表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

米坂邸(b)

リンゴーン。


俺、……時枝響平ときえだ きょうへいは、十七時に米坂邸のチャイムを鳴らした。

しばらく待っていると、どこからか人の声が聞こえた。


『はい』

「どうも、成宮時計店から時計の修理のご依頼でうかがいました」


どこにマイクがあるのかわからなかったので、俺はそう大声で言った。

ほどなくして、使用人らしき老紳士がそとに出てくると、大きな門を開いてくれた。


「お待ちしておりました、こちらです」


紳士にうやうやしく頭を下げられる。

俺は気恥ずかしさを感じながらも、米坂邸の敷地内に足を踏み入れた。


……広大な庭園を、紳士のうしろにつきながら歩く。

正面の屋敷に隣接しているのは、まだ新しそうな建物だ。


エントランスから屋敷のなかに入れば、そとから見た印象と変わらない、広々とした屋敷だった。


「はあ、立派なお宅ですねえ」


俺は廊下を歩きながら思わず紳士に声をかけたが、

紳士にはほほえまれただけだったので、逆に気まずくなってしまった。


先を行く紳士の髪は白髪で、光が当たると少し金色にも見える。

彫りの深い顔立ちから見ても、彼は外国人なのかもしれなかった。


しばらく歩くと、紳士は足を止めてこちらをふり返った。


「修理をお願いしたいのは、こちらの広間の時計でございます」


毛の長いじゅうたんが敷かれた広間には、大きな柱時計が置かれていた。

文字盤を見てみると、たしかに時間が合っていない。


俺は柱時計を見ながらたずねた。


「時計が止まったのは、いつごろから?」

「昨日の朝、確認したときにはすでに止まっておりました」


この柱時計には、振り子がついている。そして振り子時計は、ゆれに弱い。

なにかの拍子に止まってしまうことは少なくないが、ここ最近では大きな地震もなかったはずだ。


「ふうん、歯車のホゾが傷んでいるのかもしれませんね。ちょっと開けてなかを見てみますが、よろしいですか?」

「ええ、お願いします。わたくしは仕事にもどりますが、なにかありましたらお呼びください」


紳士は頭を下げると、広間から去って行った。


「どれどれ……」


俺は手袋をはめると、そっと柱時計のなかをのぞきこんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ