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第三十四話

今日は朝から雲行きがあやしい、一雨降るんじゃないだろうか。

エミ達の拠点に向かうシュンはちょっと憂鬱な気分になる。


(雨具を買い揃える必要があるかもな)


という理由でだ。 要は出費が嵩むのが嫌だった。


時間はまだ早朝、女子の家を訪ねるのは一体どのくらいの時間帯が適切なのだろうか?

依頼を受けた以上、早速今日から探索を始めるのだとしたら、あまりのんびりする訳にもいかないだろうし、とは言え早過ぎるのもどうなのかとも思う。


まだ寝ているとかはないだろうか? よしんば起きていたとして、起き抜けの寝間着姿だとか、何となくふしだら感のある状態だと困ってしまう。

昨日色狂いの連中に絡まれたばかりだ、そういった輩を刺激する様な噂が立つのは控えたい。

こんな事なら、ちゃんと昨日のうちに時間なりを決めてから別れるべきだった、と考えるも後悔とは先には立たないものだ。


もう、じきに着いてしまいそうな所まで来てしまった。

まあいい、仕方ない。

ここまで来てしまったのだから、逆に堂々と門を叩こう。


「フン!……ハアッ!」


何だかやたらと力強くも可愛らしい声が聞こえる。 ついでにカンカンと木剣の叩き合う音も聞こえる。

出処はエミ達の家の裏庭……昨日手合わせをした所の様だ。

目の前に差し掛かり、ヒョイと生け垣から顔をのぞかせるシュン。 あまり褒められた所業ではない。


どうやら朝稽古をしている様だった。

エミ、シェリル、ミラーナ、マリンカの姿がそこにありリアンの姿が見えない。

寝坊か? と思うも流れてくる朝餉の匂いに、食事当番かと納得する。

それにしても早朝から汗を流し、真剣に打ち込む姿は、少女とは言え中々煽情的思えてしまった。 いやいや何考えてんだ俺は。

と、頭を振り、そのまま眺め続けていたらまるでデバガメみたいで嫌だなと、シュンは声をかける。


「よう、おはよう、朝っぱらから色気がねえな」


何だか変な挨拶になってしまった。


「お、シュン早いじゃないか」


他の三人は肩で息をしているが、エミは平気な顔でこちらに向き直る。


「今日から探索を始めるのか?」


「ああ、朝メシを食ったらギルドに向かう」


そのまま行くのではなく、どうやらギルドに寄る様だった。

勝手が分からないので従う事にする。


「そうか、じゃあ先に行って待ってる」


少女趣味は無いはずのシュンだったが、妙な色気を感じあまりこの場にはいたくない気分になり、踵を返す。


「シュンも食っていけ」


その背にエミが言葉を投げる。


「俺はいい、ギルド飯の評判でも確かめてくる」


まだ食べた事のない、評判の悪いギルド食堂の料理も怖い物見たさというやつで興味はあった。


「リアンがお前の分も作ってる」


ピタリと足を止めるシュン。

作ってしまったのなら勿体無い、だがしかし……


結局シュンはエミ達と食卓についた。

せっかく作ってくれた物を、そうと知りつつ無視するのは大分感じが悪かろう。

一食分の食費が浮く魅力もある。


「ギルドには行かなきゃならないのか? このまま森に行くんじゃダメなのか」


別にどっちでも構わないが、人の家で無言で食事をするのも空気が重く感じるので、話を振ってみる。


「特号指定の依頼は一度顔合わせがあるのよ、それだけ連携が大事になってくる案件って事ね」


シェリルがシュンに説明する。


緊急指定依頼は三号から特号の四段階だ。

これはその危険度の度合いをそのまま示すもので、その決定は執行委員によって選定される。


「何せ伝説級の相手ですもんね」


そう言う割にはマリンカには気負いも緊張もない。


「と言ってもアンデッド、(わたくし)の退魔術の前にはなす術もないですわ」


ミラーナの自信は天井知らずである。

メンバー達も、その自信に見合った能力がミラーナにはあるというのは十分承知している。

スキルもそれに特化したものだ。

それゆえ、今回のクエストには自信があるのだ。


ミラーナだけではない、エミやリアンのスキルもアンデッドには有効なはずだと判断している。

物理スキルのシェリルやマリンカはサポートに回る算段だ。


「そういう事」


相変わらずリアンは淡白だ。 シュンは警戒されている感じを受けるが、昨日会ったばかりなのだから普通の反応とも言える。


皆の自信満々な様子は結構なのだが、過信は良くない。

シュンは情報をくれたエミを目で伺う。


「昨日から言っても聞かなくてな」


なるほど、俺をパーティーに入れたのはそういう事かと、シュンは察する。

この向こう見ずなメンバー達を危険から守る為に、因縁浅はかならぬシュンを同行させようという魂胆だと。


(どうりでやたら強引に事を進めていると思ったら)


しかし理由に納得はできた。

どうやらエミも魔王の記憶があっても、その力はほとんどないようだし、守りきれる自信はないのだろう。


「まあいいさ、同じパーティーになったからには面倒ぐらい見てやるよ」


「えー、生意気ですね〜」


「あなたは私の後ろにでも隠れてなさいな」


「剣はやる様だけど、アンデッドに効果は薄い」


シュンの大口にマリンカ、ミラーナ、リアンが口々に反応する。

年下の癖に、と内心苛立つ彼女らではあるが、頼もしいじゃないの男の子、とも思う。


「さあ、みんな、そろそろ行くわよ」


シェリルの号令でギルドに向かう。

すでに大勢の若い冒険者達が集まっていた。 総勢で四十一人だ。

一国の軍隊で鎮圧した相手にこの人数は話にならないとも思えるが、その時は初動が遅れ、森が丸ごとアンデッド化したという状況だったが、今回は発見が早くまだ被害報告は出ていない。


今更ながらシュンは心配事があった。

皆んな盛り上がってるけど、まだ誰も幽霊狩猟を見ていないんだよな……と。

ブリーデングウルフが出ただけなのだ。

ルーセリーナが姿をくらまし、ギルドのお偉方が慌ててたり、魔王(エミ)がわざわざ自分を巻き込んだりしていて、シュン自身その気になっていたが、これが誤報だったら目も当てられない。


もっとも、まずはそのための探索から始めるのだろうが。


「ようガキ、やっぱテメエも来んのかよ」


昨晩しゅんを狙った男達の一人だった。


「女の前だからって意気がりやがって、テメエみてえなのが真っ先におっ死んじまうんだぜ」


ヘラヘラと数人が追笑する。

シュンはこんなタイミングで揉め事は起こしたくないので無視を決め込む。


「ケッ、ビビりやがって言葉もでねえか、昨日の減らず口はどうしたよ」


「おいお前達、うちの者にちょっかいをかけないでもらえるか」


エミが助け舟を出す。


「ダッセ、女に庇ってもらいやがってよ、エミちゃんも趣味悪いぜ」


そう言いながら男達は別のパーティーに話しかけに行った。


……あいつらと連携は取れそうにない、って言うか取りたくないな。

と思うシュンだった。


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