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第二十二話

日も落ちてきた夕暮れ時。

シュン達はバージの街の南門に到着する。


大手門の両横に出口と入り口に分かれた二つの通用門がある。

それぞれの門の前には守衛が二人づつ達、出入りの者を見張っている。

入り口の通用門は混雑していた。

じきに日没だ、街の外へと出払っていた者たちが集中する時間帯である。


その多くは冒険者達のようだが、そうではない者達も少数だがいる。

姿格好や持ち物などを見れば一目瞭然だ。

シュン達もその意味ではなんとか冒険者に見えるのかもしれないが、その年齢から街の外で遊びまわって汚れて帰ってきた子供達……その様にも見える。


この時間帯に街の外をうろつく子供達はいない様で、シュン達の他には姿は見えなかった。

その為か、周りから不躾な視線を浴びる。

なんとなくの居心地の悪さを感じながら、入り口の列に並び『この人達も森にいたのかな?』などとりとめのない事を考えているうちに、門へとたどり着く。


守衛に手形と冒険者カードを提示する。

街にただ入るなら手形だけで十分なのだが、武器を携行しているとなると話は違う。

武器を持つ正当性の証としても冒険者カードは必要なのだ。


「ほう君は冒険者なのか……」


その守衛は意外そうな顔でシュンとルーセリーナを見る。


「まあいい、あまり遅くなると危険だから早く家に帰りなさい」


そう言って門を通してくれる。 心配してくれた様だ。


「ありがとうございます、守衛さんもお仕事頑張ってください」


そう返し、シュン達はバージの街に帰ってきた。

もちろん帰る家などないので、泊まるのは宿だがその前にギルドに顔を出すことにする。

大した疲れも感じていないので、早速完了報告とかもしてみたい。

こちらを侮った受付嬢も見直してくれるかも知れない、と浮かれ気味になるがルーセリーナは大丈夫だろうか? と心配になり声をかける。


「ルーちゃん疲れてないか、俺はちょっとギルドに行って来るから先に宿に戻って休んでなよ」


ルーセリーナは少し逡巡した後


「うん分かった、先に行ってシュン兄ちゃんの帰りを待ってるよ」


なにやら少々大袈裟な物言いだが、特にシュンは気にすることもなく宿の前まで一緒に行き、採取袋を受け取りそこで別れる。

ずしりとくる重み……今日の成果の手応えだ。


程なくギルドに着いたシュンな意気揚々とドアを開け、中の喧騒に驚いた。

依頼を受けに来た時の倍以上の冒険者達でごった返していたのだ。


ギルドのあまり評判のよろしくない食堂ですら満席だった。

早くも一杯やりながら歓談に花を咲かせている。 食事は摂っていないようだ。

また、待合席に陣取り自身の武勇伝を語る者や、パーティーへのスカウトをする者、買取価格の交渉をする者から小競り合いをする者まで、これぞまさにシュンの思い描いた冒険者像だった。


そこにいる者達笑顔は活力に満ちていた。

こういうのが見たかったのだ、そのために冒険者も面白そうだと思ったのだ。

死を覚悟し、死ぬと決めた者達の覚悟の乾いた笑いではなく、夢やロマン、あるいは生活や生きがいのために命懸けで戦う者達の前向きな笑顔。

シュンは感慨のあまりつい涙腺が弱くなるが、みっともないので我慢する。


さて、あまりいつまでも突っ立っていたら邪魔だろうと報告カウンターに向かう。

結構混んでいるが、これは仕方ないだろう。

今はクエスト帰りの冒険者達が集中する時間帯だ。


列に並び順番を待つ。

朝と同じく、いやそれ以上の奇異の視線を浴びる。

だがここは報告カウンターだ。

ほとんどの者は、シュンの事をどこかのパーティーの一員で、報告だけさせられているとでも思っているようで、特にちょっかいなどをかけてくる者はいなかった。


冒険者見習いと言った名目で使いっ走りにされている者はそう珍しくはないのだ。

その殆どが貧しい家の子供達で、雀の涙ほどの駄賃でいい様に使われている。

そのまま冒険者として定着することは稀で、すぐに別の子供に変わるので、初めて見る顔でも不思議はない。


ただ、やはり若過ぎる。

この年代の子供が、大勢の冒険者で溢れているこの場で平然と列に並んでいるのは少々奇妙ではあった。


「依頼を達成してきました」


自分の番が回ってきたシュンは胸を張ってそう報告をするが、いかんせん背が低くカウンターの反対側からは顔しか見えない。


「あら、カワイイ冒険者さんね、じゃあ依頼書と達成品を出してもらえるかな」


朝の受付嬢よりも愛想のいい女性職員だ。 こういう対応ならシュンも気持ちがいい。

採取袋にはブリーデングウルフの素材も入っている為、薬草を数えながら取り出す。


「……これで四十っと、全部で二セット分です」


女性職員はニコニコとそれを受け取る。


「はい、確認しました。 それでは終了印を押すわね」


どうやらこれが終了証になる様だ。


「これを買い取りカウンターに持っていけば報奨金が出るからね」


実に淡白に報告が終わってしまった。

別にいいのだが、シュンとしてはもう少し驚いてくれたりしてもいいんじゃないか? などと思ったりもする。

別の人に意趣返しをしても意味はないのだが、子供と侮ったのなら相応に驚いて態度を改めてもらいたかった。

まあ、この人はそれを知らないだろうし、こっちも子供ではないのだが、八つ当たりみたいな事も好きじゃない。


「はい、ありがとうございました」


と言うにとどめておく。


シュンは自分が使いっ走りにされていると思われている事には気づいてない。


ともあれ、後は買い取りカウンターで報奨金の受け取りと素材の買い取りを頼めば依頼完遂だ。

今度は買い取りカウンターに並ぶシュン。

何だか並んでばっかりだ。

街に入るにも、依頼を受けるにも、報告するにも、報奨金をもらうにも全て並んでいる。

今度空いている時間とかを調べてみよう。

そう思うシュンだが、やはり一度依頼を受けてみれば様々な事に気づかされるので、いい勉強にもなった。


「おや、今朝の少年じゃないか」


買い取りカウンターにいたのは今回の依頼の説明をしてくれた男性職員だった。

おそらくは人手不足なのであろう、決められた部所ではなく持ち回りで業務をこなしている様だった。

これも混雑の一因だろう。


「あの依頼は期限が決められてないからね、今日無理でもいちいち報告をしなくてもいいんだよ」


どうやらシュンが失敗の報告にきたとでも思っているのか、買い取りカウンターであるにもかかわらずそんなことを言う。

並ぶ場所を間違えたとでも思われたのだろうか……侮り過ぎである。


「いえ、終了証を持ってきました。 あと買い取りをお願いしたいんですけど」


「ん? 何だって、もう一度言ってくれないか」


「ですから、依頼を達成してきたので報奨金と素材の買い取りをしてもらいに来たんです」


「あーなるほど、依頼を達成したんだね……ちょっと待って」


そう言いながら依頼書の印を確認する。


「あーまあ、うん、そういう事もあるか……じゃあ報奨金は二セット分で、一千二百レジドだね」


やはりこれだけでは今日の経費にも届かない。

けれども一束あたり三十レジドと考えればそんなものなのかもしれない。

やはりここは素材の買い取りに期待だ。

インビジブルレプテルの素材も結構な高値だったし、薬草より安いという事はあるまい。

そんな考えを持って、ブリーデングウルフの素材を全てカウンターの上に置く。


「あと、これを買い取ってください」


クラフト好きのシュンだが、この素材を何に使うかまだ検討をつけていないのだから、持っていても嵩張るだけだと、全て買い取ってもらおうと最初から決めていたのだ。


「これは……牙に爪に、魔晶核? ちょ、ちょっと査定してくるので待っててもらえるかい」


「はい、お願いします」


その男性職員が裏手に消えていくと、入れ替わりに別の男性職員が現れシュンの後ろに並んでいた冒険者の対応を始める。

シュンは見ていてもどかしかった。 もっと上手いやり方はないのかと。

全ては人手不足の所為だ。


そもそもこの街は冒険者が多い所だ。

北には霊峰ソロンとその森があり、南にも別の森がある。

また西にはソロンから流れてくる大河もあるし、東には冒険者の本懐ダンジョンが存在する。


もちろん他の街からもそれらには行けるが、ここの立地は冒険者に人気が高い。

であるのに、ギルド職員の増員要求を聞き入れてくれない本部に、ここの職員は不満を募らせていた。


当然全部シュンの知らない情報である。


“ ちょっと待ってて”という事だったので、立ちっぱなしで待っていたら何だかだんだん疲れてきたな、と思い始めた所でさっきの男性職員が戻ってきた。


「えーと君……シュン君、こっちに来てくれるかい?」


手招きされ別室へと呼ばれる。


(お、何だ? 何か怒られるのか?)


ちょっと尻込みしていまうシュン。

宿にルーセリーナを待たせているので早く帰りたいのだが、呼ばれてしまえば断るわけにもいかない。


(まさかブリーデングウルフは絶滅危惧種で討伐を禁じているとかじゃないよな)


あんなに臆病なモンスターがここまで生き残っているのは奇跡だから、十分にあり得るかもしれない。

などと考えるのはシュンだけである。


「あ、ハイ、いま行きます」


やぶさかながらも呼ばれた部屋へとシュンは入っていった。


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