第二十九話
エミ達の借りている拠点は3LDKの平屋建てなのだが、勝手口を出て裏に回るとソコソコの広さの庭があった。
「ここなら手合わせするくらい出来るだろ」
エミはそう言いながらシュンと向き合う。
「……良いとこ借りてるんだな」
「オレとお前の再戦に相応しいとは言えんがな」
軽く言葉を交わしお互い構える。
「始め!」
シェリルの合図と共に先手を切ったのはシュンだ。
アッという間に距離を詰めるその速度に全員が息を呑む。
それでもエミは一度見ている動きだ、紙一重でかわす事は出来ずとも余裕を持って一撃を木剣で受ける。
シュンが振るうのも同じ木剣だ、体格もエミが若干勝る。
力負けはしない、そう思って正面から受けたが意外な剣撃の重さに数歩押され、木剣を持つ手が痺れる。
想像以上の重い一撃にエミは一度間合いを外す。
スピードはともかくこの重さがシュンの技術の高さを物語っている。
剣の握り、腰の回転、肘や手首の使い方、体重移動にその乗せ方。
超一流と言っても良いその技量は、あまり詳しいとは言えない他のメンバーにも格の違いを感じさせるには十分だった。
「どうした、かかってこないのか」
シュンは今の一撃を、押されたとは言え受け止めたエミに、さすがは元魔王だなと、感心しエミの攻撃も見てみたくなった。
「言われなくても!」
エミはシュンに満足な体勢から攻撃させるのは危険だと判断した。
それは、今のシュンは自身の体格不足、膂力不足を回転やウェイトシフトで補っていた。
逆に言えば、それさえさせなければ今ほどの一撃を繰り出す事はできないはず、という推測からだった。
故にエミのとった手段は連撃だ。
シュンの重い斬り込みは大振りとまではいかないものの、スキはあった。
しかしそれは誘いだとエミは気付いている。
つまりシュンは決定打に欠いている可能性がある。
相手を誘いカウンターを打ち込むスタイルであるなら、こちらは手数で勝負だ。
エミにとって好都合な事に、それは元々エミの得意スタイルだ。
シュンの体勢を崩す事に主眼を置きながら、攻撃を開始する。
「オレの剣速を見切れるか!」
倒すための攻撃ではなく、崩すための攻撃ではあるが、細かい狙いをつけない分剣速は普段よりも上がっている。
さらにシュンはエミの攻撃に対してはこれが初見だ。
上下左右へと、カウンター警戒のフェイントを織り交ぜつつ繰り出されるエミの剣筋は美しい幾何学模様の様な軌跡を描く。
しかし驚異的な事に、シュンはエミの狙いを知ってかしらずか、体幹を維持したままその全てを躱していく。
木剣で弾く事すらしない、ただただ躱していく。
傍から見れば、示し合わせた剣劇を見ている様だ。
完全に見切られている。
筋肉の動きを読まれない様露出の低い衣服を着用し、目線でもフェイントを入れ、呼吸すら止めて繰り出したエミの猛攻は、唯の一太刀もかすらせる事すらできなかった。
「すべて躱すとはな……ちょっとくらい当たっても良いだろうに、バランスの一つも崩さんとはな、この化け物め」
「貴様に言われたく無いわ! でもまあ、なかなか良い攻撃じゃないか」
「嫌味にしか聞こえんな」
「貴様は俺の体勢を崩そうと意識し過ぎなんだよ、目的が分かれば太刀筋の予想もつくしフェイントだって素直すぎる。 フェイントなんざもっと雑で良いんだよ」
シュンは、エミの攻撃が数手先を想定したものだと瞬時に見抜いた。
狙いが雑でフェイントが素直では目論見をバラしているに等しい行為だ。
「アレじゃどんなに鋭い剣筋だって意味がない、見切る以前の問題だ。 とは言っても俺も別に余裕があったわけじゃないしな、良い緊張感だった」
シュンの言う様に、予測出来ていたとしても刹那のズレが大怪我に繋がるほどの攻撃だった。
これ程の集中力を要したのは復活してから初めてだ。 さすが元魔王と言わざるをえない。
あんな少女の身体でよくぞここまで、と感心する。
「じゃあ次は俺だな、貴様は俺がカウンター狙いだとでも思っている様だが……」
「わー!!ストップストップ!!」
シェリルが両手を挙げて両者に割り込んでくる。
良いところで水を差されたシュンはたたらを踏んでシェリルを睨む。
「わかったよ、シュンの強さはちょっと理解が及ばない範疇だって事は」
呼び捨てにされるも、一応年上だしまあ良いかと思う。
けれども今ので何が分かるのか、という事の方が不満だ。
まだ何もしていない、これからしようかと思っていたのに。
「もう合格! シュンはうちのメンバーになりました!……だからもう終わり」
……そういやそう言う目的だったっけ。
シュンは別にどうしてもパーティーに入れて欲しいというわけじゃなかったのに、何故だかシュンの方から頼んでいたみたいな感じになってる。
まあ良いや、エミと一緒に戦うってのもそんなに悪くなさそうだ。
と、結構楽しみになってきたシュンだった。




