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第二十七話

「こんな道端でする話じゃ無い、街に戻って落ち着けるところに行こう」


エミの口調は魔王のそれから普段のものに戻っていた。


「まあ、貴様の言う事ももっともだな、俺は今日まだ何も食べて無いしな」


二人連れ立って街への帰りの道すがら、エミは自分が魔王の記憶を思い出した時の事を話す。


ーーーーあれは今から五年前、そう、ちょうど九歳の誕生日の日の事だった。


エミはバージの街の北西にある小さな村で生まれた。

幼馴染みのシェリルと共にわんぱくに育った彼女は普通の村娘として貧しくも元気に暮らしていた。


その村にはダンジョンへと向かう冒険者達がたまに訪れ、幼かったエミ達に冒険譚を語って聞かせ、そのうちにエミも冒険者になりたいと憧れを抱いた。


けれども、冒険者になるにはお金がかかる。

冒険者カードの作成にはカードの代金の他に登録料や税金、保証金と言った費用などが含まれている為だ。

その為、モグリで冒険者の真似事をしながらお金を貯めて冒険者になろうという者は数多くいた。

当然エミの実家には払えるものでは無い。

けれども冒険者を名乗るにはギルドに所属する事が不可欠だ。 ギルドの看板を背負って、責任を持ち、義務を果たす。

義務も責任も持たない者などただの浮浪者だ。



「いやおい、ちょっと待て、まだ貴様が出てきてないが聞きたい事がある」


シュンが話の腰を折ってエミに質問する。


「何だ? オレなら最初から出てるだろう」


「お前じゃ無い貴様の方だ、それより何だ登録料とか税金とか保証金って」


シュンはルーセリーナにカードを作ってもらって冒険者をやっているが、初耳だった。

まだ一回薬草を採りに行っただけだが、そういう問題じゃない。

それを支払わなければ冒険者になれないという事は、エミは支払ったという事だ。

シュンは一レジドも払ってない。

魔王が納税者で勇者が脱税では話が逆だ。

いや今は別に勇者じゃ無いからいいのか? ……いい訳はないか。


「何って、最初に普通に払うだろう。 貴様……シュンだってカードを持ってるならそうなんじゃないのか?」


知らない、そんな話は知らない。 大問題なんじゃないのかこれは……

今度ルーセリーナにあったら聞いてみないといけない。

シュンは取り敢えず問題をたなにあげることにする。


「すまんな話の腰を折って、で何だっけ?貴様が浮浪者になってどうしたんだ」


「なっとらんわ!いいから黙って聞いてろ」



そんなある日、夢で何者かの声が聞こえた。

最初は何を言っているのか分からなかった。 起きたら忘れていただけかも知れないが。

その夢は何日も続き、さすがに言ってる事も分かるようになってきた。


“思い出せ”


と言っていた。

何をだ? としか思わなかった。 所詮は夢だ。


“思い出せ自分が何者かを……お前の力を思い出せ”


一体何を言っているのだろうか、という気持ちが薄れていく。

年頃だったエミは、自分には自分の知らない正体と力がある? まさかアタイって選ばれた人間!? と思うに至るまでには時間はかからなかった。


やっぱりアタイってば冒険者になる為に生まれてきたような女なのね、いや、それどころか世界を救っちゃう?


何から救うつもりなのかも考えず、エミはのぼせ上がっていた。

調子に乗ってダンジョンまで行き、手っ取り早く稼いで早く冒険者にならなくてはと焦ってもいた。 なぜ焦っていたのかは今も分からない。


そのダンジョンで凄まじいモンスターと出会う。

翼を持った漆黒の獅子の姿をしたそれは、腰が抜けて泣きじゃくるエミに


『今こそ思い出すのだ』


と言い、エミはそれきり気を失った。

気づいた時には村に戻っていた。



「で、魔王としての自分を思い出したってのか?」


「そういう事だ」


……それってマインドコントロールとか言うんじゃ無いのか?

シュンはそんな気がしたが、ただのマインドコントロールではシュンの事を知るはずも無い。

モンスターもそうだが、声の主が一番気になる。

封印中にシュンに声をかけてきた存在の事を思い出す。


「まあそんな訳でな、オレは魔王ではあるが今はエミュールと言う人間の少女だ」


話を聞いたら胡散臭さの度合いが増した。

まあ、魔王と言うよりは魔王の記憶を持った気の毒な少女とでも思っておこう。

しかし素で話せるというのは楽だな、シュンは凄く話しやすかった。


「では貴様の事はエミュールと呼べばいいわけだな」


「いや、仲間内ではエミで通っている。 そう呼んでくれ」


「エミ……か、何が美少女だ、微笑女じゃねえか」


「うまいこと言ったつもりか!」


「あーハイハイ、ゴメンゴメン、滑ってますよー」


「お前、そんな奴だったか」


「貴様は普段の俺なんか知らんだろ」


「それもそうだな」


などと他愛の無い会話の間に街に着く。


「では、どこで腰を落ち着けよう」


エミはシュンの要望に任せるつもりのようだ。


「そうだな、腹も減ったしな……」


普通に宿に戻って、食堂で食事をしながら話してもいいが、何となく宿の女将さんに見られるのがヤダなと思った。


「ならウチでメシでも食いながら話すか、ご馳走するぞ」


エミが手っ取り早い提案をする。


「誰が魔王の住処なんぞに行くか!」


「失礼な事を言うな! 仲間との拠点だ」


エミ達のパーティーは、この街で借家を借りているようだった。

渋々ついて行くシュン。

エミに対してはやたら無礼だが、魔王の記憶を持ち魔王としてシュンに接してくるのだから仕方ない事なのかも知れないが、この様なシュンも実は珍しい。


結構エミの事を気に入っている様だった。


「では、幽霊狩猟についてだが」


エミの手作りという食事を出され、『毒でも入ってんじゃ無いだろうな』などと言うツッコミをいちいち入れる事は我慢して、食べながら黙って聞く。


「トリストラムと言う魔族を覚えているか」


嫌な名前を聞いた。

少なくとも食事中に出す名前では無い。


「覚えているとも、ああ忘れるものか!……あの糞尿と汚泥の塊の事は忘れたいんだがな」


トリストラム……上位の魔族だが、その姿から同族からも遠慮がちにされていた。

その様に生まれついてしまったのだからどうしようも無いが、肥溜めを好んで寝ぐらにし、汚泥を身体に塗りたくって身を飾るその様は、見る者に不快しか与えない。


さらに言えば、奴には親友を殺されている。


「今回の元凶、いや、それ以前もだろうな……幽霊狩猟は奴の呪いによるものだ」


いかにも呪いの力が強そうなその外見にシュンは説得力を感じた。

見た目や(へき)はともかく上位の魔族だ。 その魔力は尋常ではない。


「……おい、元凶という事は、幽霊狩猟そのものじゃないって事か、……まさか」


「あー!! エミが男連れ込んでるー!」


シュンの推測は甲高い声に遮られた。


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