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第二十五話

シュンが川底で魔石を探していた頃、ルーセリーナはユラの里に戻り里の隅にある倉庫の中にいた。


「……あった」


幽霊狩猟の頭領は幽霊猟師と呼ばれる。

その正体は過去の王や英雄、呪われた精霊、もしくは悪魔と言われている。


魔族と悪魔は根本的に違う存在だ。 魔族が魔王に率いられた異界の種族だが、悪魔は元々この世界に存在していた“悪意を持った精霊”のことであり、総じて強大な力を持つ。


幽霊猟師に率いられる呪われた物の怪の軍勢は、黒い馬や猟犬、山羊などの姿をとって現れる。 そしてルーセリーナは知っていた、その呪いの根源を。

そしてそれ故にこの件にはシュンを関わらせたくなかった。


呪われた強大な軍勢ではあるが、その本質は亡霊、つまりアンデッドだ。

呪いに囚われた哀れなヒトや妖精、精霊の成れの果てだ。

幽霊猟師さえどうにかすればいい。

その為に必要な物を探していたのだが、無事見つけることができた。


若返りに使用した際、バラバラになってしまった“ウインクルの昔鏡”、その破片を。


里の者に幽霊狩猟の事は伝えた。

この森に棲みつく者達への警告は彼らがしてくれるだろう。

ここまで危険が及ぶかは不明だが、用心に越したことはない。

あとは現場の森への対処だ、水際で何とかしないと手に負えない事態にも発展しかねない。

やる事はまだまだある、とルーセリーナはその小さい拳を握りしめた。




幽霊狩猟討伐……この話でギルドは持ちきりだった。

その存在を知らぬ者は少ないが、伝聞でしか聞いたことがない者がほとんどだ。

そこかしこで冒険者達の言い合いが始まる。


「本気で言っているのか! あの伝説のモンスターなんだぞ」


勝気な少女の怒鳴り声だ。


「だってコレってチャンスじゃない、たかがアンデットでしょう?」


同じくらいの年齢の少女が説得気味に言葉を返す。


「亡霊ごとき私のターンアンデットで一網打尽にして差し上げましょう」


別の少女が後者の意見に、お高く賛同の意を示す。 この少女も同年齢だ。


「危険は承知ですよ、でもそれが冒険者ってモンじゃないですか」


これもまた同じ年齢の少女が一般論を持ち出し、勝気な少女の意見を封殺にかかる。


「しょうがないよ、他に依頼はないんだしさ」


諦めた様に消極的な賛同をするこの少女もまた同年齢である。


五人パーティを組む彼女達は今回の幽霊狩猟討伐依頼に対して意見が割れていた。

一対四と言う、ともすれば一人のわがままに見えなくもない状況だが、その少数派の勝気そうな少女は名をエミュールと言い、エミと呼ばれていた。


「エミの言ってることもわかるけどさ、ミラのターンアンデットもあるし、リアも言ってる様に他に依頼も無いじゃない、冒険者は冒険しなきゃ、マリの言うとおりよ」


最初にエミを説得しにかかったシェリル、リルと呼ばれる彼女は、仲間達の言葉を使って再度エミの説得を試みる。


「みんなの気持ちだって分かるし、命を惜しんでちゃこんな稼業やってらんないだろうよ、でも幽霊狩猟だけはヤバイって、知ってるだろ? アンデットにされちまうんだぜ」


エミュールは己の臆病さから反対している訳ではなかった。

仲間達からアンデットになってしまう者が出て欲しくないという思いから反対しているのだ。

他の冒険者がアンデット化するのは構わないと思っている訳でもないが、それはそちらの判断でそうなるのだから仕方ないだろう。

こちらの運命だってこちらの判断で決まるのだ。

その判断に、アンデットになる危険性を含みたくはないのだ。


アンデットの種類は多く多岐にわたっているが、よほどの上位種でもない限りは普通の冒険者にとって無為に恐れる様なモノでもない。

しかし、ある種においてはこちらをアンデッド化させてしまうのもいる。

エミュールはそれだけは嫌だったのだ。

死してなお魂を呪いに縛られ、永遠に恨みを抱いて彷徨い、最後は自分達の様な冒険者などに討伐される。

そんな死に様はまっぴらだった。

まだ十四になったばかりの彼女達が、若い身空でそんな目にあう危険性は排除したかった。


そう、彼女達はまだ全員十四歳なのだ。

この歳でパーティを組み冒険者として活動している者は稀である。

パーティを組んでおよそ一年半、その期間で幽霊狩猟討伐に参加しようと思うくらいの自信と実力を身に付けた稀有なパーティだ。


「伝説なんて大抵が国の威信のために大袈裟に言うものでしょう」


ミラは自分の退魔の力に自信を持っている。

幼い頃からそういう家柄で育ち、厳しい修養も課せられてきたのだ。

ミラーナという名だが、ミラと呼ばれている。


「大体オレ達はレベルが足りてないだろ」


エミュールの一人称は“オレ”であった。


「でも私達みんなスキル持ちなんですから大丈夫ですよ」


マリンカ、マリと呼ばれる少女が自分達の自信の根拠となる能力を持ち出した。


スキルとは本来、後天的に手に入れた特殊技術の事だが、生まれつき、もしくは若いうちから発現する能力もある。

正確には天賦(ギフト)と呼ばれるものだが、通常普通の才能は冒険者カードなどに表示されず、生まれつき足が速いと言っても別に“スキル俊足”とはならない。

それとは異なり、カードに表示されるほどの特異な才能を天賦(ギフト)といい、表示されるからにはスキルとして扱われる、というものだ。


彼女らはそれぞれにそういった天賦(ギフト)を持ち、この力を持ってしてこの歳で冒険者をやっていられるのだ。


「うーん、じゃあエミ、こんなのどう?」


リアン、リアと呼ばれる少女が提案したのは、エミの言う通りレベルが足りていないので参加を見送られる可能性はもちろんあるのだから、取り敢えず受けに行くだけはしてみないかと、その上でスキルを考慮されて参加が叶えば参加し、無理なら当然諦める。


と言った、要は問題を相手任せにし、その判断を委ねるという事なのだが、このまま仲間内だけで話し合っても平行線だろうし、そうならなくても一人であるエミが不利になっていくだけだ。

それならば、と第三者の介入と言うわけだ。


この一大事をギルド任せにするのはエミにとっては噴飯モノだが、ラチがあかないのも確かだ。

それにレベルが足りないから受けられないだろう、みたいな事を言った手前その意見を頭ごなしに否定し辛い。

けれどもスキルを考慮すれば、まず参加は叶うだろう。

要は買いことばで言ってしまっただけなので、言質を取られた格好だ。

ここに至って、エミにはその提案を断る事はできなかった。



エミは少々ふて腐りながら一人街道を歩いていた。

依頼はリル達に任せ、『ちょっと頭を冷やしてくる』と言って別行動をとった。


別に嘘をついたわけではない、実際川でひと泳ぎしてくるか、と思っていた事も事実だ。

けれども、今は皆と顔を合わせたくないと言う思いが本命だ。

この件で皆が嫌いになったと言うわけではなく、むしろ逆の思いだ。

大好きな彼女らが嬉々として死地に赴くのを見ていられなかった。


エミ十四歳だ。 まだ子供と言っていい少女だ。

けれども彼女の言動や思考は大人びているし、言葉遣いも男のそれに近い。

それは今からおよそ五年前に唐突にそうなったのだ。

それまでは、普通に無分別なただのヤンチャな女の子だったしスキルなども無かった。


五年前彼女は思い出したのだ、過去の自分を。

そしてその記憶の中にいるのだ、今回の幽霊狩猟の正体とその元凶が。

仲間達ではきっと勝てない、今の自分ではそれを助ける事も止める事もできない。

それがもどかしい。


水の中にでも飛び込めばこのもどかしさが洗い流せる様な気がした。


川に辿り着くも、相変わらずの盛況っぷりだ。

思い立ったままここまで来たエミは水着など持ってきていない。

別に裸で構わないと思っていたエミだが、さすがにあまり大勢の前でそんな事はできない。

散歩がてらに川沿いを上流へと向かって歩き出す。


しばらく進み、アシの丈が自分の身長とそう変わらないぐらいのところまで来て、一人の少年が何やら作業をしているのが見えた。

こんな所で珍しい、とエミがしばらく見ていると、その少年が魔法の様な光を放つ紙……おそらく陣紙だろう、を持っている事に気づき驚愕した。


陣紙は高い、それを少年が持っているなんてずいぶん金持ちのボンボンだな……などと思ったわけではない。


(あの光は、まさか……漢字魔法!)


そんなはずはない、あの男以外に使い手などいないはずだし、使えるものがいるとは思えない。

エミはその少年のところに向かって駆け出した。



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