第27輪「狐の手袋」
「ロビン」
「なんですか?」
「レイニー様から餞別だ」
「ハンドクリームですか?」
「ああ。鍛錬は積んでるか?」
「恙なく」
「じゃあ、お願いがある。いや、初任務とでも言うべきかな」
「俺がですか?」
「ああ。嫌か?」
「いえ、とても嬉しいです。ベルは俺を認めてくれませんでしたから」
天使のような彼が僅かに目元を緩める。窓から覗く朝日が聖なる光のようで、ただの酒場が劇場のように思えた。
ハンドクリームに伸ばした手は真っ赤だし、関節はひび割れてしまっている。冷水の所為もあるのだろうが、真っ赤に染まったそれは痛々しく、美しい顔とアンバランスに思えた。
白魚の手を携えていてもおかしくない容貌だ。健気な姿を想像して掻き消す。
彼は天使でも無ければ、聖人君子でもない。口の悪さがそれを物語っていた。
「そんなことはないさ。美少年はレジスタンスの一員。だから任務内容も含めて特別に〝例の手紙〟を見せてあげよう」
「レイニーに届くっていう差出人不明の手紙か」
「ああ、レイニー様は毎度答えが分かってるみたいだけど、けして教えてはくれない」
「怪しいよねぇ。そんなに知られちゃいけない〝秘密〟があるのかな?」
「ベルナール」
「侮辱してるわけじゃないよ。可能性を提示したまでさ」
唇を撓らせるベルナールが何を考えているのか分からない。ただ、こういう時は大抵〝悪戯〟しようとしているのだ。
彼の表情はそれを物語っており、頭が痛くなりそうだった。
「コレは昨晩届いた。ホヤホヤの代物です。いつもはエレアノーラ嬢に届けておしまいですが、今回は彼女の手に渡さず俺達で謎を解明したいと思いまーす!」
アーミーナイフを用いたベルナールが封を切る。中から紙切れを取り出した彼は封筒の中も隈なく見ていた。
「特に仕掛けはない、か。秘密裏に何かの受け渡しをしてる様子もないないなぁ」
「おい! コレは!」
「責任は俺が取る。エレアノーラ嬢には〝ベルナールが勝手にやったんだ〟って言っといて」
「だけど……」
「この程度で協力関係を破綻させるなら結局それまでだったってことだよ。
彼女が俺達を選んだんじゃない。俺達が彼女を見定めるんだ。どちらが上なのか、それはハッキリさせなくちゃ」
「でもそれでレイニー様が協力関係を放棄したらどうするんだ?」
「んー、やばいね。資金提供は受けれなくなるしヴィンスも危ういかなぁ」
「ヴィンセント様が?」
「うん。恋してるみたいだったからね」
恋、とはなんのことだ。口を開け呆けていれば、ベルナールが〝しまった〟とでも言うように苦笑した。
「気付いてなかったの? まぁ本人も気付いてないみたいだし? 大丈夫じゃない?」
「何が大丈夫なんだ……」
「フィンも好きでしょ? エレアノーラ嬢のこと」
「……ッ……レイニー様は主として大切なだけだ」
「そう? そんな風には見えないんだけどなぁ」
「あのさ、フィンを揶揄ってないで早く続きを話して。眠いんだけど」
「じゃあ謎解きをはじめますか」




