表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/76

第47輪「鈴蘭水仙」

「とてもいい判断ね」


「恐れ入ります。ですが、やりすぎでは?」


「私を誰だと思って? 悪しき令嬢としてあのくらい何でもないわ。

 それに、あそこまでやれば二度と顔を合わせたいとも思わないでしょう? 詮索されるのは本意じゃないしね。

 もう敬語はいらないわよ」


「そこまで考えて……だけどやっぱりやりすぎだよ」


「ふふっ、メイドの叫び声聞いた? 笑っちゃうわね。〝あの泥棒猫!〟ですってよ? 今時、泥棒猫なんて言わないわよね? それに私を猫で例えるなら、もっと気品のあるものにして欲しいわ。それこそ……」


「もういいよ。演技はそこまでで……」


「あら、言い逃れしないのね?」


「レイニーを騙せるなんて思ってないよ。それに、あのまま退室したのは俺の為だよね」


「思い上がりよ。早く屋敷に戻りたかっただけだわ。……と、言いたいところだけど、女の子(レディ)を、そんな格好のまま立たせる訳にはいかないもの」


 濡れたシャツが胸元に密着している。透けているのは晒。胸部は僅かに丸びを帯び、とても〝男〟の身体には見えなかった。


「はじめからおかしいとは思っていたの。その身長で声変わりをしていないんですもの。でもロビンが女の子なら納得がいくわ。このことを知っているのはベルナールだけね?」


「うん。酒場で働くのは危ないから性別を偽るように、って」


「一杯食わされたわ」


 不安げに肩を揺らす彼女に微笑を向ける。普段から色のない顏は蒼白で、怯えているような眼差しは羊のようだった。


「誰にも言わないわよ。女の子同士仲良くしましょう? 貴女が誰でもレジスタンスのメンバーには変わりない。むしろ唯一の同性ね。面白いじゃない」


 ベルナールが彼女を私のもとへ送り込んだのは、先の理由もあるのだろう。

 けれど、一番の理由は彼女を危険な目に合わせない為。親心といったところか。


 決行日を決めてからの時間は危険が増す。もしもレジスタンスのメンバーにスパイが混じっていれば摘発の危険があるし、全員絞首台送りなのは否めないだろう。


 けれど場にさえ存在しなければ、いくらでも言い逃れが出来る。恐らくベルナールは彼女が本当に大切なのだ。


「ベルナールは優しい人ね」


 私の呟きに彼女の頬が染まる。目を伏せたロビンは何を考えていたのだろう。


「あの人は優し過ぎるくらいだよ……なのに、どうして恋人を殺したのか……」


「どういうことなの?」


「分かんない。ただ1年に1度ベルが酔いつぶれるまで飲むことがあるんだ。それで……俺……名前を……」


「名前?」


 林檎のように熟した顔に疑問符を浮かべる。彼女の言葉を反芻すると目が泳いでいた。


「ここまで話したんだから話してくれないと困るわ」


「……さ……だ……」


「え?」


「だから……! ……れたんだよ……」


「はい?」


「〝リー〟って呼ばれてキスされたんだよ‼︎」


 あまりにも唐突な告白に瞠目する。〝へ?〟と間の抜けた声を出せば、更に顔を真っ赤にさせるロビン。それよりも〝リー〟という呼び名が気になった。


「とりあえずコレを羽織ってなさい。屋敷までは、もう少しよ」


 自らのコートを手渡し深く息を吐き出す。続きを促せば彼女は己を落ち着かせるように深呼吸していた。少しずつ赤みが引いていく。

 何故、今そんなことを言ったのかは気になるが、興味深い話だった。


「ありがとう。

 詳しくは分からないけど……他にはこう言ってた。『良かった。生きてたんだ』『俺だって殺したくなかった』『掟だから仕方なかったんだ』『好きだよ。リー』

 まだあるけど呂律が回ってなくて……」


「そう……どうして今なの?」


「え?」


「今までも言う機会があった筈でしょう? なのにどうして〝今〟なの?」


「俺なりに考えたんだ。シュプギーの正体を」


「答えは見つかったかしら?」


「全然。でもピースが足りないようには思えたんだ」


 自らを嘲笑してから真っ直ぐ此方を見据えるロビン。美しい双眸をを見つめ返していれば、ふわりとした笑みを向けられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ