第三十五話
周りを見渡すと、似た様な視線を送って来るものばかりだ。
どうやらシュンは相当嫌われているらしい。
別に何か悪い事をしたわけでもなく、ただの嫉妬ややっかみだろうと思うので、特に気にする必要もないだろうとシュンは考え、あまり気にしない事にする。
それに引き替えエミ達は他のパーティーと情報交換や探索場所の分担などを話し合っている様だった。
大人数での探索行では必須の作業だ。
シュンは、今回は話に加わるのを諦め、後でエミにでも聞くことにする。
しばらくその光景を眺めていると、ギルドの職員がやって来て今回の依頼の手順を語り出した。
それによれば、まずは幽霊狩猟の痕跡の探索だ。
何か発見でき次第、森の外に臨時キャンプを張るのでそこに連絡を入れるというものだ。
今日一日で発見出来ない様ならまだ猶予はある、あまり無理をするなとのことだった。
痕跡とは即ちブリーデングウルフなどの猟犬、その他にシェイドウルフ、シェイドイクワインもいる。
そしてアンデッド化した何者かという事になる。
(ハルちゃんやラッさん達が無事だといいけど)
と、妖精達の身を案じるが、ルーセリーナももしかしたら森にいるのかもしれない。
邪魔をしたくないと思っていたが、これだけの数の冒険者が向かうのだから自分が混ざっていてもいいだろう。
「シュン探索場所が決まったぞ、オレ達は森の西側だ」
打ち合わせを終えたエミがアバウトすぎる指示をシュンに伝える。
まあでもよく考えれば、特に目印もない森の中なのだから細かく分けたところで意味はないとの判断だろう。
森の西側といえば、シュンがブリーデングウルフと遭遇したあたりだ。
ルーセリーナがキレイに解体してラスコヴィツェに預けたので、一切の痕跡は残ってないだろうが、自分のところの猟犬が行方不明になった場所なら、もう一度何者かを送っても不思議はない、つまりアタリの可能性が高い場所だろう。
エミはその事実は知っていても場所までは知らないはずだが、大した嗅覚だ。
魔王のセンスというやつだろうか。
「そこでオレ達も二手に分かれる」
「ああ、班分けは貴様に任せる」
「もとよりそのつもりだ」
ここでやる事はもうない。
あとは実際に森の探索を行うだけだ。
森への道すがら聞いたところによると、結局ろくな打ち合わせは出来なかったそうだ。
どいつもこいつも、『今晩食事でもどう?』とか、『適当に流して遊びに行かないか?』だの、たまに打ち合わせっぽい事を言ったかと思えば『うちのパーティーと合コ、いや合同で探索しないか?』『君らはオレらの後ろから着いてきな』『怪しい所を知っているんだけど一緒に行かないか?』etc、下心剥き出しのものばかり、最後に至ってはけしからんとしか言いようがない。
参加しなくて良かったなと、シュンは思う他ない。
この探索場所も、一向にラチがあかない状況に苛立ったエミが、勝手に名乗りを上げただけらしい。
「シュンはマリンカとリアンとで組んでくれ、連絡はマリンカがしてくれる」
そんな連絡手段があるのかと疑問に思うシュン。
魔法などならともかく、マリンカは野伏という話だったはず。
どんな手段があるというのか……獣でも使うのか?
ちなみに、リアンは治癒術師で、シェリルは魔術師、ミラーナは退魔師、エミが魔法剣士だ。
パーティーのバランスはともかく、この二組のバランスは悪くない。
探索する際に野伏がいるのは心強い。
森に着くと、ギルド執行委員のソレルが年若い者達を連れて臨時キャンプを設営し始めた。
何かあればここに報告しに来ると言うわけだ。
「それでは冒険者の皆さんは、それぞれ探索をお願いします!」
ソレルの号令とともに冒険者達が一斉に持ち場へと散る。
一応は分担できている様だ。
「じゃあなシュン、また後でな」
エミがシュンに手を振り、別方向へと進む。
森の外周部から西側に回るという発想はない様で、森を突っ切り一直線に西側へと進んでいく。
「まったく、イノシシみたいな奴だな」
付き合わされるシェリルとミラーナが不憫になってくる。
「ぷっ、イノシシって、そんな事言っていいんですか〜?」
マリンカが噴き出す。
「そうだったな、失言だ、イノシシに怒られる」
「あなた、本当に口悪いわね」
リアンかが呆れ気味に言う。
「まあ、エミにならいいだろ」
そうシュンが言うと、二人は肩を竦め森へと進んでいった。
……いや、だからお前らには目的地に一直線に行かなければならいルールでもあるのか?
イノシシパーティーだなこりゃ。
今度はシュンが肩を竦める番だった。
「この辺が今回の探索場所ですよ」
しばらく歩いたところでマリンカが目的の場所に着いた事を告げる。
多分前回もこの辺に来たと思うが、シュンにはあまり自信がない。
「探索と言ってもどうするんだ? 何かそちらのやり方があるのか」
正直、こういった冒険者としての探索行などは初めてのシュン。
下手に動いて、現場を荒らしてしまう事はしたくない。
「まずはポイントを絞りましょう、そうですね〜……使い魔みたいなのがいるなら、そっちから探しましょう」
確かにアンデッド化した何者かがいれば、向こうから勝手にやってきそうだ。
オオカミやウマの痕跡ならマリンカが見つけられるだろう。
「ここで大声でも出せば向こうから寄って来るんじゃないのか、普通の獣じゃないんだし」
「今回は探索が任務、おびき寄せたりしても戦う準備が整ってない」
シュンが手っ取り早いと思った手段を言うが、リアンにたしなめられる。
言われてみればその通りだ。
前回も囲まれてピンチだったと言うわけではなかったが、準備不足は祟った感がある。
急いては事を仕損じるだけだろう。
ここは冒険者としての先輩である二人に任せよう。
「そうか、そうだな……すまない、忘れてくれ」
「お、なーんだシュン君、謝れるんじゃないですか」
「意外」
「……悪いと思えばそりゃ謝る」
一体俺を何だと思ってんだ、と憮然とするシュンだが、今までの態度を見れば無理もないだろう。
不満に思いながらも二人の後に続き、せめて背後の警戒ぐらいはしながら進んでいく。
その歩みは遅々としていて、シュンはままならないもどかしさを感じる。
けれども、こういった慎重な行動は今後必要になってくるのだろう。
今は二人をお手本に、不満は押し殺して痕跡探しだ。
……オオカミやウマの痕跡って何だ?
シュンはわからない事だらけであった。




