使っていた魔法は現存しないものも多いとの事。

誰かが開発してくれないと使えない様である……自分の魔法なのに。


だが、その欠点を差し引いても十分過ぎるほど強力なスキルだ。


「ではいくぞ、探知魔法『ゲットウインドオブミッシングパーソン』」


おい。


「何だその英会話みたいな魔法は」


「英会話……ってのは分からんが仕方ないだろ、オレが知っているのではコレが最適な魔法なんだ」


まあ、魔法の名称なんか何でもいい。 結果が重要だ。


……そして結果は上々だった。

全員一緒に彷徨っていた行方不明冒険者達を見事に発見したのだ。


彼らは幽霊狩猟に出会った訳ではなかった。

では何故行方不明に?

それは彼らの狼藉が原因だった。


「まったく、アナタ同じ人間として恥ずかしく無いんですか!」


何故か怒られるシュン。


「どうしておれが怒られてるのか腑に落ちないが……」


どうやら彼らは探索にかこつけて禁止されている“妖精狩り”を行っていた様だ。


“妖精狩り”……妖精というのは言わば魔力の塊だ。

それを狩猟する事によりレベルアップを図ると言う外道の行いだ。

普通は妖精は目に見えず、隠れて悪戯をしたりするのだが、それを可視化するスキル〈幽体視〉と言うものがある。


妖精などの幽体を持つものの命を奪う事で身につくスキルだ。

身につけるまでは大変だが、一度覚えてしまえば後は簡単で、仲間と一緒に妖精狩りを行えば仲間もそのスキルを覚える。 つまりは常習者と言うわけだ。


妖精は世界と共に在る自然の摂理に則る存在だ。

世界に仇なす邪妖精などはともかく、普通の妖精を無駄に狩るなどという行為は世界の摂理に逆らう事になり、レベルアップはするだろうがその末路は呪われたものになる。


まったく、ミイラ取りがミイラになるどころか、狩猟狩りが狩猟になるとか、わけのわからない事になってどうする。

タダでさえ幽霊狩猟に狙われているかも知れないのに、この上人間にまで襲われたら妖精も顔色(がんしょく)が無いだろう。

どっちも敵だ。


しかし、調子に乗った彼らは実力差にも気付かず強敵に挑んでしまった。

散り散りに逃げた彼らは道に迷わされ、森の中を彷徨い、全員がバッタリ出くわしながらも森から出られずにいたのだ。


そこをエミが見つけたのだが、シュンの前に件の妖精が姿を現し説教を始めたのだ。

冒険者達はその隙にエミが逃がしたのだが、もちろんこれは報告して然るべき処罰をしてもらう。

妖精への謝罪はシュンに任せる。


「聞いてるんですか! 今日はルーセリーナ様がいないから逃がしませんよ!」


「いや、逃げたのはハルちゃんだよね?」


冒険者達を迷わせたのは“森の守護者”メツァンハルティアのハルだった。

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