第47輪「鈴蘭水仙」
「とてもいい判断ね」
「恐れ入ります。ですが、やりすぎでは?」
「私を誰だと思って? 悪しき令嬢としてあのくらい何でもないわ。
それに、あそこまでやれば二度と顔を合わせたいとも思わないでしょう? 詮索されるのは本意じゃないしね。
もう敬語はいらないわよ」
「そこまで考えて……だけどやっぱりやりすぎだよ」
「ふふっ、メイドの叫び声聞いた? 笑っちゃうわね。〝あの泥棒猫!〟ですってよ? 今時、泥棒猫なんて言わないわよね? それに私を猫で例えるなら、もっと気品のあるものにして欲しいわ。それこそ……」
「もういいよ。演技はそこまでで……」
「あら、言い逃れしないのね?」
「レイニーを騙せるなんて思ってないよ。それに、あのまま退室したのは俺の為だよね」
「思い上がりよ。早く屋敷に戻りたかっただけだわ。……と、言いたいところだけど、女の子を、そんな格好のまま立たせる訳にはいかないもの」
濡れたシャツが胸元に密着している。透けているのは晒。胸部は僅かに丸びを帯び、とても〝男〟の身体には見えなかった。
「はじめからおかしいとは思っていたの。その身長で声変わりをしていないんですもの。でもロビンが女の子なら納得がいくわ。このことを知っているのはベルナールだけね?」
「うん。酒場で働くのは危ないから性別を偽るように、って」
「一杯食わされたわ」
不安げに肩を揺らす彼女に微笑を向ける。普段から色のない顏は蒼白で、怯えているような眼差しは羊のようだった。
「誰にも言わないわよ。女の子同士仲良くしましょう? 貴女が誰でもレジスタンスのメンバーには変わりない。むしろ唯一の同性ね。面白いじゃない」
ベルナールが彼女を私のもとへ送り込んだのは、先の理由もあるのだろう。
けれど、一番の理由は彼女を危険な目に合わせない為。親心といったところか。
決行日を決めてからの時間は危険が増す。もしもレジスタンスのメンバーにスパイが混じっていれば摘発の危険があるし、全員絞首台送りなのは否めないだろう。
けれど場にさえ存在しなければ、いくらでも言い逃れが出来る。恐らくベルナールは彼女が本当に大切なのだ。
「ベルナールは優しい人ね」
私の呟きに彼女の頬が染まる。目を伏せたロビンは何を考えていたのだろう。
「あの人は優し過ぎるくらいだよ……なのに、どうして恋人を殺したのか……」
「どういうことなの?」
「分かんない。ただ1年に1度ベルが酔いつぶれるまで飲むことがあるんだ。それで……俺……名前を……」
「名前?」
林檎のように熟した顔に疑問符を浮かべる。彼女の言葉を反芻すると目が泳いでいた。
「ここまで話したんだから話してくれないと困るわ」
「……さ……だ……」
「え?」
「だから……! ……れたんだよ……」
「はい?」
「〝リー〟って呼ばれてキスされたんだよ‼︎」
あまりにも唐突な告白に瞠目する。〝へ?〟と間の抜けた声を出せば、更に顔を真っ赤にさせるロビン。それよりも〝リー〟という呼び名が気になった。
「とりあえずコレを羽織ってなさい。屋敷までは、もう少しよ」
自らのコートを手渡し深く息を吐き出す。続きを促せば彼女は己を落ち着かせるように深呼吸していた。少しずつ赤みが引いていく。
何故、今そんなことを言ったのかは気になるが、興味深い話だった。
「ありがとう。
詳しくは分からないけど……他にはこう言ってた。『良かった。生きてたんだ』『俺だって殺したくなかった』『掟だから仕方なかったんだ』『好きだよ。リー』
まだあるけど呂律が回ってなくて……」
「そう……どうして今なの?」
「え?」
「今までも言う機会があった筈でしょう? なのにどうして〝今〟なの?」
「俺なりに考えたんだ。シュプギーの正体を」
「答えは見つかったかしら?」
「全然。でもピースが足りないようには思えたんだ」
自らを嘲笑してから真っ直ぐ此方を見据えるロビン。美しい双眸をを見つめ返していれば、ふわりとした笑みを向けられた。




