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第二十一話

「ハルちゃんには本当に感謝しかないな」


「あの子もきっとシュン兄ちゃんの役に立てて喜んでるよ」


多分そんなことはないだろう、むしろ泣いてるんじゃないかな?もったいない。

と、シュンは性懲りも無くそんな事を考える。

妖精の涙は結構いろんなレアアイテムの作製に必要な素材なのだ。


魔族と戦ってばかりのシュンだったが、この世界でアイテムクラフトに目覚めた。

もちろん必要に迫られての事だったが、あの荒涼たる時代にあってシュンの一幅の清涼剤だったのも確かなのだ。


今後もきっとお世話になるだろうと、ハルのご多幸を願った。


ただ、気になることもあった。

それは、あまりロマンチックでは無かったという事だ。

実は、妖精の涙を自力で手に入れたのは今回が初めてだった。

シュンのイメージとして、もっとこう……感動の涙とか、嬉し泣きだとか、儚い涙的なものを想像していたのだが、今回のそれはイジメによる半泣きと言う、涙の価値としては結構低いポジションのような気がするのだ。

さらに言えば、妖精だったら誰でもいいのか? と言うのも問題だ。


果たして効果は一緒なのだろうか? 疑問に思うも出来てからでなくてはそれは分からない。

さらに、それの実験台に自分がなるのが怖い。

誰かに毒味させるような人でなしみたいな事はできないから仕方ないが、命に関わる事態にだけはならないよう祈るしかない。


当然あんな“神々”共には祈らないが。


「でも面白い妖精さんだったなあ」


これは本心だ。 素晴らしいノリの良さを感じた。

素材云々ではなくもう一度会いたいと思うくらい、彼女自身がいい素材だった。


「うん、初めて見るコだったけど、メツァンハルティアには珍しく元気なコだね」


だねと言われてもシュンは対応に困るだけだが、聴き逃せないのは初めて見るコ、という部分だ。


「え、ルーちゃん初対面だったの?」


それであの対応……大物すぎる。

でも向こうはルーセリーナの事を知っているようだった。 よほど有名人なのだなあ……


などなど、雑談しつつの帰り道。

クエスト達成条件をクリアした事による油断だろうか、或いは平和ボケか。

目の前でモンスターがこちらを()め付けていた。


何の事はない、ブリーデングウルフの群れだ。

夕暮れに近づき活動を始めたのだろう。

シュンは居住まいを正し、気の緩みを引き締め直す。

ここは危険な森の中なのだ。 行きがけにニーナという少女に指摘された事を思い出す。


このオオカミ型モンスターの注意点は、牙や爪で傷つけられると出血が止まらないという事にある。

要は攻撃を喰らわなければどうという事はないモンスターだ。

しかもおあつらえ向きに警戒心が高く、一気に襲ってきたりなどしないし、奇襲もできないほどの臆病さも持ち合わせている。

自分たちの適性を全く活用できていないモンスターなのだが、二千年前も今もそれは変わらないようだ。 よく絶滅しなかったものだ。


しかしその評価はシュンがそう思っているだけで、一般的な評価とは隔絶している。

ブリーデングウルフは慎重ではあっても決して臆病ではない。

また、その牙や爪も十分過ぎるほどに脅威だ。 並の冒険者では避けるのも難しい。


ステータス平均四が一レベルとすると、レベル二十は欲しいところだ。



木々の隙間から取り囲み、徐々に包囲を狭めるブリーデングウルフ。

しかし、シュン達二人に時間を与えたのは致命的だった。


ステータスが低いとはいえ、過去の激闘の歴史は変わらない。

あの最中で培われた技術はまだ錆び付いてはいない。

ブリーデングウルフが虚を突かれるほどの速度で肉薄すると、護身用の短剣で一頭を斬り伏せると、そのまま動きを止める事なく流れるようにさらに二頭を仕留める。

全て一撃だ。


背後ではルーセリーナが慣れない短剣で奮闘している。

弓でも買い与えておくべきだったかと後悔する暇はない、太刀筋には不慣れな感じを受けるが、体捌きは流石に大したものがあり、ブリーデングウルフの攻撃も軽々と避けている。

致命打を与えられないまでも、見事に数頭を引きつけている。

その様子から、しばらく任せても大丈夫だろうとシュンは安心する。


安物の短剣を使用しているので、なるべくやわらかい部位を狙っているのだが、それでも五頭仕留めたところで短剣が曲がってしまった。

残りはルーセリーナの引きつけている四頭だけなので、ルーセリーナから短剣を受け取り残りをかたずける。


「やったー、さすがシュン兄ちゃん!」


ルーセリーナは無邪気に喜ぶが、シュンは反省しなければならない事が多かった。

モンスターに気付けなかったのもそうだが、安物のすぐに壊れる短剣や不得手な武器の装備、これらは明らかな想定不足だ。

薬草の採取という響きに危険度を低く見積もってしまった事、モンスターの脅威度が低いのだとしても、きちんとした装備を整えるなど基本中の基本だ。

資金不足だと言うなら、やはり平原で採取するべきだったのだ。

今回の事は幸運だったと捉えるべきであり、万が一という事は常に起こりうるのだと戒めねばなるまい。


「反省点も多いけど、早速剝ぎ取りをしよう」


反省はした、切り替えて素材をいただく事にする。

装備を整える資金のためにも、良い値で売れるのを期待する。


「ルー剝ぎ取り得意だよ、シュン兄ちゃんは疲れてるでしょ、休んでてよ」


正直使える部位の知識はあまりないのでありがたい申し出だ。

幼い姿のルーセリーナ一人に任せるのはあまり外聞の良いものではないが、一度見ただけなので上手くできる自信はないので、余計な事はせずに大人しくしているのが一番良い。


「そうか、じゃあ悪いけど頼むよ」


見て覚えるのも冒険者の仕事だろう。



使えそうな部位は牙、爪、毛皮、その辺はシュンも何となく分かる。

さらに見ていると、尻尾や骨の一部に肉と臓物……ってちょっと待て。


「ちょっとルーちゃん? 肉っているのか……え? 何食べるの」


イヌ科の肉はあまり趣味ではない。


「ブリーデングウルフの肉は煮汁が魔法薬の材料になるんだよ」


ふむ、と納得できそうな気がするシュン。

目標のネクタルに必要なものではないが、使える物は使った方が良い。

と思ったが、大きな見落としがあった。


「ルーちゃんそれ、どうやって持って帰ろう」


採取袋は結構一杯だ。

牙や爪くらいなら幾らか入る余地もあるが、毛皮やまして肉などは無理だろう。

さらには魔晶核もなかなかの大きさだ。


「うーん、持って帰れない分は預かっておいて貰おうよ」


誰にだ?


「ラスコヴィツェ、いるんでしょ」


ガサリ、

背後に気配を感じ、振り返るシュン。

その目に映ったのは、山羊の下半身を持つ顔色の悪い毛深い男性だった。


……なんか変なの出てきた。


視線をそらすのも申し訳ないと思い、自制心を持ってラスコヴィツェと向き合う。

どうやらまた妖精を呼んだようだ。


「そこのオオカミの素材を保管しておいて、そのうち取りに来るから」


ラスコヴィツェは悲しそうな顔をした後無言で頷き、素材と言うか残骸と言うか、ブリーデングウルフの肉片や毛皮を回収し何処かへ歩み去っていく。


「これで大丈夫、また今度大っきい袋を持って来ようね」


「あ、ああ……それは良かったけど……」


シュンはラスコヴィツェの顔色の悪さと悲しそうな表情が気になっていた。


「心配しないでシュン兄ちゃん、ラスコヴィツェは動物の守護精で特にオオカミ好きだから扱いは上手だよ、顔は悪いけど腕は確かだから肉が腐ったりはしないよ」


顔色が悪い、だ。

顔が悪いとか感じの悪い事を言ってはいけない。


「え、オオカミ好きなの? それマズイだろ」


そりゃ悲しそうな顔の一つもするというものだ。

あまりに残酷な仕打ちに、シュンは流石にルーセリーナを咎めようとする。


「ルーちゃん、そんな酷い事をさせたのか」


シュンの責めるような視線に、ルーセリーナは慌てて説明をする。


「ち、違うよ、アレはモンスターだから動物じゃないから平気なんだよ」


「……でも、悲しそうな顔をしていた。 ショックだったんじゃないか」


「アレは多分……オオカミのモンスターは大好物だけど、食べたらワタシに怒られちゃうって思ったからだよ」


妖精は基本食事などしないが、魔力の宿ったものを摂取する事があるらしい。


「そうか、勘違いか……ゴメンルーちゃん」


「ううん、ワタシも悪かったよ、ちょっと妖精をこき使い過ぎたかも」


共に反省する二人。


「よし、じゃあ日が暮れる前に戻らなきゃならないから急いで帰ろう」


牙と爪と魔晶核を袋にぎゅうぎゅう詰にして急ぎ帰路へと就く。

クエスト報酬にモンスター素材、冒険者になって初日の成果としては上々だろう。

シュン達の足取りは軽かった。


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