第31輪「苺」
「お前は何故、宝石に目を付けたんだ」
「藪から棒にどうなさったの? というか、知ってらしたのね? 私が何故ガストン様を選んだか」
「分からないという方が無粋だ。むしろ分かりやすかった」
「フィンは分からなかったわ」
「レジスタンスの連中には分からないだろうな。勿論、俺が協力しなかった理由も」
「未来が見えないからでしょう? だから私は貴方が此方側に落ちてくるように仕掛けた。結果、貴方は気付いてくれたわ。私のサインにね」
「悪くなかったよ。でも、どうして、それに気付いた? きっかけは無かったのか?」
「お腹が空いたって物乞いしてくる子供がいたのよ。ヴィンスなら何をあげる?」
「お腹が空いたって言ってたなら食い物かな」
「言ってなかったら?」
「物乞いなんて金か食い物だろ」
「そう……そうよね。でも私は花をあげたの?」
花? と素っ頓狂な声を出すヴィンスは、食事中にも関わらずテーブルに肘を附いている。それを咎めれば先を急かされた。
「私は花が好きだったのよ。綺麗で、いい香りがして、愛らしくて」
「レイニーは花が嫌いだと聞いたことがある」
誤魔化されているとでも思ったのだろうか。彼は顰め面で皿にフォークを突き立てる。私はそれを笑顔でいなし、続きを紡いだ。
「私が好きな花を両手一杯に抱えてたら、小さな声で『ちょうだい』という声が聞こえたの。小汚い子供だったわ。女の子だったし、私は花を分けてあげたの。けれど周囲の人間は悪意の籠った目で私を見たわ」
前世の私は本気で物乞いの子供達が花を欲しがっているのだと思っていた。
「私には、その理由が分からなかった。折角、差し上げたのに失礼な人達だわってね。
けれどフィンがとった行動は私と全然違うものだったのよ」
「食い物をあげたのか?」
「ええ。その時、初めて分かったの。民が求めていたものと私が求めているものは違うのだ、と。
私が花を慈しんでいる時間は、誰かが生きたいと嘆いている時間なのかもしれないって。
だから私は立ち上がったのよ。民の〝心〟を知りたいから。本当の意味で寄り添いたいって思ったから」
「随分な美談だな」
「時には美しい話も必要だと思ったのだけれど、お気に召さなかったかしら」
「普段なら笑い飛ばすところだ。続きがあるんだろ?」
「ふふっ、そこで気付いたの。愛でるものには価値がある、と」
「さっきの今で、どうしてそうなるんだ」
「私が何故、子供に花をあげて〝それでいい〟なんて馬鹿なことを思ったか分かるかしら?」
質問を投げかけ、ベーコンにナイフを入れる。すっかり冷めきった食事でも美味しいと感じる程、旨味の溢れた味だった。
オムレツにも手を伸ばす。フォークを突き立てれば、ヴィンスの降参する声が聞こえた。
「笑ったからよ」
「笑っていたのか?」
「ええ。だから馬鹿な私は自分の選択が正しかったと思い込んでいた。
確かに少女は花に一時、癒されたのかもしれないわ。けれど、それは〝一瞬〟であって何も解決しない。空腹が満たされたりはしないのよ。花は所詮、空腹な人間にとって〝戯れ〟にもならない」
「確かにな」
「裏を返せば、腹が満たされた人間にとっては〝戯れ〟になるということよ」
「ならば花で良いではないか」
「分かってらっしゃるくせに、そんなこと言わないでくださる?」
「成る程ね。保管が出来て、貴族が持っていても怪しまれない。更には永遠に価値の変わらない資産」
「ええ。石油、金、宝石。これらは戦争を起こせるほどの付加価値を備えている。言うなれば万国共通で、みーんな喉から手が出る程欲しいモノというわけ」
「さすが悪女」
「褒め言葉ね。他国の人間にとって、他国の争いなど些末な事象に過ぎないわ。飛び火が来なければいいと思っているだけ」
前世で王族が出した早馬は意味を為さなかった。レジスタンスが根回しをしていたからではない。〝勝者〟に取り入るつもりだったからだ。
つまり協定を結ぶ国においてトップなど誰でも構わないということ。勝者こそが王座に就くべき、とでも言うのだろうか。
「私達に宝石を愛でる余裕が無くとも、他国の民にはあるの。〝戯れ〟の時間がね。
それを餌に再び協定を結んで国を再建する。あちら側だって〝特別〟なのを提示すれば、喜んで受け入れてくださる筈よ」
「お前の言う〝特別〟なんてアテにならないな」
「お戯れを」
「戯れ……か」
疑問が解けてスッキリしたのだろう。食事に精を出した彼に倣うように私も朝食を口に運んだ。
恐らく、この国の王族も隣国に早馬を出す。けれど、そんなことはさせない。〝もしも〟の綱は切り取っておくべきだ。
フィンに薙ぎ倒させ、助けなど呼ばせない。
そして罪を刻み込むのだ。
私には出来なかった償いを共にしようではないか。王の名の下に集った愚かな血族よ。




