第55輪「天竺葵」
「そういうわけだよ。ベルナール。僕達は別に共謀して何かをしようとしてたわけじゃない。ただのエゴさ」
「そう。ならいいんだけどさ。
それにしても前世からの恋人なんて本当にあるんだね。まるで運命だ」
「僕達は恋人じゃない。揶揄わないでくれる?」
「ほんとにそうかな? ここにいる誰もがそう思ったと思うけど? だから怖い顔してたんだよね? ヴィンス、とフィンもかな?」
言葉を詰まらせる二人に溜息を吐く。僕は端から想いの丈をぶつけるつもりなどない。ヴィンス様の背中を押すつもりでいるのだから。
「話は終わりだよね。ベルナール」
「そうだね。夜も深い。そろそろ休もうか」
「少し店を借りてもいいかな?」
「構わないよ」
大口を開けて欠伸をかますベルナールに礼を告げる。彼は後ろ手に手を振ると、ロビンを連れて二階へ上がっていった。
「待って! 私、まだベルナールに訊きたいことがあったのよ!」
「訊きたいこと?」
「ええ! 彼の恋人の〝リー〟について」
「やめてあげてください」
彼女の口から溢れる名が僕の心を軋ませる。悲痛な面持ちで、そう告げれば彼女は目を丸くしていた。
「安心してください。それは貴女のことではありません」
「でも……」
「嘘ではありませんよ。彼は自らの手で恋人を殺めました。間諜の恋人を」
押し黙る彼女は何を思っているのだろう。確かに紛らわしい名前だ。〝リー〟なんてリーリエ様を彷彿させる。
「エレアノーラ様、ヴィンス様が話をしたいと仰ってました。よろしいでしょうか?」
もうこの話は終わらせなければ。断腸の想いで本題に入ろうと言葉を象れば、ぎこちなく頷く彼女がいた。
「え、ええ。構わないわ」
「その間にフィン、話がある」
「分かった」
エレアノーラ様に背を向け、奥の部屋に行こうとフィンに合図を送る。大人しく従う彼と共に歩んでいれば、すれ違い様に腕を掴まれた。相手は見ずとも分かりきっている。
「どういうことだ。俺は話なんて……」
「想いを告げられずにいれば後悔するのはヴィンス様ですよ。最初で最後の進言です。エレアノーラ様に想いをお伝えください」
「お前も好きなんだろう!? それも前世から!?」
「私の恋は彼女が亡くなった時に終わりました。そして想い人はリーリエ様。エレアノーラ様ではございません」
「ユアン……」
「御武運を」
徐々に緩くなる拘束を振り解き、僕は赤いカーテンを潜る。一度奥の部屋まで抜けると、気配を消して再び部屋へと舞い戻った。
「ユアン、話があるって!?」
「静かに。それは方便だよ」
「のぞき見とか趣味悪いぞ」
「違うよ。現実を見せにきたんだ。フィンにね」
吃驚を零す彼を見据え、次いで二人に視線を戻す。カーテンの隙間から様子を伺っていれば、フィンの苦し気な声が聞こえた。
「どういう意味?」




