「彼岸花」後編
「ヴィンス様が言っていたことは当たっていたんです。ヴァイオリンが奏でたラブソングには背筋が凍りましたよ」
「じゃあなんで俺に告白させた? 嗤っていたのか?」
「いいえ。任せるのなら貴方が良かっただけです。僕がヴィンス様に勝てるわけがないじゃないですか」
「嫌な奴だ」
唇をへの字に曲げ不満を呈す彼。それに眉尻を下げていれば、和やかな空気が流れた。
王として一息吐いた彼は黒い睡蓮を各地に卸しながら、僕達を探す旅をしていたらしい。
僕達を繋いだ花は偉大だ。例え命が枯れ、朽ち果てたとしても、誰かの心に永遠に在り続けるから。
それが花開いた証になり、命を零した種子が、また次の年に色付く。
命の連鎖とは美しいものだ。記憶という証は尊い。
「お前はどう思う?」
「なにがでしょう?」
「ヴェーン侯爵は、本当は誰の味方だったんだろうか?」
「僕には分かりかねます。〝結果〟彼は我々の味方だった。それではいけませんか?」
彼が徐に瞼を閉じる。表情をなくした顔に僕は総毛立った。
「王と対峙したあの時を覚えているか?」
「それはもう……鮮明に……」
「あの時、王は……父上は一言も喋らなかった。全て侯爵に任せ……いや、あれは本当に任せていたんだろうか?」
「どういう意味です?」
「〝傀儡〟とレイニーが言った」
「はい?」
「酒場で初めて会った時、レイニーは俺に〝傀儡〟になれと言ったんだ」
「何を仰りたいのです?」
「確信はない。だが国政を裏から操っていたのは〝ヴェーン家〟だったんじゃないかと思ってね」
「王は傀儡にされていただけだと?」
「ああ。だから思ったんだ。レジスタンスのことも、俺の優秀さも、レイニーの行動も、全て彼の計画の上だったのかもしれない、と」
「……さすがに考えすぎかと」
「そうかもな……そこで一つ提案がある。ユアン——」
空が遠い。彼の言葉も遠くて、僕は思わず耳を疑った。
「今一度、宜しいですか?」
「帰ってこいと言ったんだ。俺の護衛係は、お前じゃないと務まらない。
レイニーにも官職を与えよう。彼女がいれば国も晴れる」
睡蓮は〝再生〟の象徴だと誰かが言っていた。どこかの国の逸話では太陽を支えていた、とも。
何ものにも染まらない漆黒は、けして闇の色ではない。純粋を保つことの出来る美しい色なのだ。
白皙には漆黒のドレスが合う。
揺蕩う金糸には漆黒の髪飾りが合う。
蒼の双眸を縁取るにも漆黒が合う。
——滅亡なんて二度とさせない。
僕が育てた花を白日の下へ晒そう。艶美な容姿に酔わせてやらなくもない。
「その命、有り難く頂戴致します」
——僕は二度と自らに嘘を吐かない。
——アナタが大切だから。




