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第23輪「唐菖蒲」

「フィン、私は大丈夫よ」


「レイニー様」


「二度は言わせないで。靴を持ってきてちょうだい」


「分かりました」


 押し倒された際、ベッド脇に散乱した靴を手に彼は跪く。慣れない手つきで靴を履かせる様は申し訳なさを如実に表していた。


「レイニー様……」


「大丈夫だと言ったでしょう」


 何故、彼が泣きそうな顔をしているのだろう。眉を顰め、何か言いたげにしては口を閉ざすフィン。

 私はそれを無視して、ガストン様の前に立った。


「ガストン様、御自分が何をされたか分かっておいでかしら?」


「……ッ……申し訳ありません」


「ねぇ王子、私が彼の首を撥ねたいって言ったら撥ねてくださる?」


「ああ。美しい君の頼みなら喜んで」


「そう。良かったわ」


「エレアノーラ様……! どうか命だけは……!」


「命を欲しいとは言ってないわ」


「え……?」


 私の表情を確認するかのように顔を上げるガストン様。無表情のまま冷たい眼差しで見降ろしていると、視線が絡んだ瞬間、彼は再び頭を下げた。


 土下座なんて情けないと思わないのだろうか。


「私は首が欲しいと言ったのよ」


「……ッ……!? なんでもします! ですから、どうかそれだけは……!」


「本当に何でもしてくださるの?」


「はい!」


「二言はない?」


「勿論です!」


「でしたら〝ガストン様〟を頂戴?」


「それは……どういう意味でしょうか?」


 腕を組み冷笑を浮かべる。力強い声を繕うのは正直辛かった。


「革命を起こそうと思うの」


「革命……?」


「ええ。勇者になってみないかしら」


「私が、ですか?」


「ガストン様が」


「もしかして……今迄の言葉は全てこの為に仕組まれていたとでも言うのですか……?」


「そうよ」


「貴女は王子すら味方につけて、それをなさると?」


「そうだ。尤も断ったら死ぬだけだがな」


「どうなさるの?」


 ヴィンセント様が肯定し、私が急かす。答えなど一つしか残されていなかった。


「……ッ……その命、有り難くお受けいたします」


「よし、終わったな。これからよろしく。ガストン」


「え、は、はい」


 首を垂れるガストン様に、白皙の掌が差しだされる。王子の行動に驚愕しながらも、彼はその手を取った。


「まだ終わってないわ。ガストン様、代わりのドレスを用意してくださる?」


「勿論お好きなのを……ですが何をなさるつもりです?」


「夜会だもの。踊るのよ」


 唖然としている男達を追い出し、急いで着替える。

 そうして私達は仕組まれた邂逅を経て、足を踏まれながらのダンスを終えたのだった。

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