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第二十八話

声の主はシェリルであった。

買い物袋から溢れんばかりの食材を買い込んできている。

五人パーティーだから量も多くなるのだろう。


「おう、帰ってきたのか、早いな」


臆面もなくそれを迎えるエミ。


「なんですの、エミがどうしたですって」


「あー、男の子だ」


「おおっ、コレはこれは大事件」


ミラーナ、マリンカ、リアンが次々と戻って来て声を上げる。

シュンも五人の少女に囲まれ居心地が悪い様な、嬉し恥ずかしの様な……ドキドキしてしまう。

もっとも一人はオッさんなのでカウントしたく無いが見た目は微笑、美少女だしオッさんなのは自分もそうだ。


それにしても、よくぞ集まったなと言った具合のカワイイ子ばかりだ、これがエミの趣味だと思うと、趣味が合うなと、少し癪だった。 このロリコンめ。


「みなさん初めまして、シュンと言います。 お邪魔させていただいてます」


丁寧に挨拶をする。 他の人達はエミとは違うのだ。

一応は年上という事になるから、礼儀はちゃんとしないといけないとシュンは考えている。

しかし、これではもう話の続きは出来そうに無い。


「おいシュンよ、オレとは随分対応が違うじゃないか」


エミは不満そうだ。


「当たり前だろうが、なんで貴様と同じだと思うんだ」


魔王と少女を一緒に出来るか。


「一応はオレだって女の子なんだゾ」


「気持ちの悪い事を言うんじゃない、なにが『だゾ』だ、俺を吐き殺す気か」


冗談半分で言ったことだが、何か気に入らないエミ。

別に優しくして欲しいわけではないが、久しぶりに会った好敵手なんだから、もう少し敬意が欲しいものだと思ってしまう。


なのに、この気安さや、歯に絹着せぬ物言いに心地よさも感じてたりする乙女心がエミ(フューデガルド)に芽生え始めていた。

自分にだけこうなのだと……それでいいのか?


「ちょっとエミー、えーなに随分仲イイじゃん、年下好きだったんだ」


シェリルがニヤニヤしながら冷やかしにかかる。


「キャーウソー、あのエミが、男嫌いのエミが、明日は隕石降りますネ」


マリンカは騒がしく囃し立てる。


「そう、エミも女の子だったのね……(わたくし)安心しました」


ミラーナがそう安心するくらいにはエミの男嫌いは酷かった。


「まったく、頭冷やしてくるって言ってたのに、むしろのぼせてんじゃん」


リアンはからかい気味に文句を言う。


実に姦しく、口々に思い思いのことを言う面々。

今度はちょっとシュンが面白くない。

女子がこれだけいて、何故よりにもよってエミとの仲を冷やかされなければならないのか。

別に誰が好みとか、あの子と付き合いたいとかはないが、何か不愉快な気分になる。


「皆さん、盛り上がっている所をすいませんが、僕とコイツは全然そんな関係じゃありません」


「キャー、コイツだってー」


「もうそんな関係ですの」


「いつの間に知り合ったのよー」


「夫婦みたいですー」


ヤブヘビだった。

もう何を言っても無駄だろうと、シュンは(いとま)を告げる事にする。

これ以上は幽霊狩猟の話もできまいと思って、


「じゃあ、僕はこの辺で……」


と、腰を浮かべたところ、


「待てシュン」


と、エミが呼び止める。


「なんだ、まだ何か用があるのか」


シュンは早く帰りたかったが、さすがに呼び止められたら止まらざるをえない。


「みんなに提案なんだが、コイツをパーティーに入れてみないか」


「一体何を言い出すかと思えば……」


シュンは呆れる。

コレが目的で自分をこの拠点に連れてきたのだと理解する。


『まだ子供じゃない、何言ってるのエミ』


異口同音にそんな声が上がる。

さっきまでキャーキャー言ってたのに途端に子供扱いである。

しかし冒険者というのは遊びではない、彼女たちにはそれぞれの目的があり、それに命を懸けられるから若い身空でこんな稼業をしているのだ。


本来、裕福な家庭であれば学校なりなんなり学業に力を入れる年代であるし、余裕のない家庭であれば、家業を手伝うなり働きに出るなりしているものだ。


そんな危険な事に他人を巻き込めない。

と言うかうちのパーティー女子だけなのに、年下とはいえ男を入れるなんて、いくらエミのいい人だからって、そんなの修羅場になったらどうするのよ。

男女関係で破綻したパーティーの話ぐらいたくさん知ってるでしょ。


といった気持ちで、メンバー達はあまりいい顔をしない。


四人ともシュンが自分に惚れてしまう想像をしていた。

なんなら、『ダメよ、エミを裏切れない』『でも君が好きなんだ、エミも分かってくれる』

みたいな脳内会話まで始まっているくらいだ。

なんだかんだエミに限らず全員男には慣れていないのだ。


「こいつはオレより強いぞ、それにれっきとした冒険者だ」


エミは仲間達にキッパリと言う。

シュンがいなければ幽霊狩猟退治は覚束ない。 それは間違いないのだ。


全員の命を守る為にはどうしてもシュンの力がいる。

何とかしてみんなを説得しなければならない。


「エミより……強い?」


シュンの前ではとんだ無様を晒したが、エミの実力はかなりのものである。

魔王の記憶を持つこともさることながら、彼女のスキルは強力だ。 勿論欠点もあるが。

それは仲間達も十分に承知している。

パーティーリーダーこそシェリルではあるが、エースはエミなのだ。


「俺の意見は聞かんのか?」


「幽霊狩猟を倒すんだろう? シュンは依頼を受けられないみたいじゃないか」


「勝手に倒してしまっても構わんのだろう?」


「報酬が欲しくはないのか?」


メンバー達は呆気にとられている。

エミとシュンのこの軽妙な話ぶりながらギスギスした感じは一体何なのだろうと。

さらに『幽霊狩猟を勝手に倒す」なんて事を、シレッと言う。

依頼を受けられないと言う事はレベルが足りないってことじゃないのか?


「待って、シュン……君は今までどんなクエストを?」


代表してリーダーのシェリルが質問をする。


シュンは胸を張って答える。


「薬草の採取を一度」


「……それから?」


「それだけです」


シュンは小さくなって答える。

考えてみたら威張れる事じゃなかった。


詳しく話せばブリーデングウルフを討伐し、幽霊狩猟の情報をもたらしたのがシュンなのだが、それは別にクエストではない。 あくまで薬草採取の副産物だ。


「話になりませんわ」


ミラーナが肩を竦める。


「だがコイツは冒険者初日に薬草四十とモンスター九体を討伐した……と言ったら?」


エミがメンバーを見渡す。


「いやいや、あり得ないですよ、薬草ってそんなに採れるもんじゃないです」


マリンカが疑いの視線を向ける。


「それにモンスターって何? 九体って意味不明」


リアンもハナから信じていない。


皆、エミが自分の恋人をよく言って、パーティーでイチャコラするのを見せつける為に話を盛っていると思っているのだ。


シュンは黙って聞いていたが、年上?とは言えこのような少女達に侮られるのは自分の矜持が許さない。


「シュンの力を信じられない様だな」


シュンよりも先にエミが口を開く。


「シュン、表に出てオレと手合わせしろ」


熱いことを言ってくれる。

さっきの出会い頭はノーカウントで仕切り直しって事か。

面白い、今度こそコテンパンにしてやる。

シュンは体に火が灯った様に熱くなってくるのを感じる。


「シュンが俺に勝ったらパーティーに入れる、それで異存はないな」


「うーん、そこまで言うなら……でも手加減は無しよ」


あれ? 何故そうなる。


「あ、シュン、さっきの剣は無しな、オレ死んじゃうから」


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