第49輪「夢百合草」
「エレアノーラ・ヴェーン=テンペスト=ステュアート。反逆の罪で拘束させて頂きます」
羊紙を胸元に掲げた男が衛兵を引き連れ私に罪を突き付ける。吃驚に目を瞠っていれば、フィンが私を庇うように間に割り込んだ。
「そんなものは冤罪だ」
「しかし令状が下っています」
「レイニー様は、そんなことしていない」
「これは任意ではありません。そしてフィンレイ・ミルウッド。貴方にも容疑が掛かっています。此れより、お二方を拘束後、護送致します。抵抗はなさいませんよう」
「嫌よ。そんなもの身に覚えはないわ」
「やれ」
「触らないでちょうだい! 無礼者!」
私の抵抗などものともせず、両手に枷が付けられる。フィンも早々に取り押さえられ私は唇を噛んだ。
「すみません。お嬢様は一人で身の回りの世話が出来ません。無実が証明されるまで私が傍仕えをしても構わないでしょうか?」
「お前は誰だ?」
「ヴェーン家の従僕をしております」
「勝手にしろ」
「乱暴な人達ね……」
数多の足音に囁きが掻き消される。「お嬢様は無実ですよ」と使用人を励ますロビンの声が背中越しに響いていた。
「どうだった? 中々の演技だったろう?」
「ベルナール。もう少し優しくてもよかったと思うわ」
「いやぁ、早くしないとフィンが暴れ出すんじゃないかと思ってね。実際あの状況ならエレアノーラ嬢を連れて逃げるでしょ?」
「作戦中にそんなことはしない」
「そう? にしても、美少年の機転には恐れ入ったよ。あの屋敷から、どうやって連れ出そうか、いい案が無かったからねぇ」
「とか言って。ベルは、あの屋敷に俺を置いてくつもりだったくせに」
馬車に乗り込むやいなや言葉の応酬が始まる。付けられた枷はロビンの手によって素早く外され、いつしかフィンの両手も自由になっていた。
「書状は書いたかしら?」
「いや。やはり俺達は俺達のやり方でやろうと思う。全面戦争だ」
「犠牲は最小限に抑えるつもりと言っていたじゃない!」
走り出した馬車が振動する。感情に身を任せて叫び散らせば嘆息するベルナールがいた。
「だから誰も殺させない。それよりエレアノーラ嬢、あの屋敷から連れ出す条件、忘れたわけじゃないよね?」
「勿論。約束は守るわ。ただし全員揃ってからよ」
衛兵に扮した彼らが私を罪人として連れ出し拐す。嘘はすぐにばれるだろう。だが、それでいいのだ。
私が加担していたことを明かすのは終戦後。貴族は襲撃の的となるし、最悪の状況になった際、私は人質として利用される。侯爵令嬢に、どれほどの価値があるかは測り兼ねるが悪い案ではないだろう。
私は最後まで奇襲をよしとしなかった。開戦を露わにしない諍いでは無駄に犠牲者が出るからだ。しかしベルナールは頑として首を縦に振らなかった。
リーダーは彼である。ならば従う以外あるまい。蜂起の準備は整った。あと一つ解くべきは、あのことだけである。




