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第二話


「どうだい、意識はハッキリしてきたかい?」


「俺は……そうだ!魔王を倒して、それで封印されて……今はって、……二千年?って言ったのか……。」


「そうさ、まだ半分も経ってない。」


「それで……俺は解放されるのか。」


「さっきも言ったろう、上手い事やっといたんだよ。適当にソレっぽいアイテムに封印解呪の力を付与して、操りやすそうな人間を使ったりとかさ。」


「じゃあ、元の世界に帰れるんだな!」


「ああ、それは無理さ。」


「……なんだよそれ、じゃああと三千年待つよ。」


「本当に帰れると思う?と言うか帰してくれると信じてるのかい?」


「おい……どういう事だ。」


「だって君、あと三千年も経ったら消えて無くなっちゃうよ?今の君は力を吸い取られて十歳くらいの体だよ。」


「何それどういう理屈?」


ひょっとしてこの声に起こして貰えなかったら、眠ったまま消えてしまっていたという事か?それって殺されるのと変わらないじゃないか。


「この封印はそういうものだからね。」


「つまり、またしても騙されたという事か。」


「そういう事、君はトコトンお人好しだねえ。」


「別に好きでこんな目に遭ってるわけじゃない、殆んど無理矢理じゃねえか。」


「まあ何にしろ、そのままじゃあ解放された瞬間その負荷で死んじゃいそうだから、僕の力を少しだけ分けてあげるよ。」


「力を分けるって……一体お前は何者なんだ?神々とやらの仲間とかか?」


さっきから聞いてるとずいぶん力とやらを使ってるみたいだけど、こいつも何か企んでるんじゃないだろうか……。


「まあそんなとこ……あ、ほらほら、もう封印が解けるよ!」


今まで真っ暗闇一辺倒だったこの空間に細い光の筋が走った。


その光の筋は瞬く間に網目の様に空間全体に拡がり、そして光が弾けた。


封印は解かれた。





砕けた石板の欠片一つ一つが光の泡に変貌していき、人型の輪郭を象っていく。


「ハッハー!魔王の復活だ!」


「うそ、まさかホントだったの……。」


「そんな簡単に封印て解けるものなのか……。」


「嘘です!魔王だなんて……、この人は嘘をついてます!」


「ちくしょお!間に合わなかったのかよ!」


もたもたしているからである。


「ハーッハッハッハー!これで世界の半分は俺様のものだー!」


いっそ哀れなくらい一途に信じている。


光の輪郭が段々実体化していく………。


そこに現れたのは、生まれたままの姿の少年、シュンであった。


今、二千年ぶりにこの世界の救世主が帰ってきたのだ。


「……あれ?」


モルドーヴが間抜けな顔と声で首を傾げる。


「きゃあっ。」


「いやん♡」


「全裸……か。」


「しょ、少年?……これが……魔王なのか?」


女性陣は嬌声をあげて手で顔を覆う……目は隠れていないが。


ヴォルは何故か感心した様に腕組みしながらしきりに頷いている。


ルースは拍子抜けした表情だ。


救世主の帰還にしては些か感動が足りないが、これは仕方がないだろう。


そして当のシュンといえば……。


(眩しくて目が開けられない!音がうるさくて鼓膜がちぎれる!喉に何かが詰まってるみたいで声が出ない!鼻に空気が入ってきてくすぐったい!全身に痛々しいほどの視線を感じてなんか恥ずかしい!でも筋肉がこわばって体が動かない!)


二千年のブランクに苦しんでいた……補足をすれば、鼓膜は破れるものであって千切れるとは言わない……どうやら脳もまだちゃんと働いてないようだ。


全裸で仁王立ち、瞑目したまま無言、直立不動……復活したてとはいえ、あまりと言えばあんまりである。


「何だ?動かないぞ。」


ルースは警戒しながらもジリジリと近づく……どうやら彼はジリジリと近ずく習性があるようだ。


ちなみにシュンだけでなく、ルース以外は誰も動かない。


しかし、ルースがにじり寄った事で我に返ったモルドーヴの硬直が解かれた。


「こ、これぞ魔王の幼生体よ!貴様らを食らう事によって完全体となるのだ!」


押し通す気である。


「何だと!おのれ魔王め、思い通りにはさせないぞ!」


「いやー、違うんじゃないかなあ……。」


「まあ、違うだろうな。」


「は、は、裸……裸ですよ裸……。」


まともに反応してあげているのはルースぐらいだ……あとパティナはちょっと落ち着いたほうがいいだろう。


「な、何を言う!こんな場所に封印されていたのが魔王じゃなくて何だというのか!」


モルドーヴも必死である。


「そ、そうだ!確かに……ここは今まで誰も立ち入れなかった“ヘキサピラー”内部……魔王が封印された伝説のある場所だ!」


近寄りつつあったルースが慌てて距離をとる……忙しい男だ。


その他一同は『そうかなあ〜』といった顔で二人を見る。


もはや、兄弟で掛け合いをやっているだけみたいな事になってきた。


(何か言い争ってるみたいだけど、ちょっと何言ってるのかわからないな。)


「ええい!貴様も魔王なら魔王らしく早く奴らを皆殺しにしろ!」


(あ、今度はわかった……っておい、誰が魔王じゃ!)


誤解を解くためにもまずは会話だ。


「お、おえあ……あおうああい……。」


『俺は魔王じゃない』そう言ったつもりだったが母音しかでない、まだ喋るのは無理なようだった……もどかしい。


「え!?今、ひょっとして喋った?」


「喋った…と言えるのか?」


「むしろ音声装置が作動したって感じですね。」


「いおお、おおいあいに、いうな!」


声を出すのに慣れたのか、最後だけちゃんと言えた。


同時に目もやっと慣れてきた。


「ほお、開眼したか……。」


ヴォルが腕組みしながらしきりに頷いている……彼の癖なのか。


「何い!おのれ魔王め……やる気だな!」


気が早い……やはり兄弟だけあって似通った部分が多い。


「馬鹿め!貴様ごときが何を言う、殺れ魔王よ!」


モルドーヴはすっかり主人気分だ。


「俺は魔王じゃないとさっきから言ってるだろうがあ!」


言ってない……いや、言ったけど言えてない。


けれどもう言えるようになった。


「じゃあ……貴方は何なんですか?あと何で裸なんですか?」


「何って……そりゃあれだよ、自分で言うのも何だけど勇……え、裸?」


今更ながら自分の惨状に気付いたシュン。


慌てて大事な所を手で覆い隠す……今更にも程がある。


「あっ……。」


「ちょっとパティナ……。」


何だか残念そうなパティナを、リーリスがジト目で見る。


「いや……、ちがいますよ?」


「ふう、やれやれ……お年頃だな。」


「くっ、くそう……辱められた……お前ら、よくも……。」


「まてい!」


ルースと、モルドーヴが同時に叫ぶ。


「まだ、こっちの話が終わってない……、お、お前は魔王だろ?魔王だよな!そうだよな!そうだと言ってくれ!」


「お前は魔王なのか?もしそうなら俺はお前を倒さなくちゃならない……たとえ、姿形は年端のいかない少年だとしても……俺は、刺し違えてでもお前を倒す。」


違うと言ったのは聞こえていなかったのか。


「ハンッ!何をカッコつけやがるか、雑魚モンスターぐらいしか相手したこと無いくせに。」


「コソ泥みたいなクエストしかした事無い兄貴に言われたく無いね!」


「……お前、女の前だからってあんま調子ん乗んなよ?」


「かか、彼女らは関係ねえだろ!」


「ああ!?かのじょだーあ?」


「そういう意味じゃねーよ!」


……もうこの兄弟は放っておこう。


「あーあ、また始まった。」


リーリスが呆れながらボヤく。


「ごめんなさい、あの人達いつもああなんです……。」


パティナがシュンに謝罪する。


「いや、俺の方こそ……何か怒鳴っちゃってスマン。」


何故かシュンも申し訳なさそうだ。


「で、君は何なんだい?」


ヴォルが話を戻す。


誰か?と言われても、よくよく考えてみれば“二千年前に世界を救った勇者”だとか言っても信じてもらえるはずも無いだろうし、可哀想な子供扱いされていまいそうである。


そもそも自分で“勇者”とか言いたく無い……さっき勢いで言いそうになったけど。


そう考えたシュンは誤魔化す事にした。


「まあ、見たまんまの……ただの普通の少年です。」


無理である。


さっきの兄弟の掛け合いでは無いが、こんな曰く付きの場所で封印から復活してきた者が“ただの”少年のはずが無い。


「……そのようにしか見えないな。」


「ですよねー。」


「では何故裸なのです?」


「しつこいな君!」


……彼らは二流の冒険者と言うよりはアホの冒険者と自称を変えたほうがいい。


お大事様を隠しながらも、シュンは少しだけホッとしていた……今の姿は十歳ぐらいだと誰かが言っていたけど、さっきの白銀の鎧を纏った若い男の反応からもそれは確かな様だ。


これがもし本来の自分、二十八歳くらいの男の裸であったら、自身の恥ずかしもさることながら、周りの反応ももっと緊迫していたかもしれない。


「あー、あのそれでですね、何か羽織るものを貸して頂けませんか?」


「ふむ、何故だ?」


いや何故ってあんた……。


「あ、きっと寒いんですよ。」


別にそんなに寒くもないだろう、それよりももっと常識的に考えてはくれないだろうか。


「あ、アタシ着替え持ってるよ。」


その反応が欲しかった。


よかった、どうやらこの人はマトモな人の様だ。


女の人の着替えというのに羞恥を感じるシュンではあるが、背に腹は変えられない。


「良かったらこれを使って。」


手渡された服を着る。


……いやまあ、裸よりは良いだろうが、これは……。


ゴシックロリータ……俗に言うゴスロリ服であった。


なんでこんな服を持っているのか、あと何故サイズが合っているのか。


「ふむ、良い着こなしだ。」


「わあ、服も似合いますね。」


服もってなんだ、裸が似合ってたとでも言うのか。


いや、これが似合う男って……。


「いやー、パティナに着せるチャンスを窺ってたんだけど、意外な所で役に立ったわね。」


自分の着替えではないのか……この人もやっぱり何か変な人だ。


「ちょっ、リーリス!私にこんなの着せようとしてたんですか!?」


こんなのって……お前さっき似合ってるって言ってたよな?


「……か、可憐だ。」


そこへ、兄弟喧嘩がひと段落ついたのか、モルドーヴがこちらをみながら呟いた……若干顔も赤い。


「あ、い、いや、おい!お前は魔王じゃないのか!ならば何故ここに封印されていたんだ!」


「いやあの……川で水浴びしてたら……その、何か……ここに召喚されてしまったみたいですね……。」


適当に言ってみた。


「そ、そんな……じゃあ、お、俺の野望は……。」


信じた様だ。


「馬鹿だな兄貴、見れば分かるだろう。」


当然とばかりにルースは言うが、一番疑ってたのは彼だろう……ある意味兄を信用していたとも言える。


「ちっくしょおおお!!だましたなあああ!!」


モルドーヴは泣きながら一目散に何処かへ走り去っていってしまった。


“声”の言っていた操りやすい人間とはこいつか。


「あ、逃げますよ!」


「いや、もう追う理由もないだろう。」


「……そうね。」


一応手配されている窃盗犯なのだが、『魔王復活させる!』とか恥ずかしい事を言っている身内を、放って置けないとルースが言うので追いかけてきただけなのだから、誰もそこは気にしていない様だった。


「所で……この女の子は一体誰なんだ、どこから現れた?」


色々心配になる人達だった。



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